転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 13
貴女ならば誰にも言わないでしょうから、信用して話します。
義叔母様はそう前置きしてから、彼女たちの過去の話を一つ、教えてくれた。これだけ義叔母様が周囲を警戒しているのだから、元より言いふらすつもりなんてないけど。
「わたくしとお姉さまは、昔はかなりお転婆だったのよ。……具体的には、こっそり屋敷を抜け出して、街に遊びに行くくらいには」
義叔母様が話し始めてくれたというのに、もう、早速わたしは驚きで話の腰を降りたくなった。義叔母様がお転婆……? 全然想像がつかない。貴族のお手本みたいな人なのに。
とはいえ、いちいち突っ込んでいたら話が進まない。わたしは黙って義叔母様の話の続きを聞く。
「あの日も、お姉さまと二人で街に遊びに行ったわ。グラベインの貴族令嬢としての『教育』は本格的に始まっていなくて、行儀作法のことばかりだったから、六歳、七歳くらいのことよ」
『教育』というのは、グラベインに置ける、醜さは悪である、という価値観を植え付けられる、アレのことだろう。
「わたくしたちは、道端で、『醜い』と石を打ち付けられる男を見てしまったの。実際に、かなり酷い容姿ではあったわ。この国ならばそういう扱いをされてしまうほどの。……でも、わたくしたちは、そういった『悪意』を知らない年頃だったから、とても怖い光景に見えた」
貴族令嬢じゃなくたって、子供の頃に、男が石を投げられているところを見たら、トラウマものだと思う。
「だから――……あえて嫌な言い方をしますけれど、わたくしたちの価値観が、『教育』によって矯正された後も、醜い者への対応がそれでいいのだと分かった今でも、あの光景と、そのとき感じた恐怖はしこりのように引っかかっていて、ふと、自分は、積極的に醜い者を排除したくないと、思ってしまうのよ。……それはお姉さまも同じだった」
――何も知らないときに見た光景と感じた恐怖。それが、周りのグラベイン貴族となんだか少し違う、という印象を受ける義叔母様の根本にあるものなのか。……そんな経験をした義叔母様が受けた、グラベイン貴族令嬢が受ける『教育』って、どんななんだろう。知りたいような、知りたくないような。
それは、義叔母様ですら『矯正』と評するほど、苛烈なものなのだとは思うが。
「今でこそ、お姉さまは、まさにグラベインの貴族というべき人になってしまわれたけれど、一度は、そうやってわたくしのように、罵ることに、排除しようとすることに、立ち止まる人間だったのよ」
だから、完全に染まっている人間よりは話を聞いてもらいやすいかもしれない、ということだろうか。
「お姉さまをおかしくした人間は、皆、もうこの屋敷にはいないわ。……だから、少しでも、お姉さまが昔のことを思い出してくれれば、結婚の報告も、穏便に済むでしょう」
そういう義叔母様の表情は、そうあってほしいと願い、姉のことを心配する妹のものだった。
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