キリエのこと・その2

 キリエは予定より10歳ほどは年をとってしまったわけですが、その代わりのように私の中でどっしりと存在感を増してくれました。


 「おばはん」から「おばあさま」へという感じですか。

 いや、まあ「おばはん」は口が悪いトーヤが言ったことで私は「おばさま」でしたが。

 人のせいにするなとかいう声が聞こえる気がしますが、まあ気のせいでしょう、うん。


 年齢というか年輪を増したおかげでキリエの生まれ育ちというものも定まりました。

 第一部で生まれて初めて他人にそのことを語るシーンが出てきますが、それまではずっと鋼鉄の仮面の下、一人で背負ってきていた過去です。

 それまでは「どうして自分の人生はこうなのだろう」と思いながらも答えは出ず、じっとその運命に甘んじていた人が、初めて自分が生まれてきた意味を知ることができたかも知れない、そう思えました。

 いつもいつも背筋をしゃんと伸ばし、喜びも悲しみも苦しみもすべてを自分の中に閉じ込めていたキリエが、まだ年若い侍女との会話の中で「もしかすると」と思い至る、という形です。


 その出自からおそらくキリエも非常にプライドの高い人間です。ですから、いくらシャンタルの託宣で宮へ迎えたといっても、トーヤのことは見ただけで「卑しい下々の人間」と心の奥底ではさげすんでいました。それでマユリアから言われていないにも関わらず、監視をつけ、宮に何か問題を起こさぬようにと牽制していたというわけです。


 トーヤが最初に感じた「人ではなく物扱い」という印象は当たっています。トーヤはその人生で、特に傭兵という仕事柄、そういう視線にさらされることに慣れていますし、またそう見られたからといって特にどうこう思うということもありませんが、そう見られている人間に対しては自分もまた当然好意は持てません。


 そんな言ってみれば一番相容れない、両極端にいる、年齢も性別も生まれ育ちも考え方も何もかも違うトーヤとキリエが分かり合い、理解して、強い信頼の絆で結ばれると面白いだろうなあと考えて、最初の予定以上にしっかりとキリエを描くことにしました。そのために「そういう人になるにはどういう生まれ育ちがいいんだろうか」と考えて、あのような生い立ちになったのでした。


 トーヤとキリエの共通点は肉親との縁が薄いということ、それから一度決めたらてこでも動かない頑固者でありながら、その決めたことを通すためなら180度路線変更してでもその道を突き進む柔軟性があるという部分かと思います。決して簡単に考えを変えて方向転換してるわけではないんです。


 そんな部分を理解しあったからこそ、今は同士と言ってもいい間柄になれたのだと思います。

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