サブカルギルド 13話
四人は多少荷物を持ってから出発した。いつも通りシャトルバスで最寄り駅まで向かう。反対側の降り口にはたくさんのお店が並んでいて、四人の目的のお店もそこに並んでいた。
「こんなところがあったんだねぇ。」
光里はここのことは知らなかったのか、そんな風に言っている。とはいえ俺も知らなかった。
「うん、割とみんな来るんだけど、二人とも来ることなかったの?」
「うん、全然、デパートの方まで行くことはあっても、外食自体あんまりしなかったから。」
「そっかぁ、二人で食べてたわけかぁ。」
ニヤニヤとこちらを見てくるのでとりあえず無視する。
「それより早く行こうぜ、俺たち昼食べてないからおなか減ってるんだよ。」
「そーいや食べ忘れてたよなぁ。」
「えっ、そうだったの⁉それならお手製のお菓子持ってきたのにぃ。」
シロの料理好きはほぼほぼクートのためである。どこでもイチャコラするなこいつら。
「ひろくんも、それなら連絡くれればお菓子くらい買って来たのに・・・。」
優しいとも感じたが、どこか寂しそうに見えた気がした。
「ありがと、でもまぁ、一食抜くことなんて割とあるから慣れちゃってな。」
実際、二人で何度も昼食を抜いてきた。
「それでも、おなか減ってたら元気でないでしょ?」
普段よりも気にかけてくれているように見える?
「わかったよ、今度からそういうのがあったらすぐに連絡するよ。」
とはいえ何を連絡するんだ?
「うん、よろしい!」
満足そうなので良しとしますか。
「おーいそこのバカップル~、はよこっちこーい。」
「誰がカップルだ⁉」
条件反射気味に返したが、実際付き合ってるわけではないので間違ってない。てかバカップルはそっちだろ。
「へっへっへ、ツッチー殿も柔らかくなりましたなぁ・・・。」
「どういうことだよ。」
俺には理解できなかったが、シロはニヤニヤと、クートはうんうんとうなづいている。
すたすたとついていって、目的の店に着く。
店内に入ると、割と空いている時間らしく「お好きな席にどうぞー。」という声が聞こえるので、店の中の四人席に座る。メニューを開くと案外たくさんある。
「メニュー結構あるね。これは迷いそうだぁ。」
シロが楽しそうにメニューを眺めている。のを楽し気に見ているクート。その二人を見ている俺と光里。
なんだこの構図。そう思ったのでメニュー表をもう一つ開いて光里と共有しながら見る。
「光里はどれが好きとかってあるのか?」
「カツはそんなに食べなかったけど・・・。これとかどうかな?」
指さしたのはカキフライ定食。みんな好きだし人気で定番だけど、実はカキが苦手だったりする(by広旅)
「いいんじゃないか?俺は、212層の重ねカツにしようかな。」
「212?」
「そう、212層。まぁ比喩だけどね。」
そりゃちょっとびっくりするよな。でもこれがうまいんだ・・・!
「ツッチーはいつもそれだよねぇ~。」
「そりゃ美味しいもの、悩んだふりしてたけど、二人ももう決まってるだろ?」
「「そりゃもちろん。」」
このチェーン店は三人何度も来たことがあったので、互いに何を頼むのかまで分かっている。
「んじゃ、店員さーん。」
クートが呼ぶと、店員さんはにこにこと近づいてきて定型文を話す。カキフライ定食二つと212層の重ねカツ、あと・・・ロースかつ定食で。」
注文内容の確認を終えるとそそくさと厨房に戻っていく。
「ねぇ、私、またクートが変なもの頼むんじゃないかと思ってひやひやしたよ?」
正直俺もひやひやした。普段は常識人なのに時々とんでもない行動しだすから分からない。今日のアンコウもそうだったが、夕飯にパフェを頼んだこともあった。
「ははは、いいじゃないか。面白いものも食べてみたいんだよ。」
「その結果三人で死ぬ気で食べきったのはいい思い出だね。」
「あれは・・・二度と食べたくないね・・・。」
パフェを頼んだと思ったらとんでもないサイズで食べ終えるのに苦労した話もあった。
「そんなことがあったんだね・・・。」
さすがに光里も引き気味である。
「そういえばさ、ツッチーは光里ちゃんとどこまで進んだんだ?」
「進んだとは?」
クートの質問に対してそう返すと。
「だってほら、同棲してるようなもんだし付き合ってるんだろ?どこまで進んでんだ?」
「いや付き合ってないけど?」
「は?付き合ってないのに同棲してんの?」
「今のところはほら、一緒に小説書いてる頼れるパートナーだし。」
「さっさと生涯のパートナーにしろよ。」
「本人の前でめちゃくちゃ恥ずかしくなること言うのやめない?」
「えぇ?別にいいじゃん、どうせそうなるだろうし。」
まじでやめてくれ、というか光里がいやだった場合が一番悲しいから。
「じゃぁそういうお前はどうなんだよ?」
無理やり話しの先を変える。これ以上は無理。
「俺ら?今のところ変わりないよ?」
「そうだね。別に生涯のパートナーになってほしいならなるし。というか私からお願いするし。」
相変わらずのバカップル具合だよちくしょう。無敵じゃねぇか。
「ほらほらー、私たちの話よりクート達の話だよー。」
「あーはいはい。シロは課題進んでるの?」
「うっ、えっ、あっ、もっ、もちろんっ!」
「ダウト」「まぁそうだよな。」「さすがに嘘だね。」
俺やクートならともかく、光里にすらウソがばれてる。
「そりゃ、大学入ってからずっと俺と遊んでるもん。課題なんざ進んでるはずがないの。」
「だ、だって、久々だったし・・・。」
「俺もめっちゃうれしいけどね。そだ、今度四人で課題会って感じでみんなで持ち寄って課題やろうよ。多分楽しいし、シロも課題が進むだろうからさ。」
「いいじゃん、いつ頃やる?」
「そうだな、別にいつでもいいけど・・・。あ、ツッチーの部屋に行けばいいじゃん。」
「雑かよ。まぁいいけど。」
「その方が楽だからねぇ。それに二人を見てられるし。」
後者は聞かなかったことにしておこう。「お待たせしましたー、カキフライ定食二つとロースかつ定食です。重ねカツの方はもうしばらくお待ちください。」三人分の定食が来た。「「いただきまーす。」」
「ひろくんのはまだなんだね。」
「あぁ、他よりも作るのに時間がかかるっぽくてな。先に食べてなよ。いつもこんな感じだから。」
「・・・じゃぁ、みそ汁だけ。」
どこか申し訳なさそうにちびちびと味噌汁を飲みながら、こちらの様子をうかがっている。そんなに気にすることじゃないのに。と思いながらも、気にかけてくれてうれしいとも感じる。
とはいえ、重ねカツはもうしばらくかかるので、三人が食べている間はスマホをいじって時間を潰す。いくつものアカウントをフォローしているので更新するたびにタイムラインが追加されて飽きることはない。ただ少し気になるのは、隣に座っている光里がやけにこっちを見てくるのだ。
「ひろくん、食事中にスマホを見るのはマナー悪いと思うの。」
「まぁ、それには同意するけど、食事の邪魔するのも悪いし。」
「それに、私だっているわけだし。」
「それについては何を言いたいのかわかんないけど・・・。」
「話し相手くらいにはなるけど。」
ありがたい、けど、せっかくなら夕飯を食べていてほしい・・・。
「ありがたいけど、冷めないうちに食べたほうがいいと思うよ?」
「それはそうだけど・・・。広くんと食べたい。」
その発言に脳内から『可愛い』の信号が送られ、体面に座る二人は箸を止める。片方はニヤニヤしている。
「なぁツッチー、ラブラブなのはいいけど、店内でイチャイチャされると店員さんも困ると思うんだ。」
その視線の先には、このテーブルに持ってきたであろう定食が一つ。重ねカツ定食だとわかる。
「お、お待たせしましたー。重ねカツ定食です~。ご注文は以上で問題ありませんか~。」
定型文のやり取りをしてから店員さんはほかの客のところへ急ぐ。
正直、少し恥ずかしかったけれど、これで二人とも心置きなく食べれるし、別に問題は無い。
「いただきます。」と言って箸を持つと、それに倣うように光里も「いただきます。」と言って箸を取り、俺に微笑みかける。まぶしすぎるよ。俺の目がつぶれちゃうよ。
そんなことを思いながらもがんばって笑顔を返す。そのあとは普通に夕飯を食べる。最初に一口、大きく重ねカツをほおばる。ホロホロと崩れる薄い肉たちとその油、加えてサクサクと小気味いい食感の衣・・・。はぁ、やっぱこれが一番好きやな・・・。
隣を見てみると、同じようにおいしそうにカキフライをほおばっていて、なかなか見ない膨らんだ頬は、光里の顔をより一層幼く見させるので可愛くて仕方なかった。
視線に気づいた光里がこっちを向く。頬にはまだカキフライが残っているのか膨らんだままで、ついつい吹き出してしまい光里が両方の眉を近づける。怒っているのは分かるが、既に可愛いので怒っている姿まで可愛く見える。
「あーあー、方や頬いっぱい食べて、方や頬いっぱい落としてるよ。やっぱ私たちよりバカップルじゃないこれ?」
「まぁでも、家でこうなのかは俺たちにゃ分からんからな、ここまで幸せそうなツッチーを見るのもし久々だけど。」
いつもなら反論しているのだが、今は口に残る幸せと、目と耳から感じられる幸せがあるせいで気にすらならない。カツ屋最高だな。
「もう、こっち見て笑わないでよ。広くんだって似たような顔してたじゃん!」
「そ、そうだけどさ、可愛かったから。」
そう言いながら笑いが抑えられない。恥じらってる光里もかわいい。
「いいよもう、あーあ、せっかく待ってあげたのに、こんな言われるなら先に食べてればよかった。」
そう言いながらご飯を口へ運ぶ。俺もこのまま揶揄っていたら食べられないので、あきらめて食べ進める。
今日も今日とて平和で幸せな夕食だ。
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