第351話 ご馳走様でした
誰よりも先に飛びかかってきたのは、俺を喰らうと息巻いていた獣人の男だった。
相手からしてみれば、周囲は決して味方などではなく、同じ獲物を狙うライバル同士。
真っ先にチャンスをモノにしようとしたのだろうが。
「ぶへぇ……ッ……」
「まず一人」
【突進】で一気に近寄りながら迫りくる男の頭部を掴み、【踏みつけ】を使用しつつ地面へ叩きつければ、不快な感触と共に死んだことを証明するアナウンスが流れ始める。
『【罠探知】Lv3を取得しました』
『【俊足】Lv7を取得しました』
だが内容は僅かに目を向ける程度。
とてもじゃないが、この状況でじっくり眺めている余裕などない。
続く傭兵の剣撃を往なしながら腹に蹴りを叩き込み――
「ぐふっ……」
『切り裂け、"穿嵐"』
そのまま地表を水平に進む鋭利な竜巻を発生させれば、後ろにいた女も血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
仕留め切れたのかどうか。
『"雷光"、一線、薙ぎ払え』
分からなければ追撃するまでと、そいつらも両断するつもりで、指先から発した雷光を半円に薙ぐが。
「ぬぐッ……こ、こいつ、平気で突き破ってくるぞ!」
「?」
一瞬だけ可視化された膜のようなモノが弛み、しかしそのまま突き破れば、雷光は奥にいたまったく別の二人を辛うじて両断していった。
『【発動待機】Lv3を取得しました』
『【演奏】Lv4を取得しました』
『【回復魔法】Lv6を取得しました』
『【魔法射程増加】Lv3を取得しました』
(あれは結界の類か……?)
傭兵連中は個人戦のように見えるが、中には支援に回っているやつもいるということ。
厄介ではあるも、これだけ数がいたのでは、どいつが術者なのかも判別できない。
ならば、一人ずつ潰して――――。
「……」
距離を空けては不利と判断したのか、視界には武器を握り迫りくる、10名以上の傭兵達。
しかし踏み出そうとした足は動かず、心がざわつく。
原因は分かる――背筋を僅かに伝うこの感覚、これは【威圧】だ。
しかも、一人じゃない。
ならば――。
――【咆哮】――【灼熱息】――
「ぐっ、がぁあああああああああああッ!!」
ギリギリまで引き寄せたところで雄叫びを上げ、範囲威圧を返してやれば、足が竦み、恐怖に引き攣った顔をしながらも、これから何が起きるのかだけは理解したのだろう。
「ま、待っ…ッギィイイイぁあアアア!」
「ふざ、っぐぅォオオ……」
「ぁ……づッ……」
『【斧術】Lv7を取得しました』
『【手加減】Lv2を取得しました』
『【二刀流】Lv3を取得しました』
『【聞き耳】Lv5を取得しました』
『【疾風】Lv7を取得しました』
『【探査】Lv7を取得しました』
過去に一度だけ試しで使ったきりだったが、あの当時より『知力』が大きく伸びたせいか、想像以上に範囲と威力が上がっているな。
それに相変わらず、体毛が豊かな獣人相手だと火は相性が良い。
――【発火】――
「クヒッ!」
「……ッ!?」
【飛行】しながら灼熱の海を潜り抜けると、突然の猛火に慌てふためく後衛職の群れ。
着地と同時に剣を真横へ振り抜き、向けてきた杖をへし折りながら、視界に入る傭兵達の身体を二つに割っていく。
『【暗記】Lv6を取得しました』
『【結界魔法】Lv2を取得しました』
『【結界魔法】Lv3を取得しました』
『【結界魔法】Lv4を取得しました』
『【魔力譲渡】Lv4を取得しました』
「穿てぇえええ! "氷牙"ッ!」
悲鳴とは異なる声が聞こえたのは後方から。
視線を向けると、目の前には既にいくつもの鋭利な氷塊が存在していた。
「ッ……」
5つ、6つと着弾し、思わず一歩後退するも、この程度の痛みならば問題はない。
「そ、そんな、なんだよその纏う炎は!?」
「さぁ? それより自分の心配をした方が良いですよ」
炎を纏った剣を振り上げれば、咄嗟に氷の壁を生み出そうとしているがどうでもいい。
「くっ! 我が身を守れ、氷壁……ッ……」
「あってもなくても、結果は大して変わりませんから」
『【光属性耐性】Lv1を取得しました』
『【氷魔法】Lv7を取得しました』
これで右方に固まっていたやつらは全滅か。
次は中央――、そう思って視線を向けた時。
「調子に乗んなよ異世界人がぁああああああッ! 【挑発】!!」
「ッ!?」
唱えたのは、ばあさんくらいに強いと判断したうちの一人。
盾は持っておらず、かなり大きな特大剣を上空に掲げていた。
視線はその男に向き、その男以外は目に入らなくなる。
考えてみれば、初めての経験だった。
理性は――、まだ働くが、それでもこの男を殺したい衝動はかなり強く、自然と俺の足は駆け出してしまう。
抗おうにも、速度を緩め、周囲に無理やり視線を向ける程度の効果しかない。
(まぁいいか……)
【不動】を使い、自分の足を強引に止めるという手もあった。
が、身動きの取れない時間を考えれば、今はそのまま攻めた方が良い。
都合良く、向かう先には待ち構えるように武器を構えた傭兵達がおり、その者達の背後には詠唱に入っている後衛職も多くいた。
『風よ、動きを封じ――
詠唱しながらも、先に切り替えておいた大剣を全力で斬り上げる。
ガキン――ッ!
「ぬぉおおッ!? どこからこの武器を……ッ!!」
一人も、逃がすな』
目の前の男が振り被る特大剣を強引に弾いたところで詠唱が完了し、周囲を身体が舞い上がるほどの暴風が襲う。
「でけぇ! は、話が違うじゃねぇか……ッ!?」
「ぬ、ヌグォオオオオッ……この、魔力……」
ギニエでアシューが使えていたのなら俺でも使えるだろう。
イメージは拘束力に特化させ、より範囲を広く、強力に。
絶対に、一人も逃がしはしない。
まずは、全員を捕らえ、そこから狩る。
『周囲の、烏合を―――』
「まずい!」
「ま、また『風』か!?」
「ハッ……ふ、ふざけ、やがって……!」
『一人残らず、皆殺せ、"天雷"』
「冗談じゃ……っ……」
「ッ……クソがぁああああッ!!」
「抜け出……ぃギィイイイイイイッ!」
『【封魔】Lv5を取得しました』
『【魅了耐性】Lv3を取得しました』
『【遠視】Lv7を取得しました』
『【忍び足】Lv6を取得しました』
『【庭師】Lv2を取得しました』
『【光魔法】Lv6を取得しました』
『【魔法射程増加】Lv4を取得しました』
『【芸術】Lv5を取得しました』
まるで蜘蛛の網に引っかかった虫のように。
『【暗器術】Lv4を取得しました』
『【暗器術】Lv5を取得しました』
『【暗殺術】Lv1を取得しました』
『【暗殺術】Lv2を取得しました』
『【暗殺術】Lv3を取得しました』
『【暗殺術】Lv4を取得しました』
『【発動待機】Lv4を取得しました』
『【罠探知】Lv4を取得しました』
『【魔力操作】Lv7を取得しました』
『【魔力感知】Lv7を取得しました』
手足をバタつかせて必死に足掻くも、"天雷"を撃ち続けることで次第にその動きは鈍くなっていく。
『【両手武器】Lv5を取得しました』
『【挑発】Lv6を取得しました』
『【槍術】Lv7を取得しました』
『【絶技】Lv7を取得しました』
『【心眼】Lv6を取得しました』
『【奴隷術】Lv5を取得しました』
(まだ動いているのは――……チッ)
『【剣術】Lv8を取得しました』
『【身体強化】Lv7を取得しました』
『【二刀流】Lv4を取得しました』
『【鋼の心】Lv6を取得しました』
『【物理攻撃耐性】Lv7を取得しました』
【探査】と【気配察知】を併用しつつ、目視で生き残りの数をカウントしていると、最後の最後で一人、不可解な動きを取る者が現れた。
「面倒なことを」
視線を向ければ、がむしゃらに東へ走る一人の獣人。
その尻尾は、先ほど俺に逃げるなと警告した、狐のようにも見える。
ははっ、逃がすわけが、ねぇだろ。
――『転移』――
「あヒッ!?」
行く先を塞ぐように前へ出れば、俺の雷に何発か打たれたせいか。
体毛は焦げ縮れ、黒く膿んだような部分がいくつも見える、哀れな獣人の姿がそこにはあった。
だが心なしか、その傷がゆっくりと再生していっているようにも見える。
まぁどうでもいいか。
スキルは視えずとも、コイツを殺せばその理由も分かる。
「逃げるなんてツマらないことしちゃダメですよ?」
「ハッ……ハッ……こ、ここまでとは聞いとらん! それにその、禍々しい魔力はなんなのだ!?」
「これから死ぬ人が知ったところで意味はないでしょう」
「ま、まま待てぇい! な、ならばおぬしの下につこう! 傭兵ランク14位のワシを生かせば希少な能力はがぁ……ッ……!」
「必要ありません。自分で使いますから」
「ふ…ぐっ……な、なにを、言って……?」
……すばしっこいな。
腹や頭から血を流してなお命乞いをするも、そんなのは今更だ。
戦争に参加することを罪とは思わないが、あわよくば俺を仕留め、特別報奨とやらで何かしらの甘い汁を吸うつもりだったのだろう?
最初から敵対なんてしなければ良かった、それだけの話だ。
「殺すつもりで戦った以上、あなたはもう僕の餌、大人しく死んでください」
「ま――『ピュッ……』………」
『【読唇】Lv1を取得しました』
『【読唇】Lv2を取得しました』
『【杖術】Lv7を取得しました』
『【魔法攻撃耐性】Lv5を取得しました』
『【神聖魔法】Lv1を取得しました』
『【神聖魔法】Lv2を取得しました』
『【明晰】Lv7を取得しました』
はぁ――……
「ご馳走様でした」
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