3.用事

 2月

 俺は今日まで行ったり休んだりそんな感じを繰り返していた。妃奈にもしばらく会えていない。あの後、一緒にゲームしたりとかもなかった。


 そして今日も学校を休んだ。今日は用事があったからだ。


 その用事っていうのは病院に行くことだった。


 親はどちらも働いているから一人。中学生がこんな時間に外を歩いているのはおかしい。そう考える人もいる。暴言を吐かれたこともある。でも俺は休みたくて休んでるんじゃない。行きたいけど行けないんだ。そう言い聞かせて、いろんな人の視線を無視する。


 俺が引っ越してきた理由はこれだ。病気だ。この病気を治せる人がいるのがこの病院だった。でも一人で通うのが大変だったりして、病院の近くに引っ越すことになった。


 受付を済ませて、予約した検査を終えて、待合室で待っていると、診察室のドアが開き、誰かが出てきた。そして俺に話しかけてくる。


「開飛くん。来たんだね。もうすぐだから、待ってて」

「はい」


 俺の担当医の山田先生だ。

 でも山田先生以外にとても意外な人がいた。

 妃奈だった。


「え……妃奈?」

「開飛くん……何で?」


 それはこっちが聞きたい。


「もしかして、二人とも、知り合いなの?」

「ま、まあ……」

「同じ……クラスで……」

「へぇ……じゃあ、開飛くん、準備できたと思うから、さ」

「はい」

「妃奈ちゃん、お大事に」

「はい。失礼します」


 そして診察室の中に入った。



「まさか知り合いだったとはねぇ……」

「俺だってこんなとこで会うなんて思ってませんよ!!」


 山田先生は検査の結果を見ながらそう言った。


 検査の結果は特に前回から良くも悪くも変わってなく、経過観察となった。



「ありがとうございました」

「お大事に~」


 診察が終わり、お会計を済ませて病院を出ようとした時、


「開飛くん」


 誰かに呼び止められた。妃奈だった。


「ねえ、開飛くんも、病気なの?」


 急にそう聞いてきた。

 まあ、病院に来てるくらいだし……でも、病院のエントランスここでそれを言うのもな……


 俺は妃奈の手を引いて、病院内のカフェに入った。




「どうしてまだいんの? 妃奈」

「いるのはいいでしょ。質問、答えてよ」

「ああ。病気だよ。――――――っていうね」


 病気名は囁くくらいの声量で言ったから聞こえたかな……


「え……開飛くんも?」

「もしかして……同じ?」

「うん」

「そうなんだ……」

「……私ね、手術しないと死ぬって言われた。あと、1年後に。それで、手術できるのが、ここだけだった。それで引っ越してきたけど、すぐにはやっぱできないって、言われちゃってさ」


 俺と全く同じだ。俺もあと1年……


「俺も。俺も同じ」

「そう……なんだ……あんまりさ、同じような子、会わないからさ、ちょっと嬉しい」

「俺も」


「……開飛くんはさ、死にたいって思ったことある?」

「……ある。何回も。なんか、仲良くて、さっきまで話してて、すごい頑張ってた子がさ、急になくなっちゃったりとかして、なんで俺じゃないんだろって思ったり……」

「私もあった。そんなこと」


「……妃奈はさ、言うの? クラスの人に、病気のこと」

「言わないつもりではある」

「俺も」

「なんか、前の学校でさ、先生にばらされてさ、嫌だった。だから、もう、先生も信じられない」


 妃奈は泣き出してしまった。


「そっか……そんなこと……あったんだ……大変だったね」

「……ありがと……開飛くん」

「一緒に頑張ろう。妃奈」

「……うん」


 こんなに色々話したのはいつぶりだろうか……

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