行儀見習いの侍女

 ミーヤの同期にリルという侍女がいますが、彼女は今回のテーマである「行儀見習いの侍女」になります。


 そもそも侍女の始まりは「応募の侍女」だったと前回書きました。宮に入ったらもう結婚もせず、用もなく宮の外にも出ず、一生を女神シャンタルに捧げる、そう決めて侍女になる者たちがそれです。


 しかしシャンタリオができて年数が経つに従い、宮の事情も色々と変わってきました。

 侍女たちの生活、人生は変わりませんが、宮の役割が増えるに従って、必要とされる侍女の数が増えてきたり、前回書いたように途中脱落する者が出てきたりもしました。


 そこで、


「一生を宮で過ごすのではなく、一時期だけ宮に勤める侍女も作ったらどうか」


 という声が宮や神殿からは上がり、


「侍女として女神にお仕えしてみたいが一生はつらい」


 という者たちもいたことから、そのような侍女を採用しようとなりました。


 ですが、一時期だけといっても仮にも女神に仕える者、誰でもおいでというわけにはいきません。


 そこで、


「宮で礼儀作法などを習う代わりに女神にお仕えする、行儀見習いのために宮にいる間の侍女となればいいだろう。もしもその後で一生を女神に仕えると決める者があればその時は誓いを立てればよいことだ」


 と、両者の利害の一致から、


「行儀見習いの侍女」


 という形の侍女を作ることになりました。


 「応募の侍女」のように厳しい試験があるわけではないのですが、さすがに女神様のところで行儀見習いをする者です、それなりに信用のおける者ということで、自然と出身などのはっきりとした「良いおうちのお嬢様」が多くなり、数年の間侍女として修行をすることから、いつからか「婚姻のための箔をつける」目的を持つ者が大部分となってきました。

 

 本編にも元々は「行儀見習いの侍女」でありながら「誓いを立て」て一生を宮に捧げる侍女も出てきますが、そういうわけで、大部分は年頃になって縁談が整うと宮を辞して家に帰って嫁ぐことになります。


 2つの侍女の間に一応差はないのですが、「応募の侍女」はやはり「自分たちは神に選ばれた」との意識があり、「行儀見習いの侍女」は「自分たちは良い家の者」との意識があるもので、なんとなくお互いに距離があったり、たまに揉め事もあったりもします。お互いにプライドの持ちどころが違う者たちがともにいると、仕方のないことかも知れませんが。


 ミーヤとリルは同期なのですが、それでもやはりお互いに「立場が違う」という意識を知らず知らずのうちに持っていたようです。それで特にどうということはなかったようですが、ある時、互いにそれに気づくこととなりました。

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