異母姉妹たちに虐げられ、追放された私が天才精霊術師だったみたい ~今さら私の才能に気づいた家族が戻ってきてほしいと懇願するけど、遅いです~
木嶋隆太
第1話
私は自分の部屋を見回した。
ベッドと本棚、それと木刀。この部屋にあるもののはそのくらいだ。
本棚には暇つぶしのためにたくさんの本があった。
でも、もう全部読んでしまったもので、正直言って興味を惹かれることはなかった。
この部屋には窓の一つもない。
地下に作られているため、仮に窓があったとしても太陽を見ることはできないと思う。
そう、ここは私を閉じ込めるための部屋だ。
唯一、外界と繋がる扉があったが、そこは固く閉ざされていた。
私が力を込めて押しても、扉が開くことはないだろう。
鍵も内側にはない。私が勝手に外に出ないためだ。
今日も私は、この牢獄のような地下での一日が始まる。
なぜ私がここにいるのか。その理由は簡単だった。
私が伯爵家に生まれた双子の妹だからだ。
この家では双子という存在は嫌われていた。
双子が嫌われている原因は色々と考えられる。
母体を傷つけて生まれてくること。
犬や猫など、家に何も益をもたらさない生物たちが複数の子どもを生むこと。
一度の出産では本来一人しか生まれないという神様の決め事を破っていること……。
どれが理由で双子が嫌われるようになったかは分からないが、きっとどれもこれもが組み合わさった結果何だと思う。
本来、私はすぐに殺される予定だったらしい。
私を殺すことで、『双子をなかったこと』にしようと考えた。
古い慣習のある家では、基本的に先に生まれた方を残し、後に生まれた子を殺すことで双子をなかったことにするのだそうだ。
……それって意味あるの? とは思うけど貴族の人たちはそれで納得するみたい。
でも殺されるはずだった私は、母が庇ってくれたおかげで今もこうして生きている。
生きているといっても、外に出ることは許されない。
私の生活空間はここ……この屋敷の地下だけなんだけどね。
ここでの生活は、窮屈ではあるけど命の保証はあった。
でも、それももうすぐ終わり。
来週には、この家を追放されることになっていたからだ。
父が私をこの家に置く条件として提示したことはただ一つ。
『冒険者登録が出来るようになる12歳まで』。
つまりまあ、私が自立できるようになれば家から追い出すってこと。
その後野垂れ死のうが関係ない。それが父の言い分というわけだ。
私の誕生日は来週には来る。
そうしたら、もうここにはいられない。
大好きな母と、双子の姉と会うことももうできないだろう。
この屋敷で私に優しくしてくれる人はその二人くらいけど、二人ともう会えなくなってしまうと思うと、辛い気持ちもあった。
私も、何もしてこなかったわけじゃない。この家に残れるように、必要とされるために、色々と頑張ってきた。
剣を学んだり、魔法を学んだり……。
私は目に魔力をこめ、周囲へと視線を向けた。
ふわふわと周囲には半透明の妖精のようなものが浮かんでいる。
それは微精霊、と呼ばれる存在だ。
微精霊とは、精霊術師が精霊魔法を使う際に必要な存在たちだ。
精霊術師たちは、微精霊に魔力をあげることで、微精霊の力を借りて魔法の力を使うことが出来る。
私が魔力をこめると、微精霊たちがたくさん寄ってきた。
見た目は妖精のようなもの。
それぞれ、属性ごとの色に分かれていて、とても綺麗だった。
『何か、魔法、使うのー?』
声をかけてきた微精霊たち。私はそんな微精霊たちに首を振った。
「別に、大丈夫。ご飯の時間」
『わーい!』
微精霊たちが喜んで私の魔力を食べていく。
ちょっとした餌やりをするような気分だ。微精霊たちとたわむれていると、部屋の扉がノックされた。
誰だろう?
そうは思うけど、わざわざノックをしてくれるのは、私に優しい人たちだ。
だから、期待する気持ちとともに扉へと向かう。
「入って大丈夫」
扉に声をかけると、向こうから鍵が開いた。
そこにいたのは、母だ。
自然私の口元が緩む。嬉しい気持ちを表現するために、母へと抱きつくと、母も抱き返してくれる。
温かな感触が私の体を包んでくれた。
「楽しそうね?」
「うん、魔法の勉強をしてた」
私がそういうと、母は嬉しそうに微笑んだ。
「そうなのね。どうだった?」
「今日も調子良い」
「……そっか」
母は微笑みながらも、表情は僅かに沈んでいた。
もうすぐ、この生活も終わってしまう。母もそんな風に考えているのかもしれない。
私はぎゅっと唇を噛んでから、微笑んだ。
「母さん。今日も一緒に本を読みたい」
残り少ない時間。
だからこそ、大切にしたい。
私のそんな思いをくみ取ってくれたのか、母は満面の笑みを浮かべた。
「そうなのね。今日はどの本にする?」
「北方の侍の話」
私は母の手をとり本棚へと向かい、買ってもらった本を取り出した。
何度も一緒に読んできた本だったため、この中で一番使い込まれていた。
「本当に北方の侍の話が好きなのね」
こくり、と頷いて返す。
私は侍が大好きだった。
この家を追放された後は、侍に弟子入りでもしようかなと思っているくらいだ。
私はあまり服などは買ってもらえなかったけど、それでも今身に着けている和装だけは母が買ってくれた。
これを身に着け、部屋で木刀を振るうのが私の趣味の一つだ。
「外に出れるようになったら、私侍になる」
「……そうね。もうすぐ12歳の誕生日だものね」
母は悲しそうな声音でそう言う。
「うん、楽しみ」
私はにこりと微笑んでそういった。
母が私を気にしないように。
私は……家を出ることにためらいは少ない。
だって、私がいなくなれば私の大好きな人たちの立場が守られるから。
母は私を庇っていることで、家での立場がどんどん悪くなってしまっていると聞いている。
そんな母も、私がいなくなればきっと立場が戻るだろう。
私の言葉を聞いた瞬間、母は涙を浮かべ私の体を抱きしめた。
ぎゅっと強く抱きしめてきた母は、嗚咽をもらしていた。
私は母を元気づけるためにそう言ったのに、母の反応は私の想像とは大きく違っていた。
「ごめんね、ごめんね……! 何もできなくて……!」
母の言葉に、私はなぜ母が泣いているのかその理由が良く分かった。
私は抱きしめてくれる母の腕を握り返すことしかできなかった。
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