―05― 養子
「今から新しい養子を紹介する」
食卓に向かうと父親がそう口にした。
やはり、この前口にした通り、俺を追い出し、養子を跡取りにするのは確定事項のようだった。
だが、今日、その養子が家にやってくることは予想外ではあったが。
「えっ?」
と、妹は養子のことを聞いていなかったようで驚きを隠せないでいた。
「入れ」
父親の合図と共に、入ってきた人物は僕と同い年ぐらいの青年だった。
「俺はディミト・エスランドだ」
と、彼はそう名乗った。
エスランドと、僕と同じ名字を名乗るってことはすでに養子の手続きを済ませているんだろう。
「いいか、俺様は魔術の天才だ! だから、平民出身だからって俺のことを舐めたら容赦しない」
と、彼は堂々とした立ちふるまいでそう主張した。
平民ということは両親は非魔術師なわけだが、そういった家庭でも時々魔術が使える子供が生まれることがある。
おそらく、彼はそういった例外のような存在なんだろう。
「もしかして、君がノーマンか?」
「はい、そうですけど」
ディミトは僕の目を見ながら話しかけてきた。
「そうか、お前が両親が優秀な魔術師なのに、魔術が使えない無能か」
「え?」
唐突に吐き出された侮辱に僕は戸惑う。
「ホント君は親不孝ものだよね。だけど、もう安心してくれ。この家は俺が守るから」
そう言われて、僕はなにも言い返せなかった。
なぜなら、魔術が使えないことは、どうしようもない事実だったから。
「ちょっと、そんな言い方はしなくもいいじゃない」
ディミトの態度に癪に触ったようで、妹のネネが反抗する。
「お前が妹のネネか。いいか、妹といえど俺に反抗するのは許さない。なにせ、この俺は次期当主だからな」
「なっ!?」
妹は目を見開いていた。そして、なにも言い返せないでいた。
「で、君はいつまでここにいるんだ?」
ディミトが僕のことを見ながらそう口にした。
「お父さん、彼はこの家から追い出すって約束でしたよね?」
「あぁ、そうだったな」
「えっ?」
僕がこの家から追い出されることを知らなかった妹だけが、また驚きを口にしていた。
「そういうことだから、早く出て行ってくれ。君のような無能が目の前にいると目障りなんだよ」
「ノーマン、そういうことだ。今すぐ、この家から出ていってくれ」
父さんの口ぶりから、僕を家から追い出すことにしたのは養子のディミトが希望してのことのように聞こえた。
「わかりました……」
僕は弱々しくそう頷くしかなかった。
◆
「ふむ、なんだか大変なことになったのう」
家を追い出された僕に対し、悪魔のフルカスさんがそう話しかけてくる。
ちなみに、家でのやりとりは全部フルカスさんに見られていた。といっても、やはり僕以外にはフルカスさんのことは見えないので、誰もその存在に気がつかなかったが。
「仕方がないです。僕は魔術が使えない落ちこぼれですから」
「ふむ、儂から言わせれば、お主ほどの才能に恵まれた存在を追い出すとは、あの者たちが節穴だとしか思えんかったがのう」
僕が才能に恵まれているだって?
そんな馬鹿な、と僕は苦笑した。
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