第150話 飛躍的な成長

 マルタの町から北西に約30分ほど。


 街道から外れた小高い丘の上でゴロンと寝転び、陽が中天に差し掛かりそうな空を眺める。


「良い天気だなぁ……」


 地球なら秋に入ったと実感できる過ごしやすい気温で、身体中に降り注ぐ太陽の光がなんとも心地良い。



(昼寝でもしたいところだが、やるべきこと、やりたいことがあるからな、っと)



 手早く残っていた串肉を平らげ、持参した革袋の中をゴソゴソと物色。


 手帳やボールペンに電卓、ついでの腕時計を取り出し、革袋を下敷きにしながら地べたで現在のステータスを確認していく。


 本来は宿屋の自室でやろうと思っていた作業だが、実験をするなら外じゃないと難しいことも色々とある。


 それに俺の電卓はよくあるソーラー式なので、太陽の光をしっかり浴びてくれないとあまり元気がないのだ。


 なら天気も良いし、たまにはこんなのもありだろうと。


 ピクニックがてら、人のいないスペースを探してフラフラ探索していたら、辿り着いたのはデボアに向かう離陸ポイントにほど近いこの場所だった。


 周囲はポツポツと草木が生えている程度の荒野で見晴らしがよく、魔物はおろか動物の姿さえまったく見られない。


 農地も視界内にはまったく存在していないので、ここなら怒られることはないはずである。


 俺は温かい陽射しを背に浴びながら、ステータス画面を開いたり閉じたりしつつ、黙々と画面に見える数値などを手帳に書き写していった。



 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>


 レベル:56  スキルポイント残:879


 魔力量:620/620(+534) 剣の魔力上昇でさらに+50


 筋力:   308 (+676)

 知力:   309(+399) 

 防御力:  302 (+154)

 魔法防御力:302(+459)

 敏捷:   307(+66) 

 技術:   301(+605)

 幸運:   312 (+90)


 加護:無し


 称号:《王蟻を討てし者》


 取得スキル


 ◆戦闘・戦術系統スキル

【剣術】Lv3 【棒術】Lv5 【短剣術】Lv2 【挑発】Lv2 【狂乱】Lv8 

【身体強化】Lv5 【捨て身】Lv1 【指揮】Lv5 【鼓舞】Lv5


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv2  【土魔法】Lv3 【風魔法】Lv4 【水魔法】Lv4 【魔力操作】Lv1

【雷魔法】Lv7 【時魔法】Lv4 【省略詠唱】Lv5


 ◆ジョブ系統スキル

【採取】Lv1 【狩猟】Lv3 【解体】Lv2 【話術】Lv1 【料理】Lv1 


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv3 【気配察知】Lv5 【遠視】Lv2 【跳躍】Lv4 

【探査】Lv1 【算術】Lv2 【暗記】Lv1 【俊足】Lv2  【夜目】Lv4

【飛行】Lv7 【視野拡大】Lv6 【隠蔽】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv7 【魔力最大量増加】Lv2 【剛力】Lv1 【疾風】Lv1 

【金剛】Lv1 【豪運】Lv1 【物理攻撃耐性】Lv3 【魔力自動回復量増加】Lv5 

【鋼の心】Lv2 


 ◆その他/特殊

【神託】Lv1 【神通】Lv2 【地図作成】Lv1 


 ◆その他/魔物

【突進】Lv6 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  【光合成】Lv4  【硬質化】Lv4  

【物理防御力上昇】Lv4 【呼応】Lv7 【酸液】Lv7 【穴掘り】Lv8 

【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【招集】Lv7 【擬態】Lv6 

【噛みつき】Lv8 【強制覚醒】Lv9  



「うーむ……」



 数日前とのステータス差が凄すぎて、思わず唸り声が口から漏れてしまう。


 長閑な丘の上で寝転がりながら電卓をピコピコ。


 楽しみにしているリルへまともな報告をするためにも、上昇数値やボーナスステータスの割り出しを試算しては手帳や裏紙に書き記していったわけだが――




 約2時間後。


「だっはーっ! 一気に上がり過ぎてムリムリムリーッ! 毎日データ取りしていてもこんなのムリーッ!!」


 辺りには情けない叫び声が木霊していた。


 もちろん頭を掻き毟りながら泣き言を漏らしているのは俺である。


 傾向から予測できる部分もあった。


 レベルが上がることによる各種能力値の上昇幅。


 基礎ステータスとも呼べる部分は試算結果がそのまま当てはまったが、もう各種スキルのボーナス能力値や、初到達となったスキルレベル8、スキルレベル9の能力上昇数値がはっきりと見えてこない。


 思わず、


「どんぐり様へ、ステータス画面のボーナス能力値など、もっとスキル内容を詳しく表示してください。お願いします」


 このように、天に向かってお祈りまでしてしまう始末だった。


 ちなみに以前お願いしたステータス画面上のお金総額表示や、アクティブスキルとパッシブスキルの振り分けは成功していない。



「それに""もさっぱり分からんし……」



 もしかしたら、ひっそりどこかの能力値が+50くらいされているのかもしれない。


 ただその見分けが一切付かないという、初称号なのになんとも気持ち悪い感覚だけが残ってしまう。


 しかも今後、もし隠しボスとも言えるような強敵を発見、討伐したとしても、その度に同じことで悩まされる可能性が高い。


 所持しているスキルはさすが隠しボス! と褒め称えたいくらいにどれも高レベルで、かつ所持スキルの数が非常に多いのだ。


 倒せばボコボコと各種スキルを入手、レベルが上昇し、連動してステータスが一気に上がってしまうため、結局称号効果はなんなのよ? という状況がずっと続くことになってしまう。



(うーん、称号を選択できるわけでもなさそうだし、その中でわざわざ『称号』なんて項目があるということは、何かしらの意味があると思うんだけどなぁ……)



 頭を捻るも、現状どうやったって答えが出ない。


 溜め息一つ、しょうがないと思いながらも次の確認作業へと入っていく。



「それじゃ、チラ見しかしていない新スキルの詳細を見ていきましょうかね」



 スキル欄を上から順番に眺めながら、目新しい取得スキルを見つけては詳細を確認し、今後自分が使えるのかどうか。


 使えるならどの場面で使うべきかを想定していく。




【身体強化】Lv5 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に150%まで上昇させる 効果時間5分 魔力消費25


 キングアントからゲットした超有用スキル。


 たぶんスキルレベル1の時は110%だったのかなと思うが詳細は不明。


 試しに使用してみると、発声しなくても心の中で【身体強化】と呟くだけで効果が発動する上、使用時に魔力が表面化することもない。


 どうも【突進】や【飛行】、あとは【剣術】など、俺自身の身体を使って体現する部類のスキルは、魔力が体内で消費されているのか表に出てくる様子がない。


 逆にはっきりと体外へ魔力が放出されてしまっているのは、スキルの中でも『魔法』に分類されるものだな。


 他にも条件があるのかもしれないが、一先ずこの手の内部消化タイプは魔力が黒くなってしまった俺でも気軽に使えるので、得られる効力が大きい【身体強化】なんかは特に今後使用頻度が高くなりそうだ。


 だからこそ、欲を言えばもう少し効果時間が延びてほしいところだな。




【指揮】Lv5 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1000メートル 使用効果時間30分 魔力消費50


 なんとも軍隊さん向けなスキルで、ソロの俺に使う用途はまるでなし。


 レヴィアントが所持していたスキルなので、統率の取れたウザったい動きをしてくる理由がこれでよく分かった。




【鼓舞】Lv5 半径25メートル範囲内の味方に対して全能力値を20%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費28


 超パーティ向け。


 使用者に効果が表れない時点でソロの俺が使う場面はない。


 一瞬、キングアントと戦っていたリルに掛けてあげれば良かったんじゃ?  と思ったが、射程範囲が50メートルでは届かなっただろうし、地味に魔力消費が重くて使えなかっただろうなという結論になった。




【雷魔法】Lv7 魔力消費70未満の雷魔法を発動することが可能


 キングアントのあんな光線を見せられると夢が広がり過ぎてたまらない。


 問題は使うと必ず黒い魔力が出てしまうこと。


 現状の最大火力魔法になり得るので要検証。




【時魔法】Lv4 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±400%の減少か増加を選択して発動することが可能 消費魔力:10秒毎に60


 こちらも夢が広がるスキル第二弾。


 とりあえず自分自身にも増加、減少どちらも発動可能で、対象指定範囲内の個別指定――つまり自分は増加で敵は減少などの選択はできないことがわかった。


 ちなみに取得条件は【光魔法】と【闇魔法】。


 スキルツリーだと白い二本の線がこの二つに分かれていたので、本来はどちらのレベルも一定数必要だったんだと思われる。


 これで以前リステと検証した3つの上位魔法の中に、【空間魔法】が存在しないことはほぼ確定してしまった。




【省略詠唱】Lv5 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が50%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0


 詳細説明を見て一番理解できないのがこのスキル。


 いやいや、意味が分からんし。


 詠唱に節が存在し、その長さによって魔法スキルレベルの判定がされているなら、単純に唱える節を短くできると思っていたわけだが違うのだろうか?


 単体魔法というワードも気になるし、要検証スキル。



        

【隠蔽】Lv7 Lv7以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0


 女神様達が使う看破系の最上位だろう【神眼】でも俺のことは覗けないので、あまりこのスキルの恩恵は高くないような気がする。


【神託】とかで俺の居場所を把握することはできているので、誰かが使う【探査】や【気配察知】なんかの察知系に対しては意味があるのかな?


 なぜ俺のスキルを覗けないのかは謎のままだが、能力値が俺だけ数値化されているという――ある種のバグのようなステータス画面になっているので、それが原因で女神様達も覗けないのかもしれない。




【金剛】Lv1 防御力値が5上昇する 常時発動 魔力消費0


 予想できたから問題無し。


 あれだけ蟻に齧られたら、そりゃ覚えるよなって思う。




【豪運】Lv1 幸運値が5上昇する 常時発動 魔力消費0


 内容は予想できたけど、なぜ上がったかは分からない。




 そしてここからが<その他>枠にある魔物専用スキルになるわけだが、『【呼応】Lv8』『【酸液】Lv7』『【擬態】Lv6』の3種は表示がグレーのままで俺には使うことのできないスキルだった。


 使用可能スキルの詳細はこの通りである。




【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2


 知ってる。


 なんでこんな簡素過ぎる詳細説明なのかが一番の疑問だ。


 とりあえず穴を掘る時は魔力使用の効率を考えても、【土魔法】より【穴堀り】で良いんじゃないかとちょっと思った。


 手と服が凄く汚れそうだが。




【招集】Lv7 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物に対して強制集合をかける 効果範囲:周囲半径210メートル 魔力消費17


 面白いけど使いどころが難しくもあるスキル。


 まず【呼応】を所持している魔物じゃないと何も意味がないし、魔物が強過ぎてもこちらが非常にマズいことになる。


 とりあえず同族じゃなくても効果があることは分かったので、格下狩場なら一度使用して反応するか試すのは有り。


 成功すれば纏め狩りがかなりやり易くなる。




【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0


 敢えて魔物専用スキルになっている辺りに特殊性を感じる。


 使う場面は限られるだろうけど、リルの爛れた皮膚を見れば存在感はかなり大きい。


 魔力消費無しの常時発動型だし、この手の耐性スキルはいくらでもウェルカムです。


 ただスキルレベルが結局9にならなかったのと、衣類などの所持物にはまったく効果がないのは残念である。




【状態異常耐性増加】Lv7 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0


 たぶん超大当たりスキル。


 魔物専用スキルになっていることからも、もしかしたらボス級の魔物しか所持していない可能性もある。


 難点はどれほど耐性が増加するのか分からないので、【酸耐性】のように1種に特化した耐性系の耐性増加比率ほど信用していいのかが分からない。


 まぁパッシブの魔力消費0だから、高レベルであればあるほど嬉しいスキルであることは間違いない。




【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50


 今回の目玉スキルであり、唯一レベル9にも到達したスキル。


 このことからキングアントは【強制覚醒】Lv10を所持していたのは確定だ。


 だがこのスキル効果は本当に


 使用することはできるけど、俺が広範囲目覚まし時計にしかなり得ない。


 真夜中に町の中心で発動しようものならテロ行為である。


 しかも本人が起きていないと使えないから、俺への目覚まし効果は何も無し。


 悲しいかな、明らかにボス固有スキルのオーラを放っているのに、まったく使いどころのないクソスキルである。




 このように重宝しそうなスキル、一生使うことのなさそうなスキルと様々だが……


 それでも隠しボスだと勝手に判断しているキングアントは、優秀なスキルを保有している割合が物凄く高かった。


【強制覚醒】がキングアント固有スキルになるのであれば、今回はゴミだったものの別のボスはどんな固有スキルが? という、隠しボスを探す楽しみまで追加されてしまう。



(ははっ、あれだけ痛みを味わって死にかけたのに、もうボスを探すのが楽しみだって思ってんだから重症過ぎるわ……)



 絶対に死にたくないはずなのに、わざわざ危険な場所へ飛び込む神経が自分自身でもよく分からない。


 まぁ、死なずに最大限楽しみたいという、ただのワガママなんだろうなと自問自答した末に答えを出して、そっと掌を前に突き出す。



「さーて、それじゃあ実験を始めますか。まずは『8』、だな」



 そう思ってもう片方の手で指を折り、数を意識しながら慣れない言葉で詠唱を開始する。



『無数の、雷を、地に、落とせ、視界を、覆い尽くすほどの……無数の……雷を……』



 詠唱途中で口はへの字に曲がり、指を折っていた手で頭を抱えて「やってしまった」と心の中で呟く。


 いきなり8個のそれっぽいワードを並べようとしても無理があった。


 元は中二病を患っていたが、長く真っ当で社畜な社会人生活を送っていたんだ。


 最後の方なんて言葉が続かなくて振り出しに戻ってるし……


 これは一度手帳に紡ぐ言葉を纏めないと無理。


 そう思って手帳に視線を落とした時、身体全体から掌へギュギュッっと、体液を一気に吸われるような感覚で力が集まり、その直後には鼓膜が破れるかと思うほどの爆音が鳴り響く。



「はへっ!?」



 咄嗟に視線を正面に戻せば、暗雲一つない上空から降り注ぐ数多の落雷。


 地面を抉り、焦がし、多少生えていた草なぞ蒸発させるかの如く無に帰していくその百雷の渦は、数秒間に渡って落ち続け―――



「これが、レベル7……」



 終わった後には焦げた地面を多く残すだけとなっていた。


 少し遅れて届く強風が身体に当たり、髪が逆立ち後ろになびいていく。



 最初は目の前で起きた光景に対する驚き。


 そして次に訪れるのは感動。


 頭の中で発動させたかった、雷のイメージに近い現象を発現できた事実が徐々に覆い被さり、自然と身体が打ち震える。


 俺の描いた光景は暗闇の中を無数に光り落ちる雷群だったので、実際目の前で起きた内容と天候や範囲の面で幾分違いもあるにはあるが――


 それでもあんな言葉足らずの恥ずかしい詠唱でも実現したということは、これが【省略詠唱】の効果になるんだろうか?



(あの振り出しに戻った部分が省略されたとみるべきかどうか……うーん、魔力は69消費でガッツリ最大まで使ってるか)



 これが現状できる最大級の範囲魔法。


 威力や範囲が分かっただけ御の字ではあるものの、【省略詠唱】とどう関係するのか。


 できればそこまで突き止めたいと思い、何パターンかに分けて実験を繰り返す。


 幸い魔力は15発撃ってもまだ余裕があるほどに潤沢だ。



「覆いつくすほどの、無数の、雷を、地に、落とせ!」


(うぉっ……もっていかれる魔力の感覚はさっきと同じ!)



 ゴロゴロゴロ……ズドドドドドッ!!! ゴロゴロ……



 繰り返される先ほどと同じ光景。


 これで節が5つでも、しっかりとしたイメージを持っていれば精霊に伝わることが確認できた。


 となれば、あとは節の数をどれだけ減らせるか。



「無数の、落雷を、地に、放て」



 ゴロゴロゴロ……ズドドドドドォンッ!!! ゴロゴロ……



 また同じ、4つのワードでも成功。


 多少言葉を変えても、発動の結果は同じように見えた。


 どんどん様になっていく自分の姿に、興奮で息が乱れてしまう。



「落雷を、地に、放て」


(……お? 一瞬魔力を持っていかれるような反応があったけど、発動はせずか。となると現状4つのワードが限界ってことか?)



 伝導割合50%だから、8のワードから4のワードへ。


 その分発動後のイメージが重要度を増し、多少の言葉の違いでも同じような発現結果に収束しやすくなる――


 そういう理屈で合ってるのかな? と首を傾げながらも、十分納得できる効果に思わず顔が綻んでしまった。


 俺のイメージが発動の大きな割合を占めるのであれば、これはもっと響きの良い、カッコ良い言葉を考えておくしかない。


 中二病が復活しかけてしまっているが故に、そんなことまで考えてしまう。



(うーむ。手元から一直線に伸びる、あのキングアントに使われた雷。あれもぜひ真似してみたい。伸びる光の雷……雷槍?……やだぁ、もうなんかカッコいいし……)



 一人照れながら徐に立ち上がり、右手は前方に向けながら左手は腰に。


 高揚感と興奮で頬を赤く染めつつ、キリリと前方を見据えて言葉を発する。



「放て、雷槍、高速で、突き抜けろッ!」



 なんだかんだとノリノリ100%で放った一撃。


 それは――



 バリバリバリバリバリバリィィィィッ……



「しゅげぇええええええええええええええええ!!!」



 どこまでも、物凄い速さで飛んでいく雷の一閃だった。


 丘の上から放ったため何かに当たることはなかったものの、絶対に威力は先ほどの広範囲拡散型よりも上であると、見ただけで確信してしまう。



「ハァハァ……凄いよ……少年の夢が詰まり過ぎだよこれは……あぁぁ……もっと、もっと実験をしないと……」



 その後も【雷魔法】の別の使い方を模索し、【時魔法】で何ができるかを自らに試し、それが【省略詠唱】に結び付けるとどういった結果が生まれるのか。


 また今回取得した【身体強化】によって、実際どれほど体感の動きが変わるのか。


 興奮も冷めやらぬまま、ひたすら一人実験に明け暮れる。



 ――そして辺りの日が沈みかけた頃。


 全身が乾ききったような感覚を覚えながら、ほぼスッカラカンとなってしまった魔力残量を確認したのち、ボーッと焦げ跡だらけの台地をなんとなしに眺める。



「ん―――……」



 パワーレベリングが成功すれば良いと思った。


 その為にリルを連れていったし、リルを最大限に活かせる方法も考えた。


 しかし……


 ここまで自身の能力、スキルが伸びるとはさすがに想像もしていなかった。


 だからこそ思う。



 RPG的にはやり過ぎな、を取っちまったなぁ、と。



 大きく成長できたという9割の喜びと、なんとも言えない戸惑いが心の中で混ざり合う。


 自分の力だけで成長できたなら、きっと喜びと嬉しさだけで俺の心は満たされていただろう。


 だがこの成長は全てリルのおかげ。


 俺自身がやるべきことは全力でやったつもりだが、それでも実情はコバンザメのようについて回り、背後からその恩恵を掬っていたに過ぎない。


 そんな理由もあってか素直には喜べず、幾分シコリのようなものを心のどこかに感じてしまう。


 強さを何よりも重視しているのに、素直に結果を喜べない俺はどこまでも我儘だなと、自分に苦笑いするしかない。



「でもまぁ、今の状況だって所詮は通過点だろ」



 まだまだ取得できていないスキル、伸ばせるスキルは山ほどある。


 ならばこの時点での強さなど遅かれ早かれ到達するもの。


 今後の道中が楽になったというくらいで、それ以上ヘタに考え込んでも仕方がないし、気を付けるべきはこれで調子に乗らないことだと自分を戒める。


 無理やり引き上げてもらった力で天狗になるとかカッコ悪過ぎるしね。



「さて、帰るか……」



 遠くで僅かに聞こえる鐘の音で我に返り、最終日のリルに急成長のお返しをしてあげよう、と。


 町がざわついていることも知らず、俺は町へと帰還するのだった。

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