転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 02
王との謁見が無事に終わり、わたしたちは客室に通されていた。今日はここでお泊りである。
明日以降は王都にある、とある公爵家の家に泊まることとなり、王城に宿泊するのは今日が最初で最後だ。
グラベインで結婚式を挙げ、王族の前に立ったとはいえ、あのテルセドリッド王子相手だったし、グラベイン王国だったし、出身国の王の前に立つというのは、かなり緊張した。
半分くらい放心状態。「折角来たのだから、よろしければ庭園でも見ていくといい」と王から直々に許可を貰ったけれど、すぐに行こう、という気にはなれない。王城の庭園は数か月に一度、一般市民にも公開されるほどのものらしいので、折角なら見ていきたいものではあるが。
ディルミックもディルミックでカルチャーショックを受けているのか、わたし同様、少しぼーっとしていた。まあわたしほど気が抜けているわけではないけど。
平民や使用人ですら、醜男に対して嫌悪感を隠さないグラベインでは(流石に直接何かするような馬鹿はなかなかいないが)、仮面を外した状態で普通に接して貰ったのが、ちょっと信じられないんだろう。表にはあまり出ていなかったが、いちいち驚いていたのが、わたしには分かる。
「……これが、テルセドリッド王子が目指す未来、なんだろうか」
ぽつり、とディルミックが言葉をこぼした。
そう言えば、テルセドリッド王子は美醜観を変える、というわけではなく、美醜観による差別をなくしたい、という活動をしているんだったか。言われてみれば、マルルセーヌがまさにそれだな。
「グラベインもこういう国になれると思います?」
わたしがそう聞くと、ディルミックは少し目線を泳がせ、「分からない」と答えた。
「僕たちの子供の為にも、こうあればいいとは思うが……理想が高すぎて随分遠い未来だな、というのが正直な感想だ」
まあ、グラベインの国民性からしたら、何を美しいと思い醜いと感じるかは人それぞれ、醜いからといって悪ではない、という自由な発想を得るのは難しいかもしれない。
それこそ、醜い者への差別をなくすのを重きに置きすぎて、差別が厳罰化されたり、醜いが良いにひっくり返って、結局美醜観の差別は変わらない、という道の方が近しい気もする。
まあ、その辺り、テルセドリッド王子だけではなく、わたしたちの子供や孫の代に続いて頑張って貰えば……。
……。
「な、なんで急に赤くなるんだ」
「い、いやですね、なんか、こう……ねえ?」
子を作らないといけないのは分かっているし、そういう行為も勿論しているのだが、いざ改めて口にされるとちょっと照れる。
二人そろって何故か妙に照れて、変な空気になってしまった客室に、ノックの音が響く。
「ディルミック様、ロディナ様、いらっしゃいますか」
おそらくはマルルセーヌ王城の使用人の声。それに対して、すっとディルミックが立ち上がり、
「ああ、問題ありません。何か用でしょうか」と返事をする。声はすぐに外行きのものへと変わったが、まだちょっと耳が赤い。
「失礼いたします」
そう言って扉が開かれる。その先に立っていたのは、メイドさんが二人と――先ほど、謁見の際、王の隣に座っていた王妃様だった。
エッ、王妃様!?
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