第10話



 魔人は私の一撃を腕で受け止める。


「堅い……ね!」


 それが、楽しい。どうやって崩そうかと脳を全力で動かす。

 魔人は私の一撃を弾き上げ、私は態勢を戻すように距離を開ける。

 魔人と睨み合いながら、ちらと女性を見る。


「私はルクス」


 それだけで、通じたようだ。女性は納得した様子で頷いた。


「……ルクス。私は宮廷精霊術師のファイランよ。ごめんなさいね、迎えにいこうと思っていたのにこんなことになってしまって」

「ううん、大丈夫。ちょうど強い相手と戦いたいから。傷の治療、するから」


 私は微精霊にお願いして、ファイランの治療を行い、そして魔人と向かい合う。

 魔人と視線をかわすこと数秒。魔人が大地を蹴りつけた。


「カアア!」


 雄たけびとともに魔人が爪を振り下ろしてくる。

 それを横に転がってかわし、刀を振りぬく。

 普通に斬るだけでは足りない。

 だから、私は風を刃にまとい、切れ味を鋭くさせる。


 しかし、それでも魔人の皮膚に傷をつけるのが精いっぱいだった。

 まさか、これほどだなんて……。なんて、楽しい戦いなんだ!


「ガアア!」


 魔人が拳を振りぬいてきたので、その攻撃をかわす。

 身体強化とともに、土魔法で体を強化し、魔人の体を蹴り飛ばした。

 起き上がったその魔族へと、追撃に火の微精霊にお願いをして、火の矢を放ってもらう。


 それも、一度ではなく、連発だ。

 すべての微精霊たちに魔力を上げ、魔法を連続で放つ。

 魔人はしかし、倒れない。


 ……準備していた魔法が終わってしまった。

 耐えきった魔人は不敵な笑みを浮かべ、こちらを見据えてくる。


「れ、連続で魔法を……っ!?」


 剣を構えたまま驚いたように声を上げたのは、ファイランだ。

 ちらとそちらを見ると、ファイランが私の隣に並んだ。


「……一人では、大変よ。私も手を貸すわ」


 ……うーん。もう少し一人で戦ってみたかったけど、村では私たちの帰りを待っている人たちがいる。

 その人たちを心配させるわけにはいかない。


「うん……分かった」

「……かなり、不服そうね」

「だって、あの人とても強い。どうやって崩すか……とか、もうちょっとじっくり考えたかった」

「なるほど、その気持ちは分かるわね」


 私たちがそんな会話をしていると、近くにいた騎士たちがあんぐりと口を開いていた。

 まるで私たちを化け物かのような目で見てくる。

 ここにいるのが私だけなら、戦い方を色々考えるけど……さっき考えていた通り、あまり無駄な時間を使いたくはない。

 仕方ない。

 

「作戦はどうする?」

「そうね……私が囮をやるわ。その間にルクス。あなたが仕留めてくれるかしら? さっきの見た感じ、攻撃力はあなたの方がありそうだしね」

「分かった。それじゃあ、準備する時間を稼いでほしい」

「ええ、任せなさい!」


 私がこくりと頷くと、ファイランは魔人に向かって走り出した。

 魔人も同時に地面を踏みつける。初め、魔人は私の方を狙っていたようだったが、ファイランの一撃を受けたところで目標を変更した。


 同時、ファイランが片手を向けると精霊魔法が飛んだ。

 魔人の体に当たるが、致命傷には至らない。


「微精霊たち、魔法の準備はどう?」

『ばっちしー、だよ!』


 うん、大丈夫そうだ。

 私はちらと二人を眺める。

 ファイランの剣術は荒々しくも、美しい。

 ファイランも……やっぱりかなり強い。

 いつか戦ってみたいけど、今はその気持ちを押さえこみ、仕留めるための準備を行っていく。


 精霊に力を貸してもらい剣に風と水をまとわせる。

 風だけでは足りない切れ味を、水によって補強するためだ。


 これで、剣の鋭さが一気に跳ね上がったはずだ。

 さらに私は、体に風をまとい、加速。土魔法によって身体強化もお願いする。

 魔人とファイランの実力は、ほぼ互角。


 二人の打ち合いがしばらく続いた時、魔人の意識が完全にファイランへと見た。

 その隙へと飛びこむように、私は駆け出した。


 魔人へと一瞬で距離を詰める。

 そこでようやく魔人は気づいたようだ。


 私の方へぎょっとした目を向けてくる。

 だけど、もう遅い。


「ハアア!」

 

 気合とともに刀を振りぬく。風と水により、鮮やかな一閃はいともたやすく魔人の首へと当たり……その首を跳ね飛ばした。

 だが、驚くべきはそこからだった。


「ガアア!!」


 魔人はそれでもまだ、体を動かしていた。

 私の首を掴もうと手を伸ばしてきて、それにファイランが驚いたような声を上げていた。

 それをどこか遠くで聞きながら、私はにやりと笑う。


 私だって、ティルガに魔人について聞いていなければ驚いていただろう。

 でも、私は魔人の対応について知っている。


 魔人は額にある魔石を破壊しない限り、動き続ける。

 人間でいう心臓のようなもので、魔人はこの魔石から力を得ている。

 

 首から上を失った魔人に私は合わせるように刀を再度振りぬく。

 私の一撃は寸分違わず、魔人の額の魔石を捉え、砕いた。

 鮮血が周囲へと飛び散り、私はそれから逃れるように後退する。


 やがて、魔人は膝から崩れ落ち、その体が灰のように消滅した。

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