第219話 久々の防具

 いつもよりはちょっとのんびりした朝。


 あまり早く動いては店が開いていないかもしれないと、ヴァルツ王国北東の出店を物色しながら、情報収集もしつつ防具屋へ向かう。


 聞けば狩場の入り口周辺にある大きめの建物。


 あそこには宿屋もあれば、装備のメンテナンスを専門に扱う鍛冶師もいるようで、あの通りだけでハンターなら暮らせてしまうくらいには必要な環境が整えてあるらしい。


 ただどこも最低限な上にやや費用は高めらしいので、なんだかんだと皆上手く使い分けているみたいだけどね。


 俺も【飛行】できなかったら、今は書状を使わず実績にも結び付かないので、素材売却は多少安かろうが迷わず狩場の出入り口付近で済ましちゃっていただろう。


(おっ! めちゃウマそっ!)


 牛のステーキっぽい串肉を見つけ、ついでに店員さんお勧めの防具屋を聞き――


 モグモグと齧りながらも徒歩で向かえば、なんだか見た目はボロい小屋みたいな店に到着。


 内心不安になりながらも、中で人の動きを感じたのでドアを開けてみれば、


「ほい、らっしゃい」


「おっふ……らっしゃいました」


「あ?」


 思わず変な日本語が口から漏れるほど動揺してしまった。



(ぬほぉおおおおおお! ここでまさかのフライングドワーフ! そしてやっぱり小さいじゃーん!!)



 身長は俺よりもさらに少し小さいくらい。


 ずんぐりむっくりしていて樽みたいだが、腕は太く、ブリッとした血管が浮き出ている。


【洞察】を使ったわけじゃないけど、決して弱くはない。


 そう感じさせるオーラを放ったおっちゃんだ。


 まず東のフレイビル王国からこの国に入ってきたんだろうなぁ。


 髪も髭も黒いから働き盛りって雰囲気だが、何か事情があるのかもしれないと、過去に学んだ俺は触れずに本題へ入る。


「えーと、出店の人にお勧めの防具屋を聞いていたらここを案内されまして。サラマンダーの皮を使った火耐性のある防具を作りたいんです」


「その年でか。おまえさん見た感じは普通の人間だろう?」


「ですです。でもBランクハンターですし、昨日も狩ってきたんで素材は持ち込みを考えています」


「ほーう、やるじゃねぇか。んで、何が聞きたいんだ?」


 お、おおっ……


 ドワーフのおっちゃんも小さいからか、いつもみたいに子供だと侮られて話が一向に進まないなんてこともない。


 なんだよ普通に買い物できそうじゃんと、ただそれだけのことで思わず感動してしまう。


「素材持ち込みの場合の費用と、あとは出来上がりまでの時間ですね」


 依頼するかどうかはここ次第。


 お金がわけの分からないレベルに高い値段じゃなく、そしてレイドに間に合うならお願いしちゃってもいい。


 逆にレイドに間に合わないなら――必要かどうかで言えばかなり微妙なところだな。


 耐性防具が無くて恥を掻く可能性はあっても、死ぬ可能性は今のところまったく見えない。


「火岩洞で使うなら肌の大半を隠すフルレザーアーマーの方が良いだろう。職によっては顔も口元まで覆ったり頭部までしっかり守るやつもいたりするが、そこまで必要か?」


「ん~どんなものか、完成品というか見本みたいなのってあります?」


 店内の棚には、明らかにサラマンダーのレザーで作ったと分かる、真っ赤な装備がいくつか置かれている。


 正直に言ってしまえば、RPGやMMOでもちょっと良い装備に手を入れた時のような、装備にトゲトゲしさや色気のようなモノが混ざっており、さらにこの派手な色合いもあってなかなかカッコいいのだ。


 しかし頭部は見る限りどこにも飾っていないので、レザーだとどんな見た目になるのか想像もつかない。


 一部のフルプレートヘルムにある、頭からバケツをすっぽり被ったような見た目になるなら遠慮願いたい。


「コイツは熱がさらに籠るってんで好みが分かれるからな……ほれ、こんな感じだ」


 カウンターの下から取り出したいくつかの見本を見て、自然と指が動いた。


「……ぜひ、コレをお願いします。今からすぐにでも素材取ってきますので」


「全身作るってなったらBランク防具だ。いくら素材持ち込みっつってもすぐに使えるわけじゃねーんだから、最低でも250万ビーケは貰うぞ? それに製作日数も――今だと早くて6日は掛かる。それでもいいのか?」


「えぇ!? 素材ってすぐに使えないんですか……?」


なめしもしないでどうやって使うんだよバカ。普通の動物よりかは全然楽だが、それでも多少は手を加えないと使い物にならんぞ?」


「おぉう……まぁでも余裕です。日数も問題ありません。では、取り急ぎ素材を採ってきますね!」


「あ、おいコラ、せめて採寸を―――」



 なんかドワーフのおっちゃんがドアの反対側で騒いでだけど、今更戻るのも億劫だ。


 1匹狩るだけなら15分くらいもあれば戻ってこられるだろう。


 俺は忍者みたいな、目元付近だけを露出させた加工マスクにトキめき、これは少年心を擽るフェイスアーマーだと。


 少しでも早く製作に着手してもらうべく、サラマンダーを求めてエントニア火岩洞へぶっ飛んでいった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「お待たせしましたーッ!」


「待ってねーよ!」


 ドサッと、血の滴る首無しサラマンダーを店先に置く。


 ドワーフのおっちゃんがなぜかプリプリしているが、約束通り速やかに素材を持ってきたのだ。


 どこをどう扱うはプロにお任せするしかないので、しょうがなく丸ごと持ってきてしまったが。



「お、おまえ、どうやって1匹丸ごと持ってきたんだ……?」


「担いで持ってきましたよ」


「そ、そうか……」


「あれ? もしかして1匹じゃ足りませんでした? ならすぐにもう1匹獲ってきますが」


「いや、いい! 店先にこんなの何体も置かれたらご近所さんに引かれちまう」


「ほんとデカいですもんねぇコイツ……あ、もしかして必要なのって皮だけでした? いらないなら肉とかはどこかに捨ててきますよ」


 冷静さを欠いていたが、考えてみたら作るのは防具だもんな。


 普通は剥いだ皮の部分だけを使うんだろうし、そうなると肉やら骨なんてはいらないんだろう。


 最近素材も魔石にしか興味がなくなってきたので、この辺りの素材知識がだいぶ疎くなってしまっている。


 守銭奴ロキにならなきゃいけないのに、これはいかんなぁ……


「ちょっと待て。捨てる? なぜ売れるモノを捨てるんだ?」


「えーと、最近ちょっとそこら辺の知識に弱くなってきてましてですね……もし1匹そのまま渡しちゃった方が嬉しいならあげますよ。僕はその方が楽ですし」


 誰かに皮を剥ぎ取ってもらい、その後中身の売れる部分をチマチマ現金化するくらいなら、1匹丸ごと渡してその時間を狩りに充てた方が俺は効率が良い。


 そう思って提案すると、ドワーフのおっちゃんにとっては良い話だったのか首をブンブン振ってくれるので、逆にラッキーとばかりに処理をそのままお願いする。


 お金は先払いという話なので数えている間に採寸してもらい、ついでに今まで使っていた解体ナイフよりちょっと刃の長いやつを新調。


 だいぶオマケしてもらい、6日後に取りにくる約束を取り交わしてホクホク顔で店を出た。


 掛かった時間は40分程度。


 これなら今日も十分狩りに時間を費やせそうだ。



(ドワーフのおっちゃん【付与】はできないみたいだし、そこだけどうすっかなぁ……)



 現物が無ければできるのは情報収集くらい。


 この装備に金を掛けるべきか――


 俺は完成後の【付与】を考えながら、急ぎ狩場へと戻っていった。

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