第6話 断罪のグラン

 ある日、グランの元に一通の手紙が届けられた。


 その内容は、グランの領地が自国『ギルラクス王国』の王都から、村や街を挟んで片道8時間と割と近くなこともあり、王都からグランの領地の反対側に面する道で大規模な盗賊討伐をするというものだった。


 王都とグランの領地を結ぶ真逆の街『プーサル』の道中では、盗賊団が頻繁に現れ通行している商人の積み荷や資源を奪い、流通が止まると言う事件が発生した。


 この事を重く捉えた、17代目、現国王『スバイン・サンフィート・ギルラクス』は速やかに物流を再開させるため、配下に適切な指示を与え、迅速に行動が開始された。

 盗賊のアジトを突き止め、進軍も順調に進み、討伐に参加させられたグランの奴隷部隊と連携し、1箇所に盗賊団の団員や人質などを捕らえ、保護し、集めていく。


 続々と捕らえた盗賊を前にした私『グラン』は、周りにいた騎士をはね除け、剣を抜き、盗賊の足に目掛けて1人1人に剣を刺していく。

 突然、前に出て剣を刺している私に、騎士達は何が起きているのか分からず戸惑っている様子だった。


「ギャアァァァー」

「痛てぇーよぉ…」

「殺すならさっさと殺せ」

「なぁ、助けてくれよ…。

 頼むよ…。」

「てめぇ、絶対、ぶっ殺してやる…」


 刺された盗賊が、各々おのおの、口を開き私を睨み付けてくる。


(フンッ。捕らえられた分際で、どうやって殺すと言うんだ。奪う事しかできない者など癌でしかない。早急に身を隠している者も含め、全て捕らえなくては…。)


 私は縄で捕らえられた者の前に立ち、足に剣を突き刺して尋問し、反応を伺う。


『他の場所に仲間は潜んでいないか』

『ここに捕らえられている者で全員いるのか』

『アジトに捕虜などはいないのか』


 目、眉、口元、声量、顔の筋肉緩み、汗の量、質問した返答に掛かった時間、質問に対する身体の動きとタイミング、全てを注意深く見落とさないよう目を凝らし尋問を続けた。

 大体の情報が観てとれたところで、私は十八番おはこ口説くど文句もんくを口にする。


「捕らえられた盗賊の皆様!

 剣を刺してしまい申し訳なかった。

 王国からの要請があり、私も何かしないと国にとがめられてしまうのだ。

 今日捕らえられた皆は運が良い!

 私は奴隷商人だ。

 安心するがいい。

 1人以上殺している者は、犯罪奴隷ではなく護衛奴隷として売られるように、『強靭な戦士』の肩書きを保証しよう。

 特に女や子供を殺している者には、私が護衛奴隷として国から買い取る事を保証する。」


 剣を刺して尋問をしていた男が、奴隷商人だとわかると、奴らは睨む目を緩め、今まで襲った町、殺した数、種族、性別、特徴、犯した人数、など事細ことこまかに覚えている範囲で素直に答え、それを私は持っていた紙に全て書き移した。


 盗賊から聞いた情報を書き移し終えた紙を側にいた奴隷に渡すと、早馬はやうまに乗り、その奴隷は急いで駆けていく。

 捕らえた盗賊の女や子供を牢屋付きの馬車に乗せ終え、鍵を掛けたのを見計らうと、私は馬車を走らせる用に命令した。

 走り去っていく、私の奴隷になる者達の馬車を見送ると、剣をかまえて捕らえられた盗賊の前に歩いていく。


 女と子供を殺し、何人も犯した事があると言った1人の男。

 助かったと思い緩みきっている顔が私の神経を逆撫でする。

 小汚ない細身の盗賊の前まで歩みより、私はその者の腕と足を剣を振り上げ、切り落とした。


「ギャアアアアアァァァァーーーー」


「おい…あれを見てみろ…。」


 苦痛の叫びをあげ、涙と鼻水を垂らしてもがいている男に見せつける。

 そこには、先に到着した私の銀奴隷達が前もって、り終えた、大きく深い穴があった。

 男が自らの切り落とされた、腕と足を苦痛にもがきながら見つめていると、私はゆっくりと切り落とされた肉塊を拾い、大きく深い穴の中に放り投げ入れた。


「ああぁぁぁぁぁぁーーー」


「はっ、話と違う!」


「命の保証はどうした?」


「奴隷にして売られるんじゃないのか?」


 周りで見ていた、捕らえられている盗賊が騒ぎ始める。


「黙れ!

 人殺しの盗賊に生きる価値などない!

 特に『女』を殺し、『犯』した奴は、産まれた事を後悔させてやる!

 貴様らは、どんな苦痛に歪みきった顔をするんだろうなっ!

 アッハハハハハ!!」


 私の銀奴隷たちも1人、また1人と、抜刀ばっとうし、中には見覚えがあったのであろう盗賊に、飛びかかり泣きながら殴り殺す奴までいた。


 殺戮が始まってからの盗賊たちへの仕打ちは酷いものだった。


 1人は…、腹の箇所を何度も突き刺し、痛みで泡をふき意識がなく倒れている、にもかかわらず手を止めずに剣を刺し続けるもの。


 1人は、両手、両足首を切り落とし縄を外され逃げることも、戦うことも、できず泣きながら、懇願こんがんする盗賊の腕と足を薄く1枚のハムに切り変えていくもの。


 1人は、口の中に小さい石ころをパンパンに詰め込み、口元を布で塞いで、顔面サンドバッグにしている者までいた。

 殴られている者の口を塞いでいる布からは血が広がり続け、最後には頬に穴が開き、殴られるたびに石が飛び出しているもの。


 1人は、細い剣で目や鼻をくりき、削ぎ落とされ、舌を切られ、耳、指、足指、を丁寧に切られて、最後には真っ赤なダルマの人形になっていた。


 1人、また1人と穴のなかに動かなくなる人形の肉を投げ入れる。

 

 あまりの非道な行いを見慣れていない騎士たちは、口をおおい目をそむける。


 見慣れない非人道的ひじんどうてきな光景に、中には吐く者も少くはなかった。


 そんな異様な光景の中、一際ひときわ見栄えのいい鎧を着けた騎士が呟く。


「これが、噂に聞く断罪の儀か。

 王から授かっている異名、『断罪のグラン』

 その異名を持つ領地や付近には、盗賊が出ないと聞いたが、あながち間違いでは無さそうだな。」


 全ての肉塊にくかいを穴にいれ終えた私と銀奴隷達は、何もしていなかった他の奴隷達に穴を埋める事を命令する。


 了承した奴隷が穴を埋めている間に、返り血を浴びた私と汚れた奴隷たちを水魔法で洗い流していた私に、泣きながら盗賊に飛び付き殴り倒していた、1人の『銀奴隷』がいまだに涙を流し続け、汚れを洗い流されている最中に、震えながら私に膝まずいた。


「ん?

 どうした??」


「私の名は…、クリスと言います。

 お金もなく、流浪の旅をしていた私たちが盗賊に捕まり、別々に売り飛ばされた私と母を再び巡り合わせてもらうばかりか、今後の生活が出来るようにと、住むところを無償で見繕みつくろい、世話までしてくれた恩…、父と弟達のかたきを打てるようにと参加する機会をも与えて下さり、ほんとうに…、ありがとうございますっ!!


 このご恩…、一生忘れませんっ!!


 例え、グラン様に味方が居なくても、私は逃げずに、心からあなたの剣になることを誓います。


 この命にえましても…必ず…。」


 クリスの言葉に、回りの奴隷たちは笑いながら答える。


「おいおい、グラン様の味方が居なくなるわけねぇじゃねえか!」


「何せ、ここにいる俺たち全員!グラン様に命を助けられて誓いを捧げた奴らばかりだ!」


「そうそう、お前はその内の1人になっただけだよ。」


「頼りにしてるぜクリス!」


 やたらと、明るい奴隷たちに背中を叩かれ仲間に入れてもらえた喜びに、心が踊るクリスは今まで出せなかった『笑顔』で皆に答えた。


「は、はい!」


グランはクリスの言葉に笑顔で答える。


「あぁ、期待しているぞクリス!

 これからも、よろしく頼む!」


 泣いて喜ぶクリス達を観て、一際目立つ鎧を着けている騎士団長が、奴隷に慕われているグランに驚く。


 普通の貴族は、奴隷に命令などはするが会話などほとんどしない。

 まして、信頼や忠誠ちゅうせいなど滅多に寄せることはない。

 そもそも、そんな機会すら与えられないからだ…。

 所詮しょせん、奴隷は奴隷…。


 あるじからの命令に、したがって死ぬか、そむいて死ぬか、の二択しかないのだ。


 だが、がりではあるが、グランは平民の商人冒険者から貴族にまで上り詰めた実績がある…。


 そのグランの奴隷たちは、この盗賊討伐作戦において1人も死んでなどおらず、元気に主と会話までしていた…。


「ありっ、ありえんっ!」


 不思議な光景だった。


 普通の奴隷商人なら、盗賊を捕まえて売りさばくのが当たり前。

 盗賊なら犯罪奴隷として売れる。

 どんな犯罪者でも、奴隷商人に捕まれば命だけは助かる。

 盗賊は死なないし、奴隷商人は潤う、なんとも腹立たしいが『WinウィンWinウィン』な関係が築かれていた。


 今回捕らえ、殺した犯罪奴隷は上下したりするが1人だいたい金貨10枚。

 一般兵士の年俸より少し上の金額だ。

 それをこの男は易々と25人は殺している。

 節約すれば35年は遊んで暮らせる額になるというのに…。


 普通の奴隷商人は金になど目もくれず、自分の所有する奴隷と仲良くなどしない。


 全てが逆のはずなのに、目の前の男はまるで、家族や友人と話すかのように見えた。―――――――




 違和感をいだきながらもジェラール騎士団長が軍を率いて王都に帰り、グランの様子や成果せいかなどを現国王に報告する。



「そうか。

 良くやった!

 騎士団長ジェラールよ。

 後ほど、褒美を渡すから騎士団と分けなさい。

 参加したグランきょうにも褒美を渡さないとな。」


勿体もったい無き御言葉おことばです!

 しかし陛下へいか、気になることが『2つ』ございます。」


「何だ?申してみよ。」


「はいっ!

 なぜ、グランきょうはあのような残虐ざんぎゃく真似まねをするのかと。」


「それはの…、あやつは怒っておるのじゃよ……。」


 重苦しい顔になり悲しく下を向く王の意志を察っし、ジェラールは次の質問にすぐさま話の流れを切り換える。


「わかりました。

 では、もう1つ。

 盗賊を捕らえて尋問し終えた内容の紙を奴隷に渡して、早馬で何処かへ走って行ったのですが、あれにはどういう意味が?」


「ジェラールよ。

 お主が盗賊を捕らえた時、グランが断罪を決行けっこうしている時、泣いておる奴隷などはおらんかったか?」


「はいっ。

 1名だけおりました。

 泣いて怒り狂い、1人の盗賊を執拗に殴り殺していました。」


「それが全てだと語っているでわないか。

 何故わからんのだ。

 グラン卿は盗賊に襲われ、奴隷としてバラバラに売られた人達や家族を買い取り自分の領地に奴隷ではあるが、移住という形で避難さしておるんじゃよ。

 その際、奴隷を買う金もかかるから大規模な盗賊などの討伐をする際は、必ず声を掛けるという条件を爵位を与える代わりに出したのじゃ。

 まぁ、あやつにかかれば、騎士団などは要らんかったと思うがの。」


 そんな話を聞いたジェラール騎士団長がグラン男爵に興味を示すまでに、それほど時間は掛からなかった。――――


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