第131話「ミリアンとカミーユが大事だ!」
ソヴァール王国ワレバットの街……
この大陸でも大都市の範疇には入るのだが、人口5万人強の王都オルドルよりも、やや少ない、人口3万5千人余の人々が暮らす街である。
周囲には人間が住む小さな町や村だけでなく、魔物や肉食獣が跋扈する森林や原野が広がる。
また古代王国の遺跡や洞窟も点在。
少し離れた場所には、フォルミーカの大迷宮には到底及ばないが、
何者かが築いた深き迷宮もあった。
ワレバットの外壁の内側、街の様相も、王国の大都市、中小都市とほぼ同じである。
中心に大きな広場を据え、広場から放射線状に延びた道路が様々な区画を分け、
その区画の中で、人々は身分、職業など様々な立場でまとまり、暮らしていた。
「ええっと、ワレバットの街って、王都とあまり変わらないような……でもどこかが違います」
「ははは、そうだな。リオ君にはどこがどう違うのか分かるかい?」
モーリスに言われ、リオネルは街中を見回した。
すぐに大きく頷いた。
「ええ、分かります。王都に比べれば、冒険者向けの店がやたら多いです。しかも怪しそうな店も多いです」
「ふむ! その通りだ。ちなみに武器屋、魔道具屋、魔法薬屋、仕立て屋、宝石店、金銀細工店、古道具屋、古着屋、質屋、金貸し屋などは勿論、食料品店、生活必需品雑貨の店、レストラン、酒場、カフェ、カジノも王都より遥かに多いのさ」
「成る程、確かにそうですね! 王都よりも、『戦いと娯楽の街』という感じが強いです」
「ふむ、『戦いと娯楽の街』か、『冒険者の街』よりも言い得て妙かもしれん。そしてだな、私モーリスとリオ君の共通点は何だね?」
モーリスはいきなり話題を変えた。
リオネルは少し考えてから答える。
「ええっと、……魔法好き同士……ですか?」
「大当たりだ! まずは『イケメン』と言って欲しかったがね。ははははは。というわけで、先ほど敢えて言わなかった店へ行こう」
「敢えて言わなかった店」と告げたモーリス。
リオネルはすぐにピン!と来た。
「敢えて言わなかった……書店……ですね?」
「うむ、またまた大当たりだ。このワレバットの街には王都に勝るとも劣らない書店通りがあるのだ。古書店も混在しておる。特に魔導書の品揃えは、王都以上なのだ」
「了解です! レッツ、魔導書探しですね。まずは、書店通りへ行きましょう!」
「ああ、良い返事だ。行こう!」
ワレバットの街を勝手知ったモーリスの先導で、リオネルは書店街へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
書店通りで、何軒かの書店をはしごした後……
リオネルとモーリスは中央広場内の市場で露店が建ち並ぶ一画に来ていた。
これまたモーリスの誘いで、オープンスペースで露店の料理ランチを誘われたのである。
ふたりは、串焼き肉、ミートパイ、魚フライ、ラグー、サラダ、紅茶などを購入し、
フードコート仕様の共用テーブルで、舌鼓を打つ。
「うまいっすねぇ!」
「ははは、だろう? 王都の露店も美味しいが、私はワレバットの方が好みだ。マニアックな料理が多い」
「確かに!」
書店では、目当ての魔導書もろもろが買えて、ふたりとも上機嫌だ。
手元には数冊しかないが、リオネルとモーリスは各自10冊以上魔導書を購入し、『新居』へと送っていた。
「モーリスさん、俺、買いたかった召喚術の魔導書が何冊も買えました。ギルドの講座で勉強と修行し直して、何とか習得したいです。それとワレバットの街周辺の精密な地図も買えて良かったです」
「ああ、私もだ。以前売ってしまった本を何冊か買えて満足だよ」
「え? 以前売ってしまったとは? 過去に所有されていたって事ですよね?」
「うむ、そういう事だ。今回購入した魔導書はな、以前所有し、とても大事にしていた本なんだよ。だが王都を旅立つ際、まとめて売ってしまった」
「え? まとめて売った?」
「うむ、長年収集し、所有していた魔導書、数百冊を全て売った。重くてかさばるし、何よりも旅の資金が必要だったからな」
「所有していた魔導書、数百冊を……旅の資金にしたの……ですか」
「ああ、ミリアンとカミーユを連れて旅をする為には、そこそこの金が必要だった。だから売った。装備一式もろもろ、生活用品等々、食料、馬車と馬も買ったからな」
「……………」
「本はまた買えば良い。もし見つからなくても、構わない。残念だが後悔はしない。本よりも、ミリアンとカミーユが大事だ!」
きっぱりと言い切るモーリスの言葉を聞き、リオネルは記憶が甦る。
モーリスは、新居の家賃、買い物、そして講座受講の料金が予想以上にかかると知り、臆するミリアンとカミーユへ、
……「ははは、構わん構わん! 大丈夫、大丈夫! 講座の受講はお前達の修行の基礎となる。支払うのは
と、何のためらいもなく言い切った。
普段口喧嘩をしても、モーリスはミリアンとカミーユをとても深く慈しんでいる。
否、戸籍上ふたりを養子にしているほどだ。
『自分の人生をミリアンとカミーユへ奉げている』と言っても過言ではない。
羨ましい!
と思いつつ、自分も『兄』として、ミリアンとカミーユに力を尽くしてやりたいとも考える。
物思いにふけるリオネルへ、モーリスがすまなそうな表情となる。
「申し訳ない。今の発言が気にさわったら謝る。けしてリオ君をないがしろにはしておらんよ」
いきなり謝罪するモーリス。
言葉が途切れたリオネルが、「ミリアンとカミーユが大事だ」と言われ、
「気分を害した」のだと勘違いしたらしい。
「え?」
「言い訳がましく聞こえるかもしれないが……私は今やリオ君も、ミリアンとカミーユと同じくらい、かけがえのない存在だと思っている」
「モーリスさん……」
「ははは、私も基本は『ぼっち』なのさ。これまで生きて来てパトリスと数人以外、こうやって腹を割って話せる相手が居なかったからな」
「……………」
「リオ君は若いのに、こんなおっさんの『愚痴聞き役』にして申し訳ないが、たまに付き合ってくれると助かるよ」
「……いえ、こちらこそ宜しくお願いします」
食事が終わって話題は変わり、紅茶を飲みながら、
「午後はどこへ行こうか?」という内容となる。
「リオ君は、次はどこへ行きたい?」
「ええっと……魔導書は満足の行くまで見ましたから、魔道具屋、魔法薬屋、あと回れたら武器屋ですかね。武器屋では魔法が
補足しよう。
付呪魔法は、召喚魔法と同様、リオネルが未習得で憧れる魔法のひとつだ。
「ははははは、見事に魔法関係ばかりだな。やはり私とリオ君は、間違いなく魔法好き同士、いや、魔法オタク同士だ!」
「魔法オタク同士、確かにそうです! ははははは!」
リオネルとモーリスは互いに納得し、大笑いしたのである。
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