第67話「納得させた!」

クレマンの話というか、熱を帯びた『演説』は終わり……

とりあえず「解散」という事となった。


だが、クレマンの言葉で心に火をけられた形の、アルエット村の村民達が収まるはずもなく……

リオネル指導の戦闘訓練の参加希望の申込者が、クレマンの下へ殺到、

長蛇の列となった。


当然ながら、リオネル、エレーヌ、アンナも手続きを手伝う。

と、そこへ!


自警団所属の門番、少年ドニが、肩を怒らせ、仲間の少年ふたりとともに現れる。


しかめっ面のドニは、全然「納得していない」ようだ。


「おい、リオネル! 俺と勝負しろ! よそ者の癖に、いきなりウチの村の英雄になりやがって! 冗談じゃねえ!」


ドニの物言いを聞き、クレマンが慌てて諭す。


自身が、これまでリオネルに散々無礼を働いていた。

だからこそ! ドニの愚かさが身に染みるのだ。


「こ、こら、ドニ! 何て事を言うんだ! 村の恩人に失礼だぞ!」


しかし、ドニは不快そうに鼻を鳴らし、そっぽを向く。


「ふん!」


「ごら! 何だ、その態度は! ワシが確かに、オークを倒すシーンを見届けた! 死骸しがいの数まで、ひとつひとつ数えたのだ! 第一、お前がリオネルさんに敵うはずがない!」


ドニは舌打ちし、クレマンの話を聞き入れようとしない。


「ちっ! 何だよ、村長! コイツに上手く言いくるめられやがって! 裏切者!」


「ドニ、リオネルさんと戦ったら大怪我するわ!」

「そうだよ! オークみたいにバコーンとやられちゃうよ! リオにいちゃんに勝つのは、絶対に無理だって!」


エレーヌ、アンナも、リオネルとドニの『勝負』に猛反対するが……

ドニの苛立ちに対して、火に油を注ぐ形となる。


「うっせぇ! うっせぇ! このままじゃ! 村で一番強い、最強の、この俺が全然納得しねぇんだよ!」


「そうだ! そうだ! ドニさんはこの村では最強なんだぞ! 悔しかったら、ドニさんと戦ってみろ!」

「村長だけじゃなく! 俺達にも強い証拠をはっきり見せろ!」


アルエット村では最強……

『根拠のない自信をふりかざす』自称ローカルチャンピオン。

ドニは全く譲らず、仲間の少年達も追随した。


勝負って……と、リオネルは困惑する。


さすがに、自分とドニ達の実力差は、はっきりしている。

下手に戦って、怪我をさせたらまずい。

魔法を使うなど論外だ。

スキルを使うのも、いろいろと突っ込まれて、後の説明がややこしい。


と、なれば!


シンプル、手間いらずで分かりやすい。

すぐ勝負がつく。

そして余計な金もかからない。


ぱぱぱっと、リオネルは良案を思いつく。

彼の視線の先には、どん!と置かれた、ワインを貯蔵する為の大きな空き樽があった。


リオネルは勢い良く、挙手をする。


「村長、俺に考えがあります。……あのワインの空き樽をお借りして宜しいですか?」


「ワインの空き樽を? それは構わんが……」


一体、何をする気だろう?


ナラ材で造られたワイン樽は、結構重い。

多分、80㎏以上……もしかしたら100㎏近くあるかもしれない。

その場の全員が注視する中、リオネルは空き樽を取りに行き、軽々と持ちあげて、

運んで来た。


「わお! リオにいちゃんは力持ちぃ!」

「本当ね! 凄いわあ!」


という、エレーヌをアンナのフォローの中、


「よし、じゃあ、腕相撲で勝負だ!」


リオネルはそう言い、面白そうに笑った。


……実は冒険者の間で、トラブルになった際、腕相撲勝負は結構行われていた。

武器を使った決闘、殴り合い、などに比べ、致命傷を負ったり、血が流れたりするリスクが少ないからだ。

そして、おおがかりな用意も不要。

決着もすぐつく。


しかし、ガチで戦う気になっていたドニ達は納得しない。


「はあ? う、腕相撲だと!? ふざけんなあ! ぬるいぜ、そんなのぉ!!」


「そうだ! 何だよ! それは!」

「腕相撲? おいおい! びびったのかよ!」


吐き捨てるように言い放つドニ達は、猛反発するが……


「ほう! ナイスアイディアだ! 名案じゃないか、ドニ! 日頃から、村一番だ、村最強だと、力自慢するお前が逃げるのか?」


「ぐ! な、何だとぉ!」


にやっと笑うクレマンからそう言われ、ドニは退くに退けなくなり、

大勢の村民達が見守る中、リオネルと、腕相撲で勝負する事となった。


審判役を買って出たクレマンが、大きく声を張り上げる。


「ようし!! ふたりともしっかり手を掴め! 正々堂々と戦え! ズルは、絶対にナシじゃぞぉ!」


ワイン樽の上部板を『リング』に見立て、リオネルとドニは肘をしっかりと付け、

手をがっしり組み、戦いは始まった。


しかし……結果は見えていた。


冒険者ギルドで鍛えに鍛えた上……

チートスキル『見よう見まね』で猪、馬のパワーを得た、リオネル。


『村で最強レベル』の内弁慶なドニ達では……

努力し、叩き上げ、遂にはランカーとなった、リオネルに敵うはずはなかった。


ダン!!

ドン!!

ダム!!


ダン!!

ドン!!

ダム!!


ダン!!

ドン!!

ダム!!


ドニを含め仲間ふたりの少年3名と勝負し、リオネルの30戦30勝!!

加えて、全てが1秒以内の瞬殺だった。


少し大人げない形となったが、致し方ないと苦笑するリオネル。


こうして……

リオネルは『腕相撲』で完膚なきまでに叩きのめしてドニ達を圧倒。

身をもって文句を言わせず「納得させた!」のである。

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