「短編」空空
たのし
空空①
私は今日もお城の中に閉じ込められている。
窓はなく、壁には自然の壁画がビッシリと描き殴られている。
毎日決まった時間に食事が届けられ、毎日決まった時間に散歩の時間が与えられる。
散歩っと言っても高い壁で囲まれた敷地を30分程度歩くだけだ。後ろからは何を話しかけても返ってこない女の人が2人ついてくるだけ。
私がこうなったのは、今から15年前。ちょうど10歳になり、誕生日パーティーを大々的に開かれた夜の事である。
当時は10歳になる頃に将来の婿を両親より紹介され、政治のための生贄として同盟国の者と結婚させられるのが当たり前の時代。私がその日紹介された男は中肉中贅の男で歳は父と同じくらいの葉巻をブカブカ吸う人だった。
私はブカブカと舞う煙の間から見えるその男の刃物のようにギラリと光る目が怖くてその場を飛び出し、自室のベッドに潜り込んだ。
ベッドでブルブルと震える事いくばくかの時間が経った時、父と母が様子を見に私の部屋に入ってきた。
父が私の被ったシーツをめくり揚げすごい剣幕で私を怒鳴りつけた。
「お前は何て失礼な奴だ。今からでも遅くはない。謝りに行こう。」
そう言って父が私の手を鷲掴みにしベッドからひきづり出した。
その時である。コロンっと床に何か落ちる音がした。
それに気づいた母が落ちた物を拾うと子供の小指の爪くらいの大きさの光物だった。
母はライトにそれを近づけると目を丸くして言った。
「貴方。これ、ダイヤだわ。」
父は私の手を離し母の元により、ダイヤを確認した。その時の両親の顔を幼いながら恐怖を覚えた。ライトに照らされた2人の顔は絵本で見た狼の目よりも、黄色く尖っていた。
私のギリギリ痛む手を再度鷲掴みにした父は私に「おい、お前。これをどうしたんだ。」っと言った。私の両親は私を名前で呼ぶことはない。政治の道具である。
乱暴に扱われベッドから落ちた私を父と母はあの男の様に私を見下した。
母が私の枕元に何かを発見して近寄り大声を出した。
「ダイヤがこんなに沢山。貴方全部拾うのよ。」
父と母はベッドに飛び込みダイヤを優しく丁寧に集めてポケットに詰め込んだ。
私はそれを見て、胸がギュッと苦しくなりポタポタと涙を流した。顎から流れた涙が床に落ちるとコロンっとダイヤに変わった。
それを見た父は母にこう言った。
「お前。良くやった。良くこの様な子を産んでくれた。」
私は政治の道具である。私が褒められる事はない。その後すぐ結婚の話は無くなり、私は丁重に扱われた。しかし、そこに愛はなかった。
初めは自室で、自由にでき同じ歳の男の子と遊んでいたが、幸せだったら泣かないと父と母は私を今住む場所に私を閉じ込めた。
そして、それから15年私はダイヤを産む雌牛としてこのお城で飼われている。
私は少しでも寂しさを紛らわす為、裁縫を始めぬいぐるみを作ったり、人のいない壁の壁面に想像の人を描いたりして紛らわせた。
しかし、月に一度私は部屋を移されその間に壁面はまた友達のいない風景に描き直され、ぬいぐるみは捨てられた。
友達はもう200人は居なくなった。
名前を忘れた子もいる。
私は居なくなるたび、作ったり描いたりしながら寂しさを紛らわせた。
ある日。私が許された30分の散歩の時、城の庭園を何も考えないで歩いていた。すると、庭園を手入れしている庭師の青年が私に「こんにちわ。」っと深々と挨拶をしてきた。
青年はすぐ、私の後ろにいる兵に首根っこを掴まれ外に投げ出された。
久々の私に向けられた言葉である。
その日の夜私の目からは沢山のダイヤが出てきた。これは、今までの物とは違う。ホワホワと心が暖かくなり、ギュッと締めつられて出る涙ではなかった。
私はその夜沢山のダイヤを出した。喉が渇くくらい出たのは久しぶりかもしれない。
でも、嬉しかった。沢山のダイヤが私のベッドには溢れた。
次の日、私が外の散歩から帰ると部屋は綺麗になっていた。私は青年のこんにちわって声色を忘れない様胸にしっかり刻み込んで眠った。
そして、それから数日後私は何故か庭園内だが外に自由に出れる様になった。2人の兵も後ろからついて来ない。
私は大きく深呼吸してスカートを捲り上げ走り回った。モンシロチョウが黄色い花の周りを飛んでいる。息切れをしたのはどれくらいぶりだろう。足が痛いのはどれくらい昔だろう。っと考えていると、「こんにちは。参ったよ。この前、君に声を掛けただけで外に出されたんだから。凄く怒られて大変だった。まあ大将の雷よりはマシだけどね。キャキャキャ」梯子の上で私を見ながら話しかける人がいる。何度も心の中で声真似をした青年だった。
私は捲し上げたスカートを元に戻して「こんにちわ」っと彼に言った。
〜続く〜
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