第271話 パワレベ

「【鍛冶】スキルはレベル6、そっから<上級鍛冶師>の加護でさらに+2上がってるし、それなりのSランク装備を今まで造ってきたからな」


「ということは?」


「Sランク装備までなら完璧なモン造ってやれる」


「ほ、ほ、ほほぉ~!」


 朝一番。


 酒を抜くためとか言いつつ、酒の入ったジョッキ片手に朝風呂を堪能していた頭の悪いロッジに詰め寄れば、あっさり聞きたかった答えを教えてくれた。


「なんで今更だ? 聞かれねぇから、てっきりバルニールで俺のことを聞いてるもんだと思ってたぜ」


「え、いやまったく……なんか、聞いちゃマズいかな~って遠慮しちゃってね」


「仕事にしてる部分なんだから隠しやしねぇよ。つーか、そんなことも知らねーで俺んところに尋ねてきたのか……」


 なんか「ケッ」って文句言いながら鼻の頭を指でこすってるけど、おっさんドワーフの照れとか全然見たくないし!


 でもこれで当面の装備は安心といったところだろうか?


 Aランクまでかと思ったらSランクまで作れるとか、実はロッジってかなりやり手だったっぽいけど……まぁ今そこを気にしてもしょうがないしな。



 その後も風呂を揺すりながらアレコレ聞けば、どうやら【鍛冶】スキルを祈祷で上げたことはなく、本当の努力と経験だけでレベル6までもっていった模様。


 ロッジに限らず親や周りから【鍛冶】スキルは祈祷で上げても、経験が伴わなければ意味がないと幼少の頃から教わっていたためで、ドワーフはジョブ系スキルの特徴がしっかり子へと引き継がれているんだと思う。


 その分、予期せぬ戦闘の機会などで少なからず得られた貢献度は、【身体強化】などの補助スキルに使われることが多いらしく、ドワーフという【鍛冶】に特化した種族だからこそ、有能鍛冶師への道が最適化されている印象だ。


 でも、そんな説明を受けた上で敢えて俺は伝える。



「よし、パワーレベリングしよっか」


「は?」



 素っ頓狂な声をあげてるけど、ロッジが生粋の鍛冶職人である以上、俺の意思は変わらない。


 どうせこれから、パルメラ内部でスキルのレベル上げに励むのだ。


 まぁ1週間もすればロズベリアの解体場が落ち着くと思うので、そうしたらまたパンクするまでクオイツでお金とスキル経験値稼ぎはするだろうけど、パルメラ内部であればわざわざ空間転移する必要もなく、ただ後ろをついてきてもらうだけで経験値を渡せる。


 おまけに拠点周りは脳筋タイプばかりで、魔物の動きもそこまで素早いわけじゃない。


 ここなら撃ち漏らしてロッジが襲われる心配もないので、安心してパワレベに励めるってもんである。



 それにロッジは生粋の鍛冶職人だ。


 取得スキルの選択が多いハンターや、将来の道にまだ悩んでいる人だったらこんなこと言わないけど、【鍛冶】一本で食っていくと決めている人なら無理やり祈祷で上げてしまっても損はない。


 それが女神様達の活動を見ていてなんとなく分かってしまった。



 アリシアは家なんて作ったことがなく、当初は最初から斜めになっているボロ小屋をグダグダになりながら組み立てていた。


 でも気付けば練習台となった多くの廃屋と引き換えに、しっかり住める程度の小屋はなんだかんだで完成させているし、他の5人も日を追うごとに作りかけの家がまともになっていく。


 それはたぶん、女神様達全員の【建築】スキルが圧倒的に高レベルだからだ。


 ジョブ系スキルは備わっている知識や経験を拡張させるというのは合っていると思うけど、しかしスキルレベルが高ければ、その知識や経験が身に付く速度はレベルの低い者と比べてかなり上がっているとしか思えない。


 ならば一つの道を極めたい人限定で、先に素のスキルレベルをゴリゴリ上げて、職業加護との合算『スキルレベル10』を目指してしまった方が効率は良い。


 その後にもし、自然上昇だけで素のスキルレベルが10にでもなろうものなら、その時は職替えして、加護の恩恵を不十分な別スキルに組み替えてしまえば損になることもないだろう。



 この説明に理解したようなしていないような、訝し気な表情を浮かべていたロッジだったが。


「SランクやSSランク素材が手に入った時、スキルレベルが高いと得られるモノも多いはずだから」


 こう伝えれば、目をギラつかせながらすぐに返される。


「手に入る見通しがあるのか?」


「《クオイツ竜葬山地》のボスを見てきたよ。すぐいけるかはまだ分からないけど、そのうちアレは俺が倒す。必ずね」


「ほう、『ガルグイユ』か……久々に思い出したな」


 ジョッキに入っていた酒を一気に呷り、ザバーッと風呂から出るロッジ。


 下台地はオカマっぽいのが一人いるけど、一応全員男だから問題ない。


「ならおまえの案に乗っとくか。あの素材に手を掛けるのは、ドワーフの憧れだからな」





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 その日から二日間、拠点周辺で俺とロッジのペア狩りはひたすら続いた。


 ちょくちょく溶かす装備を炉に足すので倉庫帰還はしてたけど、俺は木の伐採をしながらさらに土地を広げ、見つけた魔物を片っ端から斬り伏せていく。


 そんな光景を、ロッジは足元が材木だらけの後方に立ちながらジッと眺めていた。


 終わった箇所はカルラがどんどん材木と魔物の死体を回収し、ゼオがすぐに材木の処理に当たっていたので、なんだかんだと拠点周りの拡張作業は効率的だったと言える。



「どう、敏捷の違いは感じられる?」


「いや、最初の頃と比べたらもう違いが分からなくなってきたな」


「ん~外から見たって全然分からないし……でもまぁ、そろそろ打ち止めかな?」



 この世界の住民にレベルの概念がない以上は何もかもが手探りだ。


 その中で一番判別しやすいと思ったのが『敏捷』だったので、とりあえずロッジには目の前で反復横跳びをやってもらった。


 樽みたいな小さいおっさんが、真顔で左右にピョコピョコしている姿は誰得なのか分からないが、成長を測る上ではかなり重要なことだからね。


 1日目は予想通りというか、敏捷値が爆上がりしたっぽくて、ピョコピョコがピョンピョンとした跳ねるような動きに。


 2日目も昼くらいまではピョンピョンがピュンピュンくらいにまで成長したけど、そこからはあまり大きな変化が見られなくなってしまっていた。


 つまり爆上げゾーンはここで打ち止め。


 推定だが現在レベルは50程度といったところで、ここからはもう本格的で地味なレベル上げに突入だろう。


 ならばあとは本人が望むかどうか。


 とりあえずこれで全体的なステータスが上昇して死ににくなっただろうし、たぶんスキルポイントも必要量は既に満たしている可能性が高いはずだ。



「んじゃ、一回最寄りの教会に行って試してこよっか」



 上台地にも人が住んでいることは伝えているけど、さすがにそれが神様とは言えないからなぁ……


 でも頼んだら、もしかしてやってくれるのだろうか?


 そんなことを考えつつ、俺とロッジは二人でベザートの町へと転移した。

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