第367話会議を終えてお散歩

「……。いかがされましたか、第二お兄様?」


 第二王子の横槍に反応したフィーリアだが、反応する直前。一瞬だけだったが、口元がニヤリと性格悪そうに歪んでいたのは気のせいじゃないだろう。

 だって、こうして邪魔をされるのも計画のうちなんだから。


「貴族の家への立ち入り調査なんて、できるわけがないだろうが。なんの証拠もなしにそんなことをすれば、反感を買うことになるぞ」


 そんな事を知らずに第二王子は話始めたが、その態度はかなり偉そうだ。実際この場にいる者の中では王太子の次に偉いんだからその態度も間違いではないんだけど、どうにも王太子と比べると『格』が落ちて見えてしまう。


「ですが、調べないわけにも参りません。それに、これがもっともわかりやすい方法ではありませんか? それとも、第二お兄様はご自身が懇意にしていらっしゃる貴族を調べられてはまずいことでもおありですか?」

「正当性がないと言っているのだ。王族が個人の言葉だけで立ち入り調査なんてしてみろ。今後の貴族との付き合いにヒビが入ることになる」

「しかしながら、ここで調査をしなければエルフとの関係にヒビが入ってしまいます。その場合、ただでさえ数の少なくなってしまっている『八天』から、もう一人消えることになってしまうのではないでしょうか?」


 そう言いながらフィーリアはランシエへと顔を向け、第二王子含め他の者達もランシエへと視線を集めた。


「私は、同族さえ助けられるなら法律なんてどうでもいい。この国に所属しているのは、同族を守るためだから」


 ハーフ〝エルフ〟であるランシエがそう言えば、第二王子の表情は険しく歪んだ。

 流石に、今の状況で『八天』がの数が減るのは第二王子としても避けた方が良いとわかっているんだろう。たとえそれが、王太子側の勢力なんだとしても。


「だが、調べるにしても時間をかけて行うべきだ」


 ランシエを敵に回さないためか、調査をさせない方向から時間を稼ぐ方向にてチェンジしたようだ。

 時間を稼いだところで違法奴隷がいるのは変わらないから調査が入ればバレることになるが、まあその間に何かしら対策をするつもりなんだろう。移動させるのかより上手く隠すのか、それとも処理するのか。

 何をどうするのかはわからないが、それでも時間を稼ぎたいと思っているのは間違いではないだろう。


 だが、そんなことは認めさせないとフィーリアが反論しだす。


「ですから、それだけの時間がないのです。時間をかけて調べている間に隠されてしまったらどうするのですか? ランシエとリーリーア様に不信感を持たれてしまえば、事を解決したとしても意味などありません」

「何をバカなことを。所詮は他種族のことだろうが。この国は人間のものだ。少数民族に取り入るより、同胞であり、この国の中核をなす貴族達を優先するべきに決まっているではないかっ」


 おっと? 自分の思い通りならないからか、本音が漏れ始めた。というかダダ漏れだ。

 この場でエルフのことを他種族だ少数民族だって言うのは、まずいだろ。

 ランシエがいることもそうだが、一応リリアはエルフのお姫様ってことになってるんだぞ?


「確かにこの国は人間が建国した国ではありますが、だからといって人間以外を粗雑に扱うことを是としているわけではありません。むしろ手を取り合って協力をして国を盛り立てていくべきでしょう。こんな状況なのですから尚更です」

「こんな状況? はっ! こんな状況だからこそ同族である人間が団結しなくてはならないのだ。他種族にかまい、同族からの信を捨てては意味がないっ!」

「同族からの信というのでしたら、間違いを正し、罪を犯した者をを捕えるべきでは? それこそが信頼を得る最も相応しい方法ではないでしょうか?」

「お前は——」

「二人とも、そこまでだ」


 第二王子とフィーリアのは口論が激しくなってきたところで、王太子の制止が入った。


「今は客人の前だ。それも、他国の姫のね。どちらにせよ調査するのは決まっているのだから、細かい方法については後で話せばいい」

「……」

「申し訳ありませんでした。ルキウスお兄様」


 王太子に注意をされたことで第二王子は不機嫌そうにしながらも黙り、フィーリアは素直に謝る。

 でも、フィーリアは申し訳なさそうにしているが内心では笑ってるだろうなぁ。だって第二王子があんなにもバカなんだもん。思い通りに動いてくれるって、作戦を立てた側の人間としては楽しいだろ。


「それから、マーカス。君の言葉は差別ととられかねないものだ。もちろん君にそんな意図がなく、ただ純粋に今の国の状況をなんとかしたいと考えた結果であり、逸る気持ちから言葉が乱暴になってしまったことも理解している。ただ、この場では相応しくなかったというのも事実だ。以後は気をつけるといい」

「……ちっ」


 こんなに有力貴族が集まる場で名指しで注意されたことで恥をかいた第二王子は、ついに黙っていることができずに舌打ちをした。

 そのことに文句を言う者はいないだろうが、それでもここにいる者達は王太子との『格』の違いや、身の程ってやつを理解してるだろうな。


「リーリーア王女。我が弟が失礼なことを申しましたが、それはあなた方を貶めるようなものではないのだということを理解していただけないだろうか?」

「え、えっと……は、はい?」


 リリアは突然声をかけられたことで少し迷ったように若干首を傾げながらも、一応ちゃんと頷くことができた。少し返事が疑問系だった気もするけど、まあ平気だろ。


「ありがとうございます」


 そうしてその場でのリリアの出番は終わりとなり、俺はリリアと共に部屋へと戻ることになった。

 あっちの事はフィーリア達がなんとかするだろう。


「ふいー……。ねえねえ、どうだった? わたしかっこよかった?」

「まあ、成功って言ってもいい感じではあったな。途中セリフを忘れたり挙動不審になってたが、お前だしあの程度で済んだんだったら許容範囲だろ」


 多少おかしいと思われたとしても、そこまで気にされるようなことでもないはずだ。

 気にされたとしても、普段のリリアの様子を知ればあの時は無理をしてたんだろう、くらいに思ってもらえると思う。


「これで後はどうすんだっけ?」

「フィーリアや王太子が貴族相手に動くから、俺たちは適当に時間を潰してから『遅い!』っていってエルフを捕らえている家に突っ込んでいけばいい。他にもやることはあるが、その辺はこっちでやるからお前は旗頭として目立ちながらエルフを助けることだけ考えろ」

「んー、わかった!」


 真面目に頑張ったのは間違いないし、今日くらいは少し甘やかしてやろうかな?


 ほーら、お水だぞー。


 ——◆◇◆◇——


 それから数日後。俺達は再び街に出ていた。


「っふ〜〜〜! いっええええ〜い!」


 そんな声を出しながら歩いているのは、言わずもがな、リリアだ。

 このバカは、はしゃぎすぎて出てくる前の忠告を忘れているのか、俺達を忘れて一人で先に進もうとしている。


「おっそとー、おっさんぽー、みんなは元気にしってたっかなー」

「落ち着けペット枠。はしゃぎすぎると城に閉じ込めるぞ」

「それは嫌! ……んん? ……。……ペット枠っ! その呼び方まだ続いてたの!?」

「反応が遅えよ。すぐに気づけ」


 ペットと言われたことに、首を傾げて数秒経ってから気づいたリリアだが、反応が遅すぎるだろと思う。

 だがまあ、それもいつものことといえばいつものことだ。


「まあしかし、それなりにこの街も活気が戻ってきた感じだな」


 こうして街中を歩いていると、以前との違いがはっきりと感じ取る事ができる。


「怪我人がいなくなりましたし、食料も足りていますからね。建物に関してはまだ不足していますが、その程度です。先の見通しがつきだしたのであれば、そこを目指しているうちは問題ないでしょう」


 ソフィアが言ったように、今は怪我人や病人の目立つ部分はリリアが治療しているので、残っているまだ治療を受けていないのは結構少ない人数だろう。


 食料の方だって、俺がここに滞在している限りは無限に作る事ができる。まあ、人を雇って雇用がどうしたって話もあるから俺は育てるだけで収穫まではしないけど。それでも一晩で大量の食料を用意できるんだから、今の状況では助かるだろう。


「噂の方はどうなってる?」

「そっちは聞こえる感じは問題なさそうだな。大体が第二王子はダメなやつ。貴族も信用できないのが多い。王太子とフィーリア王女の周りだけがマシ……って感じだ」


 俺の言葉にカイルが答えるが、俺はその言葉を聞いてわずかに顔を顰める。


「……フィーリアたちの評価は〝良い〟じゃなくて〝マシ〟なのか」

「それは仕方ないんじゃないですか? 今の市民たちからしてみれば、信じてたはずの第二王子が嘘だらけで、貴族たちも裏切り者がいて、誰を信じていいのかわからないんですから。もしかしたらだ王太子達も実は、なんて思っちゃってもおかしくないと思います」

「まあ、そうか」


 確かに、ベルの言ったように市民達からしてみれば誰を信じていいかわからないか。俺たちがフィーリア達のいい噂を広めてたって言っても、市民達は本人を直接見た事がある訳じゃないんだし、疑うのも無理はないか。


「ただ、ヴェスナー様とリリアの評価はすっごく高いです! 多分、王族よりも信仰されてると思いますよ」

「なんで俺……ああ、『化身様』だったな」

「『聖女』の方が評価は高いけどな。実際に怪我を治してる訳だけど、『化身』の方は最初に植物を育てただけで後は何もしてないし」

「まあ、市民の前で俺がやったのってそれくらいだな。食料の方は王太子が用意した場所で育ててるし」


 収穫に関わる者達は一晩で育つ植物を見ているだろうが、直接俺のことを見た事があるわけでもない。だから『化身様』のことはそれほど話には挙がらない。

 まあ噂としては存在しているが、それでも直接姿を見せてくれる『聖女様』の方が評価は高いのは当たり前だろうな。

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