サブカルギルド 26
チェックアウトして、荷物を駅のコインロッカーに入れてから、ショッピングモールまでバスで移動する。
かなり早い時間に来れたので、どんな店があるのかを見回ってから、光里が入る店を決めた。
一店舗だけショッピングモールにあっていいのか気になるコスプレ店があったが、気にしないでおこう。
光里のファッションショーはさっそく始まって。すでに何着か持って試着室でもぞもぞしている。
二度目のちょっと癖になる滑走音が聞こえると
「これどお⁉」
と気に入った様子の光里がこちらを見ている。
どうなのかと聞かれても、ファッションのことは全然知らないし・・・。
「可愛いじゃん」
しか言えない・・・。
「でしょでしょ?別のも着るからちょっと待ってて!」
どうやらそれで満足なようなので、またしばらく待つことになった。
3度それを繰り返してから、次に着てきたのは胸元の少し開けた服だった。
男女共用の場所なのでそういうのはやめていただきたい。
「これどお?」
どこか圧を感じる声と、顔は少し怒っていた。
「どうかって聞かれても・・・その。人前では着てほしくないかな・・・。」
素直にそう答えると、少し呆けた様子の後に
「そっか、人前じゃなきゃ、いいんだ。」
と、結構照れて言った。
照れるくらいならそこまで体張らなくても・・・。
「ていうか、さっさとほかのに着替えて!それはダメだから!」
さすがに恋人の肌を人前に平然とさらすつもりもないので、さっさと閉めて着替えを促す。
「はーい。」
言う事を聞いてくれた後、試着室のカーテンから光里が顔だけ出した。
「あのさ。感想言ってくれるのはうれしいんだけど、できればその、もっと具体的にほめてくれたらうれしいなって・・・。」
あの過激な服は、そういう理由があったのか。
「わかった、できるだけ努力はしてみる。」
最近読んだ恋愛小説も、相手が照れるほど褒めてたからな・・・。それほどできなくとも。
カーテンからのぞいている光里の鎖骨が見て取れた。あれをすぐに脱いだのか・・・。
「それはそれとしてさっさとカーテン閉めて。誰かに見られても嫌だから。」
「は!ほんとだ、ありがとう。」
・・・これはもう、物語を書く人としてのプライドをかけるほどかもしれないな。
なんて覚悟をしたものの、誉め言葉はほどほどに下手だったため、毎度光里に微妙な顔をされて終わってしまった。
「ほんとに慣れてないんだね、服を着た女の子を褒める事には。」
俺を揶揄いながら、少しばかり愉快そうに笑う。
「まぁ、妹がいたわけでもないし、服装を気にする年には友達がほぼ居ないに等しかったからな。」
若干の自虐を含みつつも、質量のある紙袋を両手に持っている。
「でもほんとに持たせちゃってよかったの?私の買い物なのに。」
「いいのいいのこれくらい。頼りないかもしれないけど頼ってよ。」
「そんなことないよ。ありがとう。」
そんな当たり前のような会話をし終えてから、あることに気付いた。
あ、この紙袋のどっちかには・・・。中に黒いビニールが入ってる方は、着用済みの服が入ってるのか・・・。と、
気にする必要は無いとわかってはいるのだが、気付いた時点でどこか変態と言われてしまうような気がしてならない。
「どうしたの?」
変に意識しすぎたせいで所作がおかしかったのだろうか。光里が気にかけてくれた。
「いや、何でもないよ。うん。何でもない。」
まぁ、服嗅ぎたくなるほど限界だったら、直接抱き着きそうだし。興味持つ必要は無いか。
ひとまず変な衝動は抑えて・・・次は俺の番だった。
慣れていない着脱の繰り返しは、俺の精神と物理的な体力をごっそり持って行った。
光里はとても楽しそうだったのでいいのだが、終わる頃には、もうだいぶ眠たかった。
そんなこんなでいろいろ思い出すのも面倒で、ひとまず昼食を食べることにした。デパートでの昼食と言えばフードコート。平日だったため特別人が多いわけでもなく、問題なく席を得られ、昼食を選べ、ほどほどに楽しく食べることができた。
申し訳ないと思いつつも、疲労と眠気が予想以上で、一時帰宅の案を提示すると、すんなりと受け入れてくれた。
さすがに荷物の大半は俺が持ったものの、電車の中で寝てしまい、起こされたときには一つ前の駅だった。
しっかりと黄昏時で、かなり目が痛かった。
光里に手を引いてもらいながら自室に帰ると、どうやらそのままベッドにだいぶしてしまったらしい。
起きたら光里が乗っていた。
大丈夫、服は乱れてない。って言うかいいにおいする。あったかくてふわふわしてて心地よすぎるこれ・・・。
無意識に抱きしめそうな両腕を理性で止めて、考え直す。
代わりに布団を挟んで抱きしめて、そのままベッドに転がしておく。
さて、朝食を作ろうか。
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