第75話 ちょっとした憧れと現実と

「なるほど。このまま川の東を進むか、それとも川の西に手を出すか、か」


 糸巻き男が無事解放された後、早速俺はアルバさんとミズルさんにどちらを攻めるか悩んでいることを伝えた。


 その上で素材回収は今どんな感じなのか、現在の状況を確認する。


 もちろん邪魔をするつもりはないので、彼らは作業をしながら。


 俺は護衛のような存在として、アルバさん達の後をついていきながら話を聞いていく。


「ちなみに素材回収は順調ですか?」


「そこは問題ねぇな。オーク肉が多少劣化してるっつーのはあったりするが、その分魔石や討伐部位あたりの小さいもんがそこら中に転がってっからな!」


「そうだな。オーク肉の鮮度くらいだが……まぁここ数日素材ランク「C」以上になりそうなものだけをこちらで厳選しているから、ロキが気にすることはないぞ」


「ふむふむ。ということはだいぶ人が増えていそうですけど、皆さんにちゃんと行き渡っているってことですね?」


「あぁ、それなんだがな……」


 そう言ってアルバさんが話し始めた内容は、俺の斜め上をいく内容だった。



 最初に出くわした人が言っていた通り、現在素材回収班は4部隊。


 ルルブの森で狩っていた8つのパーティがこの素材回収に参加しており、これは頭一つ抜けて強いとされているフェザーさんパーティを除いた、ベザート拠点のEランクハンター全てらしい。


 約100メートル置きに1部隊を配置し、そのまま東西それぞれ50メートルくらいの範囲を散策、素材回収しながら北上というやり方を取っているようで、各々の部隊が出発地点と一時撤退地点に何かしらの武器や魔法を使ってマーキング。


 翌日再開する時はそのマーキングを確認しつつ、オーク肉の劣化状況を確認しながら進行を早めるか各自で判断しているとのこと。



 これを聞いて俺は素直に感心してしまった。


 物凄く効率的で俺好みだなと。


 そんな反応を示した俺にマーズさんがドヤ顔をしていたので、もしかしたら彼が発案者なのかもしれないな。一番慎重で賢そうだったし。


 ただそうなると気になることもある。



「部隊を分けて安全面は大丈夫そうですか? ここに来るまでも、多少魔物の反応はありましたが……」



 やはりここだ。


 いくら効率重視と言っても、それで死人が出ているようであれば意味が無い。


 いや、この世界の住人にとってはそれでも意味があることは分かっているが、計画立案者としては気が気ではない。


「それは大丈夫だぜ? まぁ今んところはだが、一番西と俺達のいる東の部隊は人数も多めにしてあるからな」


「川を渡ってくる魔物に備えて第一部隊は9名、第二部隊はパーティを一つ分けて6名、第三部隊も同様に6名、ここの第四部隊は東から入り込んでくる魔物に備えて10名配置しています。今のところ多少の怪我くらいはありますが死人は無し。一応備えはしていますよ」


「あぁ。マーズが考えたやり方は上手く回っているぞ。町の行き来や換金する時も皆同時に動いているから、不正を働いているやつもいないだろう」


「なるほど……ちゃんと考えられているんですね。素晴らしい!」


 このままではマーズさんが調子に乗ってしまいそうだけど、そこまで考えているなら俺が文句を言う場面ではない。


 現に5日経っても死人が出ていないのだから、安定して機能しているということなのだろう。



 となると、後は最初に話を振った狩場の問題をどうするかだ。


 まずは念のために確認をしておこう。


「仮に川の西側で同様のことをやった場合、川の向こうは別の領と聞いていますが問題はありますか?」


「ん? 何も無いぞ?」


「何の心配してやがんだ? 別の領だろうが別の国だろうが、魔物を倒すっつーのはどこでも喜ばれる行為だぜ?」


「なるほど」


 やっぱり不必要な心配だった。


 なら後は彼らの気持ち次第かな?


「では率直に聞きますが、このまま川の東を奥に進むのと、一度川を越えて西側で同様のことをやるのと、どちらがやりやすいですか?」


「それはロキの都合が良い方で構わない」


「個人の希望を言っちまえば、あの程度の浅い川を渡るなんざ造作も無いことだし、西側の方がありがてーけどな。ただまぁ、稼がせてもらってる身だからロキに任せるぜ?」


「ふーむ……」


 任せるとは言うものの、やっぱり安全地帯の存在、森の奥へ踏み込むリスクを考えれば本音は川の西側なんだろうな。


 アルバさんも言いはしないが、ミズルさんが西側希望と伝えた時の顔を見ていると同様の考えだろう。


 俺にとっては少し遠いというくらいで、ある意味距離も、風呂という事情も俺の我儘――


 なら、彼らの意向にそって動くとしようか。


 彼らの協力があって、俺も稼がせてもらっているわけだしね。


「了解です。それでは明日から、西側で同様のことをしましょうか。明日の朝一から僕は西側を川から500メートルくらいまで殲滅していきますので」


「ロキがそれでいいならありがたいが……良いのか?」


「問題無いですよ? 僕に明らかな不都合があれば提案もしませんから」


「それならありがてーな! やっぱ森の奥へ入るほど不安になるってもんよ!……マーズがな!」


「ちょっと! 僕はビビッてませんよ! 奥に入ると少しドキドキしてくるだけです!」


「それ同じこと」


「私でもまだ平気なのにビビってるわね」


「ビビリ神と呼ぶか」



 やっぱりパーティは良いなぁ……



 って、いけないいけない。


 ソロでやってきたからこそ、俺はここで乱獲できているんだ。それを忘れちゃいけない。


「それじゃ今日は念のためこのまま北上した先で魔物を狩りますから、今日の帰りにでも皆さんに伝えておいてくださいね」


「あぁ分かった。明日からは川の西側と伝えておこう」


「がっつり倒しといてくれよ!」


 同様のペースであれば、西側は約4日ほどで今いる拠点あたりまで殲滅できるだろう。


 その間に……まだレベルストップまではいかないだろうなぁ。


 そしたら次は川の東側を北上というやり方に戻すかな?


 それとも魔物の数によっては、さらに東500メートルを森の入口からやってみるか?


 そんなことを考えながら、俺は拠点付近の魔物狩りを開始するのだった。

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