エアストヴェルト

工藤準

プロローグ

青年は仕事を終えた先輩達を先に見送ると後輩達と三人で来週の仕事の段取りを終わらす。

冬の寒い夜は仕事で汗を掻いた青年の身体を急激に冷やす。ゆっくり息を吐くと雲のような白い蒸気がでて、青年の身体が仕事をして身体の体温が上がっているのがよく分かる。


「真藤先輩はこの仕事を辞めたいと思った事はありますか?」

「あるよ。でも、仕事を辞めたら生活が苦しくなるから辞められないけどな。どした?」


「俺、この仕事を続けていく自信がなくて。先輩たちは先に帰るし・・・この時間の仕事は残業代付かないし、身体を毎日ボロボロ寝ても疲れが取れませんし、何かやる気が削がれると言いますか・・・」


「確かに残業代は付かないけど、この仕事は元々の給料が良いし、それに先輩たちも最初は俺達と同じ下働きで先輩たちに大変な思いをしてきたんだ」

「確かにそうですけど・・」

「まあ、まだ加藤は若いから仕事は幾らでもあるし、ゆっくり他の仕事を経験すると言う手も良いと思うぞ」

「はい・・・」


すると、その話を聞いていたもう一人の後輩が話を切り出す。


「先輩、俺はこの仕事を辞めようと思います。明日社長に退職届を出します」

「そうか・・・寂しくなるな」


「加藤お前も辞めろ。真藤さんもまだ若いのですから他の仕事をした方が良いですって!こんなに人が良い真藤さんがここで仕事を続けるのは勿体ないです」


「いずれは仕事を変えるかもしれないけど、俺はまだ辞めない」


突然、加藤は頭を下げる。

「先輩すみません!!俺・・・俺も今日で辞めます」

「そうか・・分かった。現場の人達には俺から言っとくから」

二人は優一に頭を下げる。


「「二年間お世話になりました」」

「おう!元気でやれよ」


青年の名は真藤優一。大学中退し今は土木建築の仕事をしている。年齢は二十四歳。童貞。


歳の離れた義理の妹と二人暮らしをしており、両親は四年前に結婚記念日5周年で海外旅行に行く途中、搭乗していた飛行機が、まるで神隠しにでも在ったかのように行方不明になったのだ。


遺体は見つかっておらず優一と妹はまだ両親が生きていることを願っている。

優一は家に帰った時の言い訳を考えていた。何故かと言うと・・・


「ただいま~~」


ドアを開け家に入ると玄関に妹がいた。


「兄さんおかえり。今日は早く帰る約束でしたよね?」


妹。真藤琴音 高校二年生。白髪ロングでモデル並みの体型に綺麗な顔立ちをしている。


「ごめん。仕事が長引いてしまった」

「それなら連絡ぐらいしてよね。心配したのよ」

「次から気を付けるから」

「当然です」

琴音は怒らせるとおっかない。


「兄さんお風呂沸かしているから先に入ってね。その汚れた状態で家の中歩き回られたら後で掃除が大変だから」


琴音はそう言いリビングの方へと向かった。

優一はなるべく床が汚れないようにつま先立ちして二階の自室に行き、着替えの服を出し風呂に入った。


風呂場は湯気が立ちこもり、辺りがまるで雪国のように真っ白になっていた。

優一は熱い湯船に肩まで浸り、仕事の疲れを癒す。


「はぁ~。生き返る~~」


優一は風呂満喫して上がると、リビングでは琴音が夕食の準備をしていた。


「兄さんお湯加減はどうでした?」

「ああ!よかった」

琴音は出来上がった料理をお皿に盛り付けテーブルへ並べた。


「今日は兄さんの好きな唐揚げにポテトサラダとクラムチャウダーです」

「美味しそうだ!ありがとう」

優一が席に座ると琴音がキンキンに冷えたビールを持ってきてくれた。


「お酒もほどほどにね」

二人は楽しく会話をしながらご飯を平らげると、すると夕飯を食べて満足した琴音は赤い包みに入ったプレゼントを持ってきた。


「兄さんにクリスマスプレゼントです」

優一は琴音からプレゼントを受け取り開けてみると、優一の好きなファンタジー小説の最新巻だった。


「これ、前から買いに行こうと思ったけど仕事が忙しくて中々買いに行けなかったやつだ!琴音ありがとう」


優一も用意したクリスマスプレゼントを琴音に渡した。

「兄さんこれって」

中身は、以前二人で買い物に行った時、琴音が欲しそうに見ていたネックレス。


「俺からのクリスマスプレゼント。気に入ってくれた?」

「はい!」


琴音は嬉しさで目元が潤んでいた。

「琴音、貸してみて」

優一は琴音からネックレスを受け取りると、後ろ髪をかきあげた琴音の細い首にネックレスをつけてあげた。

「おっ!似合ってる」

琴音の目から涙が零れ落ち優一に抱きつく。

「兄さん大好き!」

優一は琴音の頭を撫でながら。

「いつも家の事を任せっきりですまないな」

「いいの!兄さんもお仕事頑張ってくれてるもん」

       ▽▽▽

琴音はお風呂に入ると、優一はプレゼントを持って自室に戻った。

さて、明日から二日休みだから沢山書くぞ。

パソコンの電源を入れた優一は趣味で書いている小説の続きを進めることにした。


優一はパソコンに夢中になって作業をしているとドアのノックする音がし優一がドアを開ける。

すると、お風呂から上がった琴音が温かい飲み物が入ったマグカップを二つ持っていた。

「兄さん珈琲入れてきたよ」

「ありがと」

机に珈琲を置くと琴音は手を後ろに組む。

「どうですか?」

ご飯を食べた時の服装とは変わって、プレゼントにあげたネックレスに琴音はお気に入りの服を着ていた。


薄紫のショート丈ファーコートに白いオフショルワンピース姿にプレゼントしたダイヤのネックレスはとても合っていて似合っていた。


高校生にしては少し大人びた服装だと思うが優一はそこは触れずに感想を述べた。

「いいと思う。綺麗だ!」

琴音は嬉しそうな表情を浮かべる。

優一は琴音が入れてくれた珈琲を飲みながら小説を書き始めた。


「兄さん、何してるの?お仕事?」

「これは今俺が今書いている小説だよ」


琴音は優一のパソコンを覗き込む。

「出来上がったら私に最初に読ませてくれる?兄さんのファン第一号になりたい」

「全然面白くないかもしれないけどいいのか?」

「兄さんが書いたなら絶対に面白いよ!約束ね?」


琴音はそう言って優一に小指を出してきた。

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ま~~~す指切った」」


琴音は満面な笑みを浮かべた。

優一は何気なく窓の方へ向くと、今日は綺麗な満月が見えた。

月はかなり大きく、約1年に一回訪れるスーパームーンのようだ。

立って窓から月を見ていたら、琴音も優一の傍に来て一緒に月を眺めた。

「月が綺麗だな」

琴音は何故か顔を赤くして返事をした。

「はい」

・・・・・・・・・・

暫く月を眺めていると、突然月が赤黒くなり、脈を打つかのように一瞬大きくなった。

「「!?」」

すると優一と琴音の足元から眩い光が立ち昇る。

「兄さん!」

「これは!?」

二人の身体と部屋の家具が宙に浮かび上がり光はさらに増し家全体を包みこんだ。

《つ・・・てぃ・・・が・・あぶ・・・まも》

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