消えそうな君と1年の物語

月影澪央

1.転校

 中学一年生 冬

 まだ冬休みになってない。そんな時期に引っ越してくる奴なんてほとんどいないだろう。でも俺はこの街に引っ越してきて、今日からこの学校に通うことになった。


 小学校も中学校に上がってからもまともに学校に行ったことはほとんどない。別に行きたくないわけじゃない。でも行けなかった。


 学校に行っても友達なんていない。いるのは空想の友達くらい。ちょっとおかしいと自分でも思っている。

 どうせ新しいところに来ても、友達なんかできない。そう思っていた。


「転校生を紹介しまーす。桃川ももかわ開飛かいとくんでーす。皆さん新しいクラスメイトと仲良くやっていきましょう!」

「はーい」


 俺は教室に入る。クラスは一年三組。この学年は四クラスあるみたいだった。


「えっと……桃川開飛です。よろしくお願いします」


 自己紹介をする。俺はとりあえず、こういう大勢の前に出るのが苦手だ。今日の朝も何回お腹が痛くなったり、吐き気がしたりしただろうか……


「質問いい?」


 誰かがそう言った。


 こういう質問をしてくるのは大抵がクラスの中心にいるやつだ。陽キャ。俺の苦手なタイプ。


「一つだけですよ」

「おっしゃ、じゃあ……なんか、好きなこととかある? 得意なこととか」

「えっ……えっと……ゲーム、かな、結構やってます……」

「おー、ゲーマーか」


 どういう反応なんだ。『ゲーマーか、凄いな』なのか、『ゲーマーか、陰キャか』なのかどっちなんだ。


「じゃあ、桃川くん、後ろの空いてるとこ、座ってね」

「あ、はい」


 後ろの席、それも一番窓側の席が空いていた。俺はその席に着く。隣は女子だった。まあ、誰だっていいけど。


 朝の会が終わり、最初の授業の準備をしていた。

 そこにさっき質問してきた陽キャ組が話しかけてきた。


「ねえ、えっと、なんて呼べばいい?」

「開飛でいいよ」

「開飛はどこから引っ越して来たの?」


自分は名乗らないのかよ。


「えっと……でも、そんな遠いとこじゃないよ」

「そうなんだ」

「ゲームって、何やってんの?」

「えっと……結構何でもやってる」

「へぇ……」

「部活、なんか入るの? 前の学校で何やってたの?」

「俺、何も入らない。帰宅部」

「そうなんだ。スポーツとか、得意じゃないの?」

「……ま、まあ」

 そこに先生が入ってきた。ナイスタイミング。

「はい、座れー」

「はーい」


 最初の授業は数学だった。


 授業はとりあえずつまんなかった。わかんなくてつまんないわけじゃない。まあ、どんな理由であれ、つまんないことには変わりない。

 小テストを満点で済ませ、授業が終わった。


 その日は何事もなく終わった。友達なんかできるはずもない。俺は一人で家に帰る。その時間に帰る人は誰もいない。部活が強制加入じゃなくてまだよかった。



 その日の夜

 母さんが帰ってきた。そして早速今日のことを聞いてきた。


「今日どうだった? 開飛」

「別に。特になんも」

「友達とかは? できた?」

「別に。作らなくてもいいっしょ」

「明日は? 何があるの?」

「国語、英語、理科、体育、総合、学活」

「明日体育あるの?」

「うん」

「どうする? 明日」

「休む」

「わかった」



 翌日

 俺は早速学校を休んだ。体調不良だ。

 朝から体調が悪い。昨日休むって言ったけどだからというよりはほんとに体調悪い。少し体調が悪いだけで不安になる。俺も、母さんも。

 こんな調子で休んでるから友達もできないんだ。そんなのわかってる。それでいい。すでに諦めてる。友達なんていなくていい。話す人なんていなくていい。必要最低限の関係さえ持てれば、いじめられさえしなければ、それでいいんだ。それで……



 次の日

 今日は学校に行った。終業式だからしょうがなく行った。でもクラスには行かなかった。保健室登校、そんな感じだ。

 一時間だけ行って、帰ってきた。


 冬休みが始まる。休みだから少しは気が楽だ。


 俺は早速宿題に取り掛かる。冬休みの宿題、去年はやらなかったっけ、あんま覚えてない。

 部活がない分、他の人よりやる時間はいっぱいある。やるかやらないかはその人次第だが。


 そしてゲームもいつも通りやる。普通の大人に混じって大会に出るぐらいにはできる。まあ、あいつらよりはできる。


 俺は何を考えてるんだ。あいつらのことなんてどうでもいいんじゃなかったのか……?

 あーもう、なんなんだよ……


 誰かがドアをノックした。


 ん?

 ノックしたのは母さんだった。


「開飛、クラスの子が来てるけど……どうする?」

「え?」


 誰だよ、来る奴なんて。大体、誰がなんで俺ん家知ってんだよ。名前すらまともに聞いてないし。


「追い返してもいいんだよ?」

「いいよ。出るよ」


 俺は外に出た。そこにいたのはいつかの陽キャ組だった。


「お、開飛、てっきり死んだかと思ったよ」

「なんか用?」

「手紙」


 俺は手紙をもらった。学校だよりとか、色々。色々忙しくて手紙ももらってなかったっけ……終業式の日はさっさと帰っちゃったし。


「あ、ありがと」

「開飛、サッカーしない? 今日、もう部活終わったからさ」

「俺はいいよ。得意じゃないし」

「そっか。じゃあね」


 陽キャたちは帰っていった。


 こうやってどんどん溝が広がっていくんだ。


 冬休み明けたら行こう。一回くらいは。

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