朋有り遠方より来たる、亦た楽しからずや

三枝 優

夕暮れの丘

 小高い丘の上。

 東屋にベンチとテーブルが設置されている。


 ここにテーブルクロスをかけ、クッションを置く。


「さぁ、ここでどうかな」

「ああ、ここは眺めが良いな」


 一面の野の花が咲き乱れている。

 まだ新緑と言っていい丘の上を、柔らかくさわやかな風が吹いている。


 皿を置いて、チーズや簡単なつまみをセットする。


「これは、偶然にできたそうなんだがよくできているワインだ。こっちの世界で作ったにしてはよくできている」


 薄いガラスのワイングラスに注ぐ赤ワイン。

 ルビー色が美しい。


「ほお、美しい色だな」


 グラスを持ち上げて香りを嗅ぐ。

 豊潤な中に、野の香がする。


 口に含むと、その香がひろがっていき次々と層をなすように変化していく。


「うむ、見事なもんだ・・・美味しい」

「それはよかった」


 そう言って、丘を眺めながら味わう。


「それにしても、本当にワインを飲みかわすようになるとはなぁ。想ってもみなかった」

「あの時は高校生だったからね」

「それだけではないだろう?」

 苦笑した友人。

 高校の同級生。親友と言っていい。


 卒業してから会うこともなかったが、遠く離れたこの地でまた会うことができた。


「それにしても、こんなところで会えるとはなぁ」

「まったくだ。あの後どうしてたんだ?」


 それからは、お互いたわいのない話。

 高校での思い出話や、近況など。


 夕暮れとなり、星が瞬きだす。

 西の空には、赤い三日月が輝きだす。


「さて、そろそろ行くとするか」

「あぁ。今日は楽しかったよ」


 ニッと笑う友人。


「じゃあ、またいつか酒を飲もう」

「そうだね、その時までにもっと美味しいワインを準備しておくよ」

「それは楽しみだ」


 手を振って去っていく旧友。

 もちろん、また会えるかはわからない。


 でも、きっとまた会うことになるだろう。

 そうあって欲しい。




――――


「ワインありがとう、友人がとても褒めていたよ」

「そおっスか?それは素直に嬉しいっスね。でも、アレはたまたま偶然できた奇跡の一本っスよ。もう期待しないでもらいたいっス」

「いや、今度会うまでにもっと美味いワインを用意しておくって言っちゃったよ」

「マジっすか?」


 ここは、拠点にしている農場、

 ワインづくりを任せているエルザにワインの感想を教えておく。


「それにしても、正気っすか? 何か月も前から丘の上の雑草を切り払って花を植えて、わざわざ東屋まで建てて。

 たった数時間会うために、そこまでする必要あるんすかね?」


 明らかに、変人を見る目で見てくる。


「朋有り遠方より来たる、亦た楽しからずや・・・って言葉があるんだよ。

 向こうの国では、そういう考え方があるんだ」

「ニッポンの”一期一会”って話っスね。でも、アタシにはよくわかんないっス」


 日本に留学してたので、一期一会については知っていたらしい。


「やはりね、友と言うものは大切にしないと。

 次に、また会えるかはわからないからね」


 エルザはため息をついて、あきれたように言う。


「もっと信じられないのが、友人がとんでもない相手ベルゼブルだって事っすよ・・・

 マジ何なんスか。理解不能ですよ」



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