第264話 本命の地下

《クオイツ竜葬山地》二日目。


 地上で一気にスキルレベルを伸ばせる【衝撃波】【風属性耐性】の2種スキルがほどほどに上がったので、二日目となる今日は本命の『地下』へと訪れた。


 入り口付近にある目立つ穴から洞窟内部へ侵入すれば、地下へと続く傾斜が長く続いており、まだ辛うじて日の光が届く先には水場も確認できる。


 横を迂回すればさらに奥まで続いているようだが、先の方は暗闇で何も見えず、手前側では水場との境界辺りで数組のハンターが魔物と対峙していた。


 壁際には他にも何人か人影が見えるな。



 ――【夜目】――



(ふーむ、これが順番待ちってやつなのか?)



 スキルレベル7までいけば色彩は豊かになってきており、セピア色よりももう少しハッキリとした色合いで眺めることができる。


 だからこそ、人だかりの中に、見知った顔の人間がいることに気付けた。



「おぉ、グロムさーん!」


「ん?……もしかして、その声はロキか!?」


「あーちょっと暗くて分かりにくいですよね。ライト~」



 これだけの暗闇なら魔力の色なぞ問題ない。


 そう思って頭の上に光る玉を用意すれば、順番待ちの人達が一斉に照らされる。


 何人かから「今どうやって発動したの!?」って騒がれたけど、本題はそこじゃないので苦笑いしつつ全力スルーだ。



「やっとここに来たんだな!」



 おへ~、肩をバシバシ叩かれると衝撃が。



「えぇ、昨日からですね。今日はどんなものかなーと地下を探検予定なんです」


「た、探検……一人でここをフラつくとは、相変わらずのようだな」


「はははっ……って、前見た時と武器が変わってるじゃないですか!」


「ふふ、お蔭様でな」



 洞窟の中だから色味はちょっと微妙だけど、前とは形状の違うかなり大型な片手剣がそこにはあった。


 剣身の部分がかなり厚く、殺傷能力というよりは守り重視の印象を受ける武器だ。


 これは素材量からしても相当お金かかってんだろうな~と、中途半端に学んだからこそ余計なことまで考えてしまう。



「この厚みは凄いですね。攻めより守りの武器って感じがします」


「俺はタンカーだからな。武器だっていざという時は防御に回せなきゃ意味がないんだよ」


「おいおいグロム、俺達にも紹介してくれよ。この少年が例の空を飛ぶ救世主か?」


「あぁ、俺の命の恩人だ。ロキ、こいつらは俺のパーティメンバーだ。もう組んで15年近くになる」



 そう言われて視線を向ければ、グロムさんと同じ30代半ばくらいの男性1名、謎の熊が1名、女性2名が軽い挨拶とともにペコッと頭を下げるので、俺も釣られてもっと深く頭を下げる。


 礼儀正しいし、悪い人達じゃなさそうで一安心でございます。



 それにしても、随分と珍しいパーティ構成だなぁ。


 デカいハンマーを持った二人に槍が一人、それに後衛の杖職が一人か。


 防具はグロムさん以外必要最低限といった感じで、見方を変えれば防御面を捨てているとも取れる。


 視線であちらも気付いたのだろう。


 どう見ても熊にしか見えない年齢不詳の獣人が、グロムさんを助けてくれたお礼だと言って、この地での狩りのノウハウを教えてくれた。


 どうやら怖そうな見た目と違い、おしゃべりが大好きなおじさんっぽい。


 竜種の血は高価で、素材価値に差が出やすい部分でもあるため、斬るより叩き潰す方法が推奨されていること。


 純タンカー以外はなるべく軽装にし、水中戦での機動力を極力落とさないようにしていること。


 その他、複数ある穴の危険性や地下の簡単な構造、細かい注意点まで、現役で活躍している人達の生の声というのは本当に有難い。


 他の人達も補足で説明してくれたりしているので、相当慣れた人達なんだろうね。


 そしてグロムさん達の順番というところで、俺は改めてお礼を言いながらその場で浮いた。



 グロムさんもその仲間も皆が大人で、理解してくれていたのだろう。


 だからこそ、アドバイスだけに徹してくれていた。


 狩り方の土台が違うのだから、しょうがないのだ。


 せめてものお礼に【鼓舞】を唱え――



「それじゃ、奥も探検してみます! 頑張ってくださいね! ありがとうございました!」


「あぁ! 以前のような無茶はするなよ! 今度また、飯でも食おう!」



 またどこかで会えば、その時々で自分にできるちょっとしたお返しを。


 そう思いながら、一人暗闇の先へと【飛行】していけば、



(ははっ、いるいる!)



 1つ地底湖を越えれば、その奥は魔物の楽園だ。


 ところどころ天井の隙間からうっすら光が降り注ぐ中、俺はノソノソと陸地を闊歩する4足歩行の青みがかった竜――クエレブレを見つけ次第斬り伏せていく。


 魔力を消費せずに数をこなすとなれば、結局俺にはこれしかないのだ。


 換金効率は落ちても、『スピード』と『数』でカバーすればいい。


 それに、



『【地形耐性】Lv1を取得しました』



「ハッハーッ!」



 この面白そうなスキルの経験値がもっと欲しくてしょうがない。


 どう解釈すればいいのかはいまいち分からないけど、とりあえずパッシブ型な上にAランク魔物でも所持スキルがレベル1。


 ちょっとレアな匂いもするこのスキルは応用が利きそうというか、あればかなりの場面で役立つ気がしてならない。



「ほーれ、寄ってこい」



 そこら辺に落ちている石を湖面に投げながら、斬り落としたクエレブレの首を地底湖に向けて振り回す。



 ざわざわざわ――……



 すると血の匂いに釣られて、地底の穴からオオサンショウウオのような……しかし

もっと蛇のような形状をした、気持ち悪いミズチという魔物が何匹も浮上してきた。


 これも先ほど、『音と血にかなり敏感だから注意しろ』と言われた先輩達からのアドバイスだ。


 それらを空中から斬る、斬る、斬る!


 水の中に入ったらクッソ寒いからね。


 極力水に触れず、魔法も無駄撃ちせず、斬っては収納、斬っては収納と繰り返し、視界内の魔物が綺麗になれば、また次の新鮮な場所へと移動する。


 そして、奥から先ほどとは別のハンター達であろう声が聞こえてきたところで、手前にやっと探していたモノを確認した。


【夜目】でも底が見通せない暗闇――地下に存在する深い谷だ。



(さーて、どうなるか)



 俺は吸い込まれるように、その谷の内部へと潜っていった。

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