12章 アースガルド王国

第384話 この節目に、もう一歩を

『アースガルド王国』の建国宣言をした翌日の下台地にて。



「ねぇねぇロキ、一応ここって『国』にはなったんでしょ?」



 皆で朝食後にまったりしていると、カルラがそんな疑問を口にした。



「なったよ、なんも変わらんけど」


「で、あろうな」


「おまえが王様か。いや、これからはロキ王って呼んだ方が良いのか?」



 ロッジからそう言われるも、苦笑いしか出てこない。



「やめてよ気持ち悪い。そもそも秘境集落一つと、北部で作られ始めた開拓村しかないんだよ? まだ『村長』って言われた方がしっくりくるって」


「がははっ、確かにな!」


「しかし、これから人が増えれば政治も必要になろう」


「そんな増えても困っちゃうけどね。でも……うん、そうだな、任命式くらいやっとくか!」


「「「???」」」


「ゼオく~ん、君は我が国の宰相であり大参謀として、あと緊急時は王様代行もお願いしたいのであーる」


「は?」


「カルラく~ん、君は軍事総長に任命するので、カッコいい大将軍になってもらいたいのであーる」


「よく分かんないけど凄そうだね!」


「ロッジく~ん、君は我が国の筆頭鍛冶師として、内務大臣にも就いてもらうのであーる」


「筆頭って、俺だけしかいないが?」


「ジェネく~ん、君は――……薪割り大臣に任命するので、どんどん冬に備えて薪を作ってほしいのであーる」


「まかせて」


「豚君は~、我が国の警護隊長なのであるからして~、どっかで喰われないように注意してほしいのであーる」


「ブー」



 ただでさえやることがいっぱいなのに、狩りして経験値とお金も稼がなきゃならんからな!


 面倒なことはゼオ師匠とアリシアに任せてしまおうと企みながら、今日の本命に移るかと。


 石机の上に手帳を開き――、恐る恐るステータス画面を確認した。



 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>


 レベル:60  スキルポイント残:132 (技能の種により+11)


 魔力量:11942/11942 (704+11238)


 筋力:   6969 (385+6584)

 知力:   5569 (386+4563)  ガルグイユ(+620)

 防御力:  6547 (379+5481)  ヴァラカン(+687) 

 魔法防御力:4488 (379+4109)

 敏捷:   3308 (379+2727)  ウィングドラゴン(+202)

 技術:   9315 (378+8937)

 幸運:   6358 (379+5979)


 加護:無し


 称号:《王蟻を討てし者》




 取得スキル


 ◆戦闘・戦術系統スキル

【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv9 【杖術】Lv9     

【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8

【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9

【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9

【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10

【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5



 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 

【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 

【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 

【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4

【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2

【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3



 ◆ジョブ系統スキル

【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10

【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv8 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6

【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10

【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7

【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6

【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5

【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4



 ◆生活系統スキル

【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8 

【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8

【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7

【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4

【隠蔽】Lv10 【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9

【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8

【逃走】Lv8 【忍び足】Lv8 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5

【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4

【視野拡大】Lv9 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4

【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3



 ◆純パッシブ系統スキル

【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9

【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10

【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9

【絶技】Lv9 【豪運】Lv8

【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6

【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4

【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8

【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv6 【光属性耐性】Lv6



 ◆その他/特殊(使用可)

【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv3 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7

【魔物使役】Lv7 【威嚇】Lv7



 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4 



 ◆その他/魔物(使用可)

【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv6 【突進】Lv7 【旋風】Lv6 

【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv7 【招集】Lv7 

【硬質化】Lv6 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv6 

【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv4 【火炎息】Lv6 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv5 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv6 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 

【不動】Lv6 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv4 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5



 ◆その他/魔物(使用不可)

【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  

【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv5 【結合】Lv8 

【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 

【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 

【膨張】Lv1



(大丈夫か? 大丈夫だな? よーし大丈夫だ、問題ない)



 自問自答しているのには当然理由があり、例のデバフ疑惑でステータス画面を直接見ることも、心に悪い影響を与えると強く理解していたからだ。


 ゼオとカルラの隠れ家に引き籠っていた時は、見たくても見られないこのステータス画面にどれほど苦しめられたことか。


 でも今は眺めたところで平常心を十分保っていられるのだから、やはり毒が薄らいだというか、俺の精神状態もだいぶ落ち着いてきたなと改めて認識する。



(はぁ~やっと納得できる強さの最低限に入ってきたって感じか?)



 手帳に残していたメモと比較すれば、より実感できる明確な伸び。


 戦争が起きる前よりも、ステータスは2倍か3倍くらいまで跳ね上がっていた。


 ただあれほど倒したというのに『俺自身のレベル』は上がっていないのだから、魔物と違い、『人』から得られているのはスキル経験値のみということもまず確定だろう。


 うーん、目新しいスキルの中でも特に効果が分かりにくいのは――……


 やっぱりこれかな?



【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による



「カルラ~、血飲んでるとこ悪いけど、ちょっとお風呂の横辺りに立ってみてよ」


「飲みながらでいい?」


「もちろんオッケー。そうそう、そこら辺。んーじゃ、1発目はこれで~『防壁』」



 唱えたのは、カルラを中心に半径3メートルくらいを意識した防御用結界。


 一番基礎であろうこいつを発動すると、言われてようやく気付ける程度の薄い膜で覆われていることがなんとなく分かる。


 足元に落ちていた小石をカルラに向かってヒョイと投げれば、案の定覆われた膜に当たり、僅かに波打ちながらポトリと落ちた。



「ほう。今度は結界魔法か」


「そうそう、効果が込める魔力次第っぽいから、応用も利きやすいタイプなのかなって思ってさ。カルラ、中にいて違和感は?」


「ん~何も感じないかな~?」


「んじゃ、お風呂から離れるように動いてみてよ」



 すると結界はその場に残ったまま。


 カルラが自ら結界を抜け出たような格好になる。



(なるほど……人などの対象ではなく完全に『座標指定』の固定型。その代わりロッジが入っても効果が持続するくらい出入りは自由か)



 気になったらしいロッジがウロウロしても割れたりしないのだから、そういう解釈でいいのだろう。


 防壁というくらいだから、結界に接触する速度――、あとは攻撃の意志でも関係しているのかな。



「『防壁』は飛来物を含む物理的な攻撃に、『封魔』は魔法による攻撃に、これは文字通りだね。なんか結界内に煌めく粉が舞ってるっぽいけど『燐光』は?」


「持続型の回復効果だな。【回復魔法】ほど特化はしていないが、傷や痛みだけでなく精神的な回復効果もあるとされている」


「へ~『回復』っていうよりは『癒し』って感じか。気持ちいいの?」



 そう問えば、結界の中で酒を飲んでいたロッジが答えてくれた。



「日の光に当たって眠くなるような感じだなこりゃ」


「んーロッジの場合は酔っぱらってるから眠い説もありそうだけど……もしかしたら睡眠デバフがあるかもって感じね~了解。で、『遮蔽』は――」


「すっごいよー! ロキも師匠も見えなくなったよ!」



 そう言いながらカルラは、結界内にいる俺達二人とはまったく別の方向に向かって話し掛けていた。



「"対象の姿を隠す効果"か。ただ俺はゼオが見えているわけだから、結界内にいる者同士だと問題なく認識できるわけね」


「効果は結界内にいる個人ではなく、結界そのものにあるからな。【魔力感知】や【気配察知】を使えばすぐに看破されるから、【隠蔽】が弱い者もいるなら、相応に魔力を込めた『遮断』と同時に使用することになる」


「ってことは、『遮断』が範囲型の【隠蔽】効果を齎すわけか……って、レベル5くらいを想定しただけでもかなり魔力消費エグいけど」


「効果を重く、そして重複させるほど魔力消費が跳ね上がるのは【結界魔法】の特徴だ。身を隠すより『物』を隠したい時に使うか、戦闘時に『防壁』『封魔』か『強化』の広範囲単体使用で、全体の守りか火力を上げるのが基本だな」


「ふむふむ、って、まだ『強化』は使えないし」


「結界範囲を自分中心ではなく、指定箇所にできているのならばもうすぐだ。たぶん次のレベルで覚えるだろう」


「あーそういえば、レベル1の時は範囲が自分中心だけだった気もするね」



 その後も物知り博士のゼオ師匠に確認しながら、目ぼしい新規取得スキルを実験していき、分かったことを手帳に纏めていく。




【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能


 これはゼオもあまり得意じゃないようで、以前教わった部分石化解除のほか、デバフ系効果を確率で蓄積させるということくらいしか分かっていないらしい。


 今回のファニーファニー戦で、戦闘中の強者に睡眠や石化を狙うのは相当しんどいことが分かったので、たぶんデバフの解除目的くらいでしか使う用途は無さそうである。


 ちなみに衣類に埋もれたままの石像2体は、スキルを使用してもまったく石化解除されなかった。




【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる


 属性が限定されているのは、レベル上昇ごとに扱える属性が1つずつ増えていくらしく、ゼオは闇までの基本8属性全てに加え、精霊を一つの生体として一時的に顕現させることもできるらしい。


 そんな話を聞くだけで、きっと全盛期は2位のバリーよりも遥かに強かったんだろうな~と妄想が止まらなくなってしまった。


 ちなみに副次的な効果で、発動しようと魔力を込めれば精霊が反応するため、その密度に応じて視界が対象属性の色に染まるのだそう。


 危ないからこんなところで試すなと怒られたので、これはどこかでコソッと練習しようと思う。




【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0


 扱いやすそうなスキル。


 レベル2であれば合計3つの魔法を溜めて同時に発動できるので、いつかは欲しい【合成魔法】っぽいことも一応できるようになる。


 難点はその準備に少し時間と手間がかかることくらいか。




【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40


 耐性が存在している以上は確率による成功なのだろうけど、異性限定のためここでは試せず。


 もちろん後が怖くて、上台地でもこんなスキル試せないし、使いどころがあるとはあまり思えない。


 時間や性別が限定されている分、【奴隷術】よりも成功した後の応用は利きそうだけどね。




【遠話】Lv4  範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10


 これもバリーが持っていたかなり嬉しいスキル。


 範囲の広さからも分かる通り、対象を目視せずとも範囲内にいれば発動可能で、その声は一方的に相手の目の前まで届けられる。


 注意点は頭の中に直接届くわけじゃないので、秘密基地からロッジに向かって喋った言葉を、横にいたカルラやジェネも普通に聞けるという現象が起きていた。


 用途に合わせて声量の調整は必要ってことだな。




【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 消費魔力25


 やっぱりあったかという気持ちと共に、自分が強くなったようにも感じられるスキル。


 しかしよくよく見比べれば、魔物専用スキル【突進】の最大距離数が長いバージョンであることも分かる。


 いつの間にか取れていたけど、説明からロブザレフとかいう、やたら速くて強い爺さんが持っていたであろうことはまず間違いない。




【視界共有】Lv4 指定した対象に触れながら発動することで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30


 誰が持ってたのか知らんけど、かなり面白いスキル。


 意識すればオンオフの切り替え可能で、対象の相手に憑依したかの如く見ている視界を共有することができる。


 ただ視界や意識を奪うことはないので、映す場面はその対象任せ。


 試したらジェネにも適用できた上に、どうやら共有されていることは分からないようなので、秒数の短い【透過】でも、記憶はそのまま残りそうな【魅了】でもなく。


 この【視界共有】こそが、風呂覗き用の最強スキルなのではないかと思っている。


 記憶を覗かれたら、俺は死ぬと思うが。




『毒』の疑惑がある【獣血】はゼオも一切分からなかったようだけど、目ぼしいスキルの情報がこれだけ検証できたのなら大満足。


 そう思って手帳を閉じようとした時、ゼオが真面目な表情で問い掛けてきた。



「ロキ、前々から気になっていたことだが、スキルの取得速度が異常に速いのは、何か特別な方法でもあるのか?」


「あー……」



 ゼオの目は、元々強者であったが故の好奇心ってところかな。


 自分も真似ができるなら――、そんな驚きと期待が混ざったような表情をしている。



 いつかは明かそうと思っていたし、もういつでだって明かしていいとも思っていた。


 ならばそろそろ頃合い。


 国を興した節目に、ここでもう一歩を踏み出そう。



「これも異世界人だからっていう理由になっちゃうんだけど、この世界に来た時から、倒した対象の持つ経験を一部得られるんだよね」


「倒したモノ……それはつまり、魔物ではなく『人』も、ということか?」


「そういうこと。そんな話、聞いたことないでしょ?」



 そう問いながらカルラやロッジにも視線を向けると、二人はポカーンと口を開けたまま。


 宇宙人を見たような顔をして固まっていた。



「あるわけがない。つまり先ほどの【獣血】とやらも、ロキが手に入れたということか」


「うん。もしかしたら『毒』になるスキルの『経験』も得ちゃった可能性があるから、どんな内容か分かるなら知りたかったんだよね」


「我は魔人だからな……獣人、もしくは【獣血】というくらいだから血の濃さを表しているのだろうし、獣の特徴が強く出ている者に当たった方が良いのではないか?」



 そう言われた直後に、ふと脳裏を過ったのはゴリラ伯爵の顔。


 あの人は人間だと思うけど、異彩を放つ存在としてはファニーファニーに近いモノがある。


 あの時は覗けなかったが、貴族としての情報があってもおかしくないし、どうせ様子見と治療も兼ねた挨拶に行かないといけないのだから、そのお礼ついでで聞いてみるかな。


 そんなことを考えていると、我に返ったカルラが横で騒ぎ始めていた。



「ロキのそれってズルくない!?」


「ん~でもその代わり、俺だけ職業加護を受けたくても一切受けられないんだよね」


「そんなに重要なの?」


「そりゃ重要だろ。選べば職に関連するスキルのレベルがいくつも上がるんだぞ? 鍛冶職なんて選ぶかどうかで作業効率が倍くらい違う」


「ロッジの上級鍛冶師は、たしか上昇補正がレベル+2でしょ? そうなるとスキルレベルが高くなってきた時ほど恩恵が大きいよね」



 そう伝えつつ、収納から取り出したのは『転職しよう 職業一覧 改訂版』の本。


 興味があるなら、少し勉強してみたらいい。


 その程度のつもりだったが――、真っ先に手を伸ばしたのは、意外にもカルラではなくゼオだった。



「ふむ……我は宰相であり大参謀だからな。興味はないが、勉強くらいしておくか。興味はないが」



 ブツブツと。


 独り言を呟きながらページを捲れば、カルラも無言のままゼオのすぐ横に座って一緒に眺め始める。


 そんな姿に笑みを零しつつ、干し肉を齧っていたロッジに問い掛けた。


 先ほどスキルを一通り眺めていて初めて気付いた、かなり重要であろう要素。



「ねぇロッジ。前にベザートの町で【鍛冶】スキルがレベル10になった時、何かが解放されなかった?」

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