第378話 思い通りにはさせない
「もしもし? もしもーし?」
なんだよ、二人ともカチコチに固まって、これじゃ人のこと言えないし。
そう思っていると、再起動したように身体をブルリと震わせ、ヘディン王が矢継ぎ早に言葉を吐き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、潰す? 管理? 我の聞き間違いか?」
「いえ、私も確かに、そのような言葉を耳にしたような……」
相当テンパっているのか、シラグ宰相は必死に両目を擦っているが、たぶんそこは耳の穴でもホジる場面だろう。
「まだ司令官の情報が偽りの可能性も僅かに残されているので、100%というわけではないですけどね。でもかなりの高確率で王家は消えますし、僕が消してきます」
「な、なぜ、そこまで……?」
王様としての素直な疑問か。
ラグリース王国に仕えているわけでも、何かしらの契約を結んでいるわけでもない。
にもかかわらず、あまりにも都合の良過ぎる展開に、喜びよりも疑問が先立っているように見える。
それは横のシラグ宰相も同じようなので、まずは一から説明する必要がありそうだな。
「えーと、まずお二人はこの戦争の根本的な原因を把握されていますか?」
「いや、交易路の封鎖や亜人種の拒絶が原因ではないというところまで理解していたが、それ以上ははっきりと分からず、未だ困惑したままというのが正直なところだ」
「左様です。経済難に喘いでいることは把握しておりましたから、もっと単純な、食料や遺物などの資源や豊沃な土地を求めてのことと推測しております」
「それらも間違いなく大きな要因の一つでしょうね。ただこの戦争の根本にあるのは、僕ではない異世界人とヴァルツ王家との間に存在している借金問題、そう南部侵攻軍の司令官から聞いています」
「……どういうことだ?」
「東の地にいる【空間魔法】の使い手、マリーはご存じですよね?」
「それは当然だな」
「あまりにも有名過ぎる人物ですから」
「そのマリーからヴァルツ王家は、経済を立て直すという名目で莫大なお金を借りたようなのです。どのような取り交わしがあったのかまでは分かりませんが、結果的に国はどんどん痩せ細り、最後は他所から奪うしか国を存続させる道がなくなった――、だから『戦争に勝利する』か『国が潰えるか』の二択を迫られていたと言っていました」
「なるほど。ニーヴァルの言っていた、あまりにも余力を残さない動きというのは、実際に余力を残す意味もないほど差し迫った状況だったということか」
「だからヴァルツ王家を、できる限り早い段階で潰しておかなければいけないんです」
この言葉にそういうことかと、二人は深く頷いた。
目の前にいるのは国の主幹だからな。
ここまで伝えればもう意味も十分理解しているだろう。
「ヴァルツの敗戦が確実となった今、ヴァルツ王家が残ればそのままアルバート王国に乗っ取られる可能性は濃厚。しかしそのヴァルツ王家が消えれば、契約自体が白紙になる可能性も出てくるわけか」
「そういうことですね」
「しかし相手は、あの強欲で有名なマリーです。いくら契約の相手が消えたとは言え、貸した金も戻らないまま我が国が占有を主張すれば、力ずくで奪いにくる可能性もありませんか?」
「もちろんその可能性は否定できません。ただ【空間魔法】は軍隊を遠い飛び地に運ぶことなどできませんし、マリーが表立って武力解決したという話は聞いたことがないんですよね」
「ふむ……それは、たしかにな」
「言われてみればそうですね」
どこの国でもマリーの話は出てくるし、その度に裏でコソコソとウザったい暗躍に精を出していることは分かる。
が、どれも現代知識を利用した搦め手で地盤を築いている印象が強く、ダンジョンの権利を奪おうとした時もそうだが、力での強引な解決は図っていない。
だからヴァルツも大丈夫かと言われればそういうわけではないが……
そんな方法も当たり前のように取るなら、既に大陸の東部は広範囲がアルバート王国に滅ぼされていそうなもの。
つまり積極的には武力行使しない、もしくはできない理由がある――。
そんな話を二人にすれば、分かったような分かっていないような、中途半端な角度で首が止まったまま固まっていた。
どう見ても、すべてに納得したような顔ではないな。
「ロキ殿の言いたいことは分かる。我らも戦後賠償など期待できないヴァルツに対し、どう落とし前をつけさせるか悩んでいるところであったが故に、ヴァルツの領土を全て引き取れるのなら渡りに船と言いたいところだが……」
言いながらヘディン王が横に目を向ければ、意を決したようにシラグ宰相が口を開く。
「なぜ、ロキ殿が自身でヴァルツの領土を活用しないのか。その点がどうにも腑に落ちないのです」
「潰す力があり、実際に潰すつもりであり、だが潰した後の最も美味しい部分だけは他所に譲る――これでは何かあるのかと、疑うわけではないが勘ぐってもしまうのだ」
が、ここまでの話を聞いて、俺はそんなことかと拍子抜けし、肩の力がガクンと抜ける。
「いやいや、だって面倒じゃないですか」
「「……え?」」
「僕の目的はマリーに大陸中央の拠点を作らせないことと、奪うことで自国の難を解決させようとした王家やあちらの高官を潰そうというくらいで、それ以上は狩りの邪魔にしかなりませんから」
「狩り……、一応確認だが、ロキ殿は変わらず、どこかの国に属しているとかはないのか……?」
「まったくないですよ?」
「そ、そうか」
「申し訳ありません。あまりにも発想が奇天烈と言いますか、想像の埒外だったもので、整理に少々お時間を頂きたく―――」
「なので、正直に言えばラグリースでなくてもいいんですよ。一応今回の戦争で大きな損害が出ているだろうと思って声は掛けましたが、僕としてはヴァルツという国が消えてくれればいいので、東のフレイビルに後処理を任せたっていいわけですし」
別に焦らそうと思ったわけじゃないが、本音でもあったためそのまま伝えた。
すると目の前の二人が本当に高位の立場にいる人間か? と思うほど慌てふためく。
「ちょちょ、ちょっちょお待ちうぉー!?」
「シラグ! 整理の時間などいらんわ! ロキ殿頼む。穏便に済ます故、ぜひヴァルツの後処理を我らに任せてもらえないだろうか」
「獣人も多くいますから、ヴァルツの国民だからと差別したりせず、平和にやってもらえるならそれで構いませんよ」
「ならば、ぜひ!」
「ぜひに!」
「ではすぐにカタが付くと思いますので、終わったらまた、今日か明日にでも立ち寄ります」
そう言って席を立った時、これもついでに伝えておくかと。
ベザートの動きにも少し触れておいた。
「あぁすみませんあと1つ、最南端にあるベザートという小さな町が、避難先になっているパルメラ大森林の中にそのまま移住するかもしれなくてですね。西側や壊滅した近隣からの避難民も結構いるので、僕も当然支援はしますけど、国の方でも忘れずに助けてあげてください」
「んん?」
「パルメラの、中……?」
転移する直前まで二人は揃って同じ方向に首を傾げていたけど、まぁたぶんなんとかはなるだろう。
それよりも時間は限られているのだ。
国がどのようにして切り替わるのかなんて、庶民過ぎる俺にはまったく想像もできない。
でもマリーがもしこの戦争まで画策していたとして、戦力的に勝利は揺るがないと判断していた結果が覆ったとすれば、すぐにヴァルツという国がアルバート王国の飛び地に代わってしまう可能性もある。
そうなれば相手はそのままマリーとなり、大陸有数の大国と敵対ということになってしまう。
ここまでステータスが伸びれば、そう簡単に負けるとは思えないけど、どうせやり合うなら金を吐かせてからの方が良いしな。
飛んだ先は拠点の上台地。
そこでアリシアに現在の状況と、戦争に至ったまでの経緯を分かる範囲で報告し――。
初の王家ということもあって、監査役を希望したリアと一緒にヴァルツ王国の王都。
『エントラ』に降り立った。
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