サブカルギルド 18話
日が傾き、火が落ち着いてからは、予定通りにバーベキューを始めた。
始める時間が遅かったので、夜の分も含めてゆっくりと食べ進めて行った。
「シロ。寒くないか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
さりげない気遣いと、それに対する感謝。どちらも真心しかこもってないから尊いんだよな。
・・・光里がこちらをちらちらとみている。やれと?目の前でやってたのに?
特別やらないわけにはいかないし、実を言うと気にはしていたので、言ってみる。
「・・・光里は、寒くない?」
「ちょっと寒いかも。」
演じるように腕を手でこするので、着ていた薄手の上着をそのまま羽織らせる。光里は驚いたようにこちらを見たが、なぜ驚いたのかわからない。
「・・・ひろくんは寒くないの?」
恐る恐る聞いてきた。
「寒くない。とは言わないけど、火がついてる間は平気かな。火の番を任せてもらえれば、熱くもなるから。」
「そっか・・・。」
納得した、というよりは、喜びをかみしめてる様にも見えるけれど、ちょっと表情が見えにくい。
周りを見てみると、炎の光で明るくはなっているが、逆に影が目立つようになっていた。空はまだ日が落ちる前の空だけれど、周りとのギャップに不思議と素敵だと思える。
「あ、一番星。」
光里が、そばに寄りながら秘密を教えるような声で言いつつ、『あそこ』と指をさしている。
指している方角を見てみると、確かに一つだけ星が見えた。
「おぉ、一番星か、久しぶりに見たなぁ。」
「どこにあるの~。」
こっちを見て気にしたクートが気づいて、それにつられてシロが探している。
互いにイチャイチャを共有してるカップル同士とか、周りからバカップル二組とか言われても不思議じゃない・・・。
「ほら、そろそろ串物とか肉とか持ってきて、もうバーベキューできるよ。」
なんだかんだ言って、まだマシュマロしか食べてないのだ。さすがに腹ペコである。
「あ、ほんとだ。って、寒くないのツッチー?」
半そでじゃ心配するわな。
「しばらく火の番してたからむしろ熱いよ。ほら、おなか減ったから早く。」
「俺もだ、シロ。買って来たのを・・・。」
クートが言いきる前にシロは持ってきていた。早くて助かる。
「持ってきたよ。」
「ありがとう。それじゃ焼こうか。ツッチーは上着取ってきなさい。そのうち冷え込むかもしれないから。」
「はーい」
トングをクートに渡して、上着を取りに行く。
「やっぱり寒かったよね!返すよ‼」
申し訳なさそうに言ってくるのは、わざとだと自白していることなのか、それとも素直な気持ちなのか。
「予備くらい持ってきてるから大丈夫だけど・・・。光里は袖が長くて食べにくそうだね。」
光里はすでに上着を脱いでいるので、袖の短い上着を引っ張り出して、半ば押し付けるように渡す。それから光里の持っていた上着をもらってそのまま着ることにした。
・・・自分でやったことだけど、思ってた以上に光里の体温が残ってる。
「ひろくん顔赤いよ?どうしたの?」
いたずらっぽく言うあたり、さっきの光里も同じように思っていたのだろうか。
「い、いや、何でもない。俺もおなか減ったし早く食べよ。」
逃げるように火元に戻ろうとするけれど、光里が腕を引いて止める。
「ほら、かげってて暗いから、これくらいは良いよね。」
自分が何かを言うより早く光里が抱き着いてきた。
正直恥ずかしかったけれど、誰にも見られていない今なら、これくらいならば、良いかな。と自分を言い聞かせて抱き返した。
しばらく抱き合っていると、呼ばれてしまった。
「おーい、いつまで服選んでるんだー。もう焼けてるぞー。」
気を抜きすぎていて、その呼び声にすらびっくりしてしまった。
「そ、そろそろ、いこっか。」
言うと同時に、光里の腹の虫が鳴き出す。
「そ、そそそうだね、早く行こうか。」
しばらく四人でバーベキューを楽しんでいると、遠くからギターの音が聞こえた。
校舎から一番近い場所にあるキャンプ場なので、もしかしたら音楽系統の生徒さんとかがいるのだろうか。
それにしても心地いい、きれいな星空、優しい風、すぐそばには暖かい恋人の温もり、いい音楽。ここまで分かりやすい幸せというものも、そう多いものではないだろうな。
食べ終わり、片付けが終わってから施設に備えてある温泉に入る。
もちろん男女で別れるわけで、初めて彼女なんてできたらそういう話が振られるわけで・・・。
「で、お前はどうやって付き合ったんだよツッチー。」
親友の厄介な質問に迫られるのである。
「どうって・・・普通に気持ちを伝えたから付き合ってるんだよ。」
「なに水臭いこと言ってんだよ、ほかの利用者全然いないから、今言っても誰かにバレる心配とかいらないぞ?」
余計なお世話だ。
「そもそもな、二人の方がおかしいんだよ。プライベートな話をホイホイとする方がおかしいの。」
「そうかぁ?周りの奴らも結構、普通っぽく接してくれてるけど?」
「それは諦めか呆れのどっちかだ自覚しろ。」
「むぅ。」
不満そうだが、イチャイチャしてることは否定したくないのか一瞬口を閉ざす。
「そんなのはどうだっていいんだよ。今の今まで恋人とか作らなかったツッチーが恋人を作って、俺もシロもうれしいだよ。そりゃ関わる機会も減るかもしれないって心配はあるけど、それでも親友の春を喜んでるんだ。」
「それなら不要な詮索は控えてくれませんかね。親からされて嫌じゃなかったのか?」
「いや別に。」
「そりゃそうだよなぁ。」
こいつら小学生のころから付き合ってるから、ほぼ最初から家族みたいなもんなんだよなぁ。
「だからな、本当はアドバイスとかしてやりたいんだ。」
「結構だ、ほとんどが的外れなアドバイスになりそうだ。」
「だよなぁ、俺もそう思うんだ。だからな、できる限り状況を知っていれば違うんじゃないかなって、ほら、三人寄れば文殊の知恵って言うだろ、人数が多ければいいこと思い浮かびそうじゃん?」
「否定はしないが、そのことわざ使うなら三人いなきゃダメだろ。」
すると、少し後方から声が届いた。
「それなら、僕も参加させてもらおうかな。」
見ると、背が高く細身だけれど、かなり筋肉がついていることがわかる。ただどうしてか、その声に胡散臭さを感じえない。
「ん、あぁ、紅じゃん、久しぶりだな。」
「あぁ、久しぶりだな生人、彼女とは変わらずか?」
「当たり前だろ?お前らにはかなわないけどな。」
え?クートがかなわないというほどいちゃついてるカップルとかいるのか。
「で、君は・・・。」
「生人の幼馴染の土浦広旅です。初めまして。」
久々の初対面の人だ、ちゃんと仮面がついてるだろうか。
「初めまして、生人の友人の春原紅だ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
ちょっと不思議な人だな。なんて思いながら返したのだが、案外ぐいぐい来るらしい。
「それでそれで、何の話してたの?三人そろったし言ってよぉ。」
どうやら「三人そろってないのに文殊の知恵」の話だけ聞こえていたらしい。
「いやその、しゃべりたくないので・・・。」
さすがに初対面の人相手にそんな話をしようとは思えない。
「そう、それじゃぁ、僕の惚気に付き合ってよ。」
嫌な予感がした。
「おいツッチー出るぞ、こいつの惚気聞いてたら文字通り茹で上がるぞ。」
「うん、そんな気がしてた。」
「いいじゃん聞いてよー。」
類は友を呼ぶって、こんな感じなんだな。
服を着てから、銭湯上がりと言ったら牛乳・珈琲牛乳・フルーツオレの瓶をふたを開けて飲み干し、気持ちよく息を吐いてから椅子に座る。
「なぁツッチー、アニメとかだと、男三人集まったらサウナで勝負するけど、しなくてよかったのか?」
「無理無理、俺が耐えられないもん。温泉は心を休ませる場所でしょ?」
「君の言うとおりだね。闘争心を燃やす場所は間違えると疲れるだけだからね。」
なんだかんだ自然に会話できる当たり、案外気を許してもいいのかもしれない。
しばらく雑談を楽しんでいると、シロと光里が一人の真っ赤になった女の子を女湯から連れてきた。
「ちー!」
真っ先に紅さんが飛びつき、明らかにのぼせてる少女の手当てを始める。彼女がいると言っていたけれど、妹さんだろうか?
と思っていると、察したのか小声でクートが話をしてくる。
「先に言っとくけど、あの子が彼女だよ。須藤千百合さん。妹扱いすると怒られるから注意してね。」
千百合さんを紅さんに任せた二人が帰ってきて、そのまま会話に混ざってくる。
「あれ?でも、さっき、千百合さん、春原って名乗ってたけど・・・。」
「「え?」」
聞こえたらしく、紅さんが答えてくれる。
「あぁ、言ってなかったっけ、僕たち結婚したんだ。」
「「え??」」
当の須藤千百合さん改め、春原千百合さんは真っ赤な顔でダウンしていた。
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