転生守銭奴女と卑屈貴族男の(義)叔母事情 01

 幼少期の頃から、私(わたくし)、フィオレンテは――いいえ、私たち姉妹はかわいい、美人だと、それはもう、ちやほやされてきた。実際、妹の私から見ても、お姉さまは誰からも愛されるような容姿を持っていた。


 早くにカノルーヴァ家への婚約も決まっていて。カノルーヴァ家の領地といえば、国内でも治安がいい方で、穏やかな土地だと聞く。国境に面している領地でありながらも、隣国がマルルセーヌ王国というのが大きいだろう。マルルセーヌ王国はどこの国ともそれなりにうまくやっていて、おおらかな国民性の国だ。茶葉や茶器に関する輸入、輸出に関する法律や税金だけは妙に厳しいものの、それ以外であれば、目立って衝突することもない。


 一方で、カノルーヴァ家と同じく、国境を持つベードンリン家の領地の方はかなり治安が悪いらしい。クイスベルング王国とグラベイン王国はあまり良好な関係とは言えず、度々小競り合いが起きているからだ。今はまだ小競り合い程度で済んでいるが、本格的に戦争が起きることも視野に入れての防衛が行われているという。


 そんな危険な土地にお姉さまが行かなくてよかった、と、カノルーヴァ家に感謝したものだ。

 最も、その感謝も、長くは続かなかったが。


 お姉さまは、誰からも愛されて、大切にされて、幸せな人生を歩んでいくのだと、私はずっと思っていた。――いや、誰もがそう、思っていただろう。


 お姉さまが嫁いでから、比較的、すぐに子供に恵まれたものの、立て続けに生まれたのは女児ばかり。

 女が悪い、というわけではない。実際、義兄は姪たちを大切に育てていたと思う。度々お姉さまの元を訪ねても、いつも姪たちは元気に遊んでいて、お姉さまもひどく気落ちしている様子はなかった。


 跡取りの男児が欲しい、という周りの空気はあったけれど、そのうち生まれるだろう、という、余裕があったのかもしれない。

 「娘は可愛いけれど、次こそは息子が欲しいわ」と言うお姉さまは笑っていて、跡取りを生まねば、という圧に負けている様子はなかった。

 お姉さまが息子を欲しがる様子は、男児ばかり産む友人が「一人くらいは娘が欲しいわ」と笑うようなそぶりとそっくりだった。


 お姉さまも、いつかは男児も授かって、幸せな家庭を作っていくのだと、私も、お姉さまも、義兄も、周りの人間全員が疑いもしなかった。


 そのすべてが狂ったのは――たとえ認めたくなくとも、ディルミックが生まれて少しした頃なのは、疑いようもない事実だと思う。

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