第268話 新しい仲間

「俺はロッジ、<上級鍛冶師>だ。ロキが鍛冶師冥利に尽きることばっかり言いやがるもんだからここへ越すことにした。装備の製作と、あとは金物も一通り作れるから、何かあれば遠慮なく言ってくれ」


「我はゼオ・レグマイアー。職はないが、強いて言えば魔人であり吸血人種だな。訳あって力が戻らぬ故、今は家作りなど細かいことをしながら鍛錬している」


「カルラです! 同じく吸血人種ですけど、たまにロキから血を貰うくらいで普段は魔物の血しか飲みません! ロキとボクが狩った魔物の解体を担当してるから……ねね、ロッジさんに素材を渡せばいいの?」 


 なぜか自己紹介の途中で俺に話を振ってくるので、頷きながら答える。


「皮を乾かすのは今まで通りでいいとして、食料以外の素材は全部巨大倉庫に運んじゃっていいよ。そこから何を使うかはロッジさん次第だろうしね。ゼオも荷車を使って協力してあげて?」


「あぁ、任せておけ」


「りょうかーい!」


「話には聞いていたが、ロキの仲間だけあって聞いたこともねぇ種族なんだな! まぁよろしく頼むぜ!」



 王都ファルメンタで【空間魔法】を誤魔化すために用意した荷車は、地味にこの拠点で役立っていた。


 今はゼオが転移で荷物を運ぶ用に使っているし、カルラにも俺がもう使わなくなった特製籠を預けているので、荷物移動もこれで多少は楽になるだろう。


 それにしても、魔人や吸血人種なんて言葉が出てきたのに、ロッジさんはまったく動じていないか。


 種族で人を見ないと言っていたし、本人にとっては些細なことなのかもしれないな。


 その反応を見て、ゼオとカルラも明らかに安心した表情を浮かべている。



(あの二人も見学中かな?)



 俺は視線だけを崖の上に向ける。


 今回アリシアは挨拶に来ない。


 それは昨日の段階で決めていたことだ。 


 アリシアの目的は上台地の代表として、拠点を見守りながら下台地との繋ぎ役を果たすこと。


 その下台地で代表ポジションのゼオとは顔合わせを済ませているので、これ以上の接触はただのリスクにしかならない。


 過去の大戦から同じ轍を踏まぬよう学ぶにしても、あの二人くらいしか当事者なんていないわけだし、そもそもとしてロッジさんは二人と違い飽きればまた町に戻る可能性もあるわけだしね。


 だからアリシアは素直に見守ってくれていると思うが……リルは大丈夫かなぁ。


 たぶんアリシアが家の作り方を学んだことから、自分も学べると思ったのだろう。


 今回は自分が挨拶に行くと騒いでいたが、そんなの誰も許すわけがない。


 リルが絡めば、いつかそのうち、絶対にバレる。


 そしてバレた時、いったいどうなってしまうのか誰も分からないのだ。


 気付けば全員この世界から消し飛んでましたなんて状況になっても困るので、上台地は自由にしてもらっていいけど下台地への接触は厳禁。


「神様らしく、そこは見守りましょう」と、皆で説得するしかなかった。


 リルは拗ねていたけど、こればっかりはしょうがないだろう。


 逆になんで一般庶民の俺が、神界のルールを意識しなきゃいけないんだと文句を言いたいくらいである。



「んじゃ早速資材倉庫にいきますか」


「あんなデカい滝を見るのも初めてだが、ここまでデカい倉庫を見るのも生まれて初めてだ」


「どうせなら大きい方がいいでしょう? そのまま仕事場にしてもらっても構いませんから」


「あぁ……………………ぁ……?」


 倉庫の内部は、上の隙間から光が多少入ってはくるにしてもかなり薄暗い。


 それでも壁際にうずたかく積み重なった素材はすぐに理解できたようで、ロッジさんは言葉を失っていた。



「ライト~」



 素材は昨日のうちに倉庫内へ運び込んでおいたからね。


 倉庫の左側には昨日の宝探し分も含めて、金属製の装備類がそれこそ山のように。


 そして右側には現金化していて以前よりだいぶ減ったが、それでもカルラの狩った近隣の魔物素材がこんもりと積まれていた。


 奥の森側には野盗討伐の戦利品装備や、レイド戦の時に殲滅したハンター達のレザー系中古装備が雑多に並べられており、これらはどう処分するか悩み中でとりあえず保管したままになっている。


 下級素材の短剣なんかは解体用需要もあるので、パイサーさんのところに流す気満々だが、他の装備はあまりやり過ぎると逆に商売の邪魔をしてしまう可能性もあるからな。


 だいぶ現金も潤ってきたので急ぐ必要はないし、相談しながら明らかに不要というやつだけ、どこかの町でそのうち現金化すればいいだろう。


「今日の夜には光源用魔道具をいくつか買っておくんで、今はちょっと薄暗いですけど我慢してくださいね」


「そ、それは問題ない」


「あとはー……傭兵もやってるんで、金属製装備は今後の討伐依頼次第、魔物素材は世界を旅しているので、狩場を巡りながら様々な種類を回収してくる予定です。不足素材があればまとめて狩ったりはできますんで、その時は遠慮なく言ってください」


「マジで最高、だな……」


「でしょう? 竈なのか炉なのか分かりませんけど、1個じゃ足らないかもしれませんよ」


 そう冗談のつもりで言ったのだが、ロッジさんは本気のアドバイスと捉えたらしい。


 真顔で「これは増やさないと駄目だな」と呟いていたので、とりあえず本人のやりたいことを存分にできそうで何よりである。



 その後は拠点の食卓となっている野外の石テーブルで、ロッジさんと多少の擦り合わせを。


 言える範囲でできることや鍛冶以外の得意なこと、普段どんな生活をしていたのかも一応聞いておく。


 薄々分かっていたけどお金にそこまで頓着はなく、面白い素材と量を重視したお酒があればOKという話なので、悪党討伐の戦利品で出てきたお酒は全部ロッジさんに渡しておけば良さそうだな。


 そして装備製作は、やるなとは言わないけどほどほどに。


 特にレザー系統の防具は、作った後の現金化が大変ということをしっかり理解していたようなので、とりあえず金属装備を片っ端から溶かしつつ、俺、カルラ、あと一応ゼオの装備を一式作った後は、素材をあまり無駄にしないやり方で『複合素材』という分野を研究するらしい。


 なので慌てて素材別に分類しながら、俺はダマスカス製の剣を2本、カルラはハルバードみたいな身長の2倍くらいありそうなダマスカス製の斧槍をゲット。


 ゼオに【鑑定】してもらったら【付与】が一つは【剛力】、もう一つは【雷属性】だったので、いずれ溶かすのは確定だけど、ロングソードを練習する分にはちょうど良い武器である。


「それじゃ狩りに行ってくるんで、何か町で買い出ししてほしいモノがあったら、あとで教えてくださいね」


「あぁ分かった。それとロキ」


「はい?」


「言葉は普通で良い。俺だけそんな丁寧じゃおかしいだろ?」


「あ、ごめん……それじゃロッジ、行ってくるね」


 腕を組み、深く頷く姿を見ながらロズベリアへ転移する。


 ゼオにも言われたことだし、いい加減自分から言えるようにならないとなぁ……


 以前より慣れてきたとはいえ、仕事のように演じられない状況だと、どうしても人との距離を詰めていくのは難しいし怖い。


 それが人生経験豊かな年上となれば猶更である。


 でも、ちょっとずつ、ちょっとずつ……



(今度似たような状況があれば、その時は自分から言ってみよう)



 そんな狩りとは別の細やかな目標を立てながら、俺は地下の宝探しを再開した。

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