第216話 見えてきた目的地

 ヴァルツ王国を訪れてから、辿り着いた町での新しい流れがだいぶ確立されてきたように感じる。


 ハンターギルドを狙って直接屋根にダイブし、そのまま資料室に直行して情報収集。


 混んでいる時間帯でなければおばちゃん受付嬢を狙って近隣狩場の他、国内有数の高ランク狩場についても情報を確認していく。


 ラグリースでもそうだったが、Fランク、Eランクのお手軽な狩場は豊富にあっても、Dランク以上の狩場は急に数が減ってくる。


 だから地図という物はなくても、仕事上の知識として頭に描かれている地図から東の方にこんな狩場があるわよ。


 南のこんな町にCランク狩場があるはずよ、と。


 経験があるからこそ、聞けば意外と広範囲の情報も集まったりするのだ。


 そして行く先々で同じことを繰り返せば、その情報精度も信用できるモノへと変わっていく。


 町や狩場の名前が出なくても、こちらから名前を出して確認すれば、思い出したように答えてくれる場合もあったりするわけだしね。


 その結果、真っ先に確認したBランク狩場の他に、ヴァルツ王国にはDランク狩場があと1つ、Cランク狩場が2つあることが分かってきた。


 このまま順当にいけば、まず向かっている北東のBランク狩場、南東にあるもう一つのDランク狩場、南西にあるCランク狩場と外周を回り、最初のグリールモルグへ帰還。


 そこからは一旦ラグリースの王都ファルメンタに戻って本を購入後、東に向かいながら中央部のマッピングを進めつつ、王都に立ち寄りヴァルツをさらに東へ抜けていく。


 このようなルートで進行していくことになるだろう。


 ちなみにもう一つのCランク狩場はもうスルーだな。


 ラグリース北部に広がるベイルズ樹海が、そのまま国を跨いでヴァルツ王国にも延びているので、資料本を見ても改めて樹海へ行くメリットは薄いと感じてしまった。


 結局生息している魔物も同じ緑魔種のようで、オーガも上位オークも、なんだかんだとロキッシュがいないうちに最低限の数は倒させてもらったからね。


 今までは増える前に片っ端から餌として食っちゃってたんだろうけど、きっと見えないどこかでリポップして数が調整されていたんじゃないかなと思う。



 ハンターギルドで一通りの情報収集と確認が済めば、次に向かうのは傭兵ギルドだ。


 感覚としてハンターギルドよりも数は少ないが、Eランク狩場があればまず傭兵ギルドも町にある。


 そんな傾向が見えてくるようになり、今訪れているヴァルツ王国北方の町『ランバルト』でも傭兵ギルドは存在した。



 早速『犯罪者の捕縛、討伐依頼』から前の町でも確認した依頼をもぎ取り、その木板を受付嬢に提出する。


 運営が国単位ということもあって、近隣であればいくつかの町で共通依頼になっている点はかなりありがたい。



「こんにちは。この依頼の達成報告をしたいんですけど大丈夫ですか?」


「へぇ~……それじゃ詳細を教えてもらえる?」



 これで3度目だが、その都度報告は小部屋へと連れていかれた。


 一応外部に情報が漏れないようにしているんだろうね。


 最初の説明の時は気にもしなかったけど、部屋を訪れると毎回部屋の隅に置いてある木箱は、どうやら外部からのスキル干渉を防ぐための結界魔道具らしい。


 ほんとこの世界は国営と民間の立ち位置が正反対だ。


 建物の内装や傭兵個人に掛けるコストなど、色々な見てくれや集客の部分にお金を掛けていると感じる傭兵ギルド。


 対してハンターギルドは、見てくれや客受けの部分にお金を掛けない市役所のような存在だな。


 まぁそのぶんハンターに還元されていると思えば、個人的にはハンターの方が好みだけど。



「何か証明できるモノはある?」


「無いので、現地確認でお願いします」


「了解。手数料はギルド規定の報酬1割分で引き受けるわ。それで場所は?」



 この流れも段々慣れてきたもので、頭目の名前、構成人数、死体の数にアジトの場所などを口頭で伝えていく。


 傭兵ギルドの場合は簡易でも地図なんか描くと、そのまま国の上層部に情報が出回ってしまう恐れがある。


 未だに『裏』という印象が強いので、不必要に情報を出さないよう注意しながらのやり取りだ。


 それでも伝わるのは、明確な目印があるからだろうな。



「魔法で高さ30メートルほどの石柱を立てています。街道沿いに進めば遠目からでもすぐに分かると思いますよ」


「……分かったわ。それじゃ確認でき次第報酬の支払いになるけど――」


「そのまま預けておいてください。その頃にはたぶん別の町へ移動しているので」



 これで傭兵ギルドとのサクサクとした事務的なやり取りも概ね完了だ。


 あとはどこも同じ作りをしている四面ボードを見ながら、次の目的地までに寄れそうな捕縛、討伐対象をいくつか見繕い、マッピングついで見つけたら狩る。


 これが効率的で、最近お気に入りの流れになってきている。


 ちなみに山賊や盗賊の持ち物は、食べ物はさすがに省いているけど、現金以外は全てその付近の分かりやすそうな場所に埋めている。


 アジトにある戦利品って、大体は誰かから奪った時の木箱やら革袋に入ったままで保管されているからね。


 革製の装備品なんかも、周りを簡易的に石で覆ったに埋めておけば腐ることもないだろうから、マッピングと並行して町名や配置を記している手帳の地図に、埋蔵専用のマークでも付けておけばまず忘れることはないだろう。


 取りにくる時は自分が立てた石柱を目印にすればいいだけなので、いつか回収に来られるタイミング――といっても【空間魔法】を取得できた時くらいしか回収には来ない気もするが、その時に全回収していけばいいかなと思っている。



 スキル収集もお金も、グリールモルグを出て以降は『悪党』頼みになっちゃってるけど……


 次の町は念願のBランク狩場。


《エントニア火岩洞》を有する町、『ローエンフォート』だ。


 そろそろ魔物の狩場で能力値をググッと伸ばしていきたいもんだなと。


 期待に胸を膨らませながら、さらに東へ進んでいった。

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