忌み子の勇者

akamiyamakoto

プロローグ

死亡、転生

 ──寒い……? ……痛、い。


 寒さと激痛で目がさめた。

 どうしてこんなに寒いんだ? どうしてこんなに痛いんだ? 痛みや寒さで混乱している頭では答えは出ない。


「あ……う、ぁ……」


 喋ろうにも口が動かない。視界が霞んでいる。

 だが、思い出した。そうだ、俺は、俺達は修学旅行でバスに乗っていて…事故が、起きたのか?


「皆……大丈夫……?」


 教師誰かの声、判別ができない。声を拾えただけでも僥倖か。


「先……! ……君────!」


 あぁ、言ってるそばから耳も使い物にならなくなってきたらしい。

 地面が僅かに振動する。誰か倒れた? 俺以外にも事故でダメージを負ってる人が……?


「……」


 駄目だ、意識が霧散する。保つことさえできない。

 ……走馬灯のようなものまで見え始める始末だ。


「────」


 こうして、俺は死んだ────はずだった。


 ◆◆◆

「──いった…頭、われる……」


 ──悶絶している少女。誰だろうか、そう、俺である。


 つい先程食べられるものでも探そうと山に潜り、木の根につまずき、体制を崩して頭を強打した。

 そこで俺は、事故で死亡した平凡な男子高校生であった前世の記憶を取り戻した。


 齢8の幼子には、16年分の記憶だけだったとしてもかなりの記憶容量を食うのだろう。とてつもなく頭が痛い。


 かつては男であったのだが、記憶をなくして既に8年の歳月をこの世界ですごしていた事もあってか、記憶を思い出しても違和感などはない。

 まぁ、思考は男よりになったし、幼子特有の霞んだ思考も鮮明になったが。


「……不思議な事はたくさんあった。知らないはずの道具を知ってたり、獣対策もある程度知識なしで出来たりした」


 思い返せば、その全てが記憶を取り戻す前兆、あるいはきっかけだったのかもしれない。


 とはいえ、友人や知人に教えられて、そのまま趣味になっていったサバイバルの知識が、前世の記憶を取り戻すのに役立つとは、前世ではまったく考えてもいなかったが。


「今は、現状把握が大切……」


 とにかくまずは、状況を整理しないと。


 ◆◆◆

 ──一匹の黒猫が、かつての記憶を取り戻す一年前。

 地球とはまた違う世界──即ち異世界では、各国の国王と聖女──地球、日本で言うところの巫女──が世界の中心……世界樹ユグドラシルにある神殿に一堂に会していた。


 彼、彼女等は神のお告げに従い、異世界から救いの手を召喚しようとしていた。

 ──即ち"勇者召喚"。世界の危機を打倒せし救世の英雄を、呼び出す。


「──────────」


 各国の聖女が、詠唱を紡ぐ。詠うように、願うように──祈りを込めて、乞い願う。

 やがて聖女が込める膨大な魔力は、眩い光となって神殿内を照らすほどになり……召喚が、始まった。


 膨大な魔力を消費した聖女達は肩で息をしながらも、国王に支えられながらその光景を見ていた。

 やがて、魔力は収束し、魔法陣が眩く光った後────魔法陣に、多くの人影が現れた。


「こ、ここは……さっきまで俺達はバスに……」

「皆大丈夫!? 先生──先生は何処!?」

「……? 怪我してたのに……治ってる?」

「……これが、異世界転移? ──あれ、髪の毛色が変わってるっす!?」

「──待ってくれ、彼は? 彼は何処だ!?」

「一体何が起きたってんだよぉぉぉ!!」


 ──奇しくも彼等は黒猫のかつての知人クラスメイト達であった。

 召喚状況は、かつての黒猫が地球にて没した直後。召喚されたのは生徒のみで、召喚当時かつての黒猫とバスの運転手は死亡しており、教師は無事だったが召喚されていない。

 十人以上の異世界人。彼、彼女等を見て聖女達は全員悟った。


 ──彼、彼女等が、勇者達であると。


 聖女達は魔力切れで疲弊しきった体を動かし、異世界の勇者達に向かい挨拶をする。


「召喚に応じていただき、誠にありがとうごさいます。異世界の勇者様方──どうか我等をお救いください」


 ──この日、異世界にて大量の勇者が誕生した。

 ……しかし、黒猫がその存在を知るのは少し先の話になる。


 ◇◇◇

主人公 年齢16→8 性別:男→女


 前世では平凡な男子高校生だったが、不幸にも修学旅行中事故にあい死亡した。

 その後少女へと転生したが、転生してから既に8年たっており、記憶を取り戻しても、取り乱す事はなかった。


 前世の名前も今世の名前もあるが、本人は既に今世のヒトとして生きる事を決めているため、本人の口から前世の名前が出ることはない。

 主人公にサバイバル技術や知識等の諸々を仕込んだのは、そういう方面で活躍していたり、専門的な知識を持つ友人知人達である。前世において、交流関係に恵まれていたと言える。

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