第339話真なる王族の夢の果て
「ヴェスナーちゃんの方も終わったのかしら?」
「まあ巨人に関してはな。あとはあの自称王様だけ——」
俺が巨人と戦う前には降ろされていた新王。今どこにいるのか知らないが、切り札である巨人を倒されたんだ。巨人に命令を下してたことからして多分あいつは調教師だろうし、あいつ一人生き残って俺たちと対峙したところで何もすることはできないだろう。
なんて考えながら話していたのだが、その言葉はフィーリアによって止められた。
「あ、あの、お兄さま。まだ動いているようですが……。いえ、そもそもあの格好はなんでしょうか?」
フィーリアの指摘を受けて巨人の方へと顔を向けたのだが、まあ、そういう感想が出てくるよな。
巨人は倒したって言ってるのに動いてれば大丈夫なのかと思うし、今の状態だって絶対にやらないような変なポーズをとったままだし。疑問しかないだろう。
「あー。まああの格好については無視してくれ。動いてることについては大丈夫だ。もう味方になったから」
そのことを本当なんだと教えるために、俺はまた寄生樹に巨人を動かしてくれとお願いするが、そのポーズがどこかの漫画で見たような奇妙なポーズだった。
なんであいつらがあの格好を知ってんだ? あいつら、どっかから電波でも受信してるのかよ。
「味方になった、ですか? あれは敵に操られていたのですよね?」
そんなポーズをとった巨人をどことなく冷たい目で見ながら、フィーリアは問いかけてくる。
何を遊んでいるんだとでも思ったのかもしれないけど、あの格好をさせてるのは俺じゃない。
「ああ。けど、ほら。あの体にまとわりついてる樹があるだろ? あれで動きを止めて、頭に咲いてる赤い花をつけた樹——寄生樹を打ち込んだ」
俺が寄生樹の名前を出すと、フィーリアは一瞬何を言ったのかわからないように俺を見て首を傾げ、だがすぐに目を見開いてバッと巨人へと再び視線を向けた。
「き、寄生樹っ!? なぜそのような危険駆除指定植物をっ……!」
そして、叫びながら再び俺へと視線を戻したが、その言葉には俺を責めるような色がのっていた。
だがまあ、そう言いたい気持ちも理解できる。
しかしそんな不安や心配も、俺がいる場合はなんの問題もない。
「安心しろ。普通なら危険だろうが、俺は植物と話ができるんだぞ? ついでに聖樹の加護もある。頼み事をすれば、大抵はいうことを聞いてくれる」
「……ああ、そういえばお兄さまはそうなのでしたね。心臓に悪いことですが、問題ないのでしたら、それで……」
ほっとした様子を見せながらそういったフィーリア。
だがその途中で、何かに気がついたように僅かばかり考え込むような様子を見せ、俺を見ながら問いかけてきた。
「先程、〝大抵は〟とおっしゃっていましたが、もしいうことを聞いてもらえなければ、どうされたのですか?」
「その時は仕方ない。育てたばかりで悪いが、巨人ごと燃やしたさ。火力は高くないけど範囲に火をはなつスキルもあるからな」
フィーリアの言うように、植物次第では言うことを聞いてくれないこともある。
一応前もって調べたことはあったから寄生樹の性格なら大丈夫だと思ったが、もし言うことを聞いてくれなかったら《焼却》で燃やすところだったから、そうならなかったのは良かった。
いい手駒が手に入った。寄生されて操られてる巨人はちょっと可哀想な気もするが、まあ本人に意識ないはずだし、元々死んだようなものだったんだから構わないだろ。
「しかしまあ、これで本当に終わったわけだが、どうするか……」
正直新王自体はどうでもいいと思ってるんだが……どうしようか?
一応エドワルドからは敵は残しておけ的なことを言われていた気もするし、やっぱり敵の親玉くらい残しておいた方がいいだろうか? ここまでやってればすっごい今更感が溢れてるけど。
俺たちが新王のところに向かったのは、俺たちが突っ込んでいくことで捕らえられていた者たちが逃げ出す時間稼ぎを、と考えていたからなんだが、解放した奴らはもうとっくに逃げ出しただろうから俺たちがどう動こうとも問題ない。
今回の騒ぎだって一番厄介だった巨人は倒したし、あとは新王たちにどう動かれても大した面倒には発展しない気がする。
……あっ。そういえば最初の目的はあの新王に聞きたいことがあったからって理由もあったんだったな。
まあ聞きたいことっていうか、知っていればいいな程度のあれだけど。
聞きたいことってのは、前王——俺の実父がどこに行ったのか知っているか、だ。知らなくてもいいんだが、知っているなら教えてもらいたかったかな、と少し思っていた。
せめて本当に逃げることに成功したのか、それとも実は俺たちが知らないだけでもうすでに新王たちが殺してしまっているのか。それくらいは聞きたいところだった。聞いてどうするってわけでもないんだけど、まあ一応な。
でも正直、ついでに動いて軽く聞くことができればいいかなって程度だったし、わざわざ探し出してまで聞かなくてもいい気もする。
元々俺たちがここにきた目的である母さんとフィーリアの救出は……まあその規模が予定以上に大きくなったが無事に終わったわけだし、それ以外の余分はやってもやらなくてもどうでもいいことだ。
ここにくるまでも結構疲れたし……ああ、俺たちを運んでくれた仲間たちがどうなったのかも気になる。
本当ならここで色々と考えないといけないんだろうが、なんかめんどくさくなってきたし疲れてるし、もう帰ってもいいかな?
なんて、自分の中ではもう終わったこととして考え始めていたんだが……
「な、なんなんだ! なんなのだ貴様らは! なぜ貴様らのような化け物がこんなところにいる! ふざけるな! 私がどれだけの間この場所を取り戻すために生きてきたと思っている! どれほどこの場所をっ……! 貴様らは一体なぜこんなところにいるのだ!? なんの恨みがあって私の願いを邪魔する!?」
なんか知らないけど新王自ら出てきてしまった。
……なんで出てきたんだか。あんなことを言うためだけに出てきたのか? ここは隠れて、もしくは逃げて機会を伺うところだろうにわざわざ出てくるって、ちょっと頭がおかしいんじゃないか?
でもまあ、こいつからしてみれば祖父母や親から受け継いだ悲願を叶えるために頑張って準備してきたのに、それが突然現れた想定外の戦力によって全部ぶっ壊されたようなもんだもんな。
頑張って位階をあげて、苦労して魔物を従え、工夫して巨人を二体も使役することに成功した。
そうしてこの国に攻め込んできたんだ。
作戦はうまくいっていたし、玉座を手に入れてようやく願いが叶ったんだと喜んだことだろう。
だってのに、途中から変なのが現れて全部ぶっ壊された。そんなことになったら、文句の一つも言いたくなるってのも理解できる。
でも、なぜこんなことをしたのか、か。……うん。
「なぜって言われても、そんなんただ母親と妹を助けに来ただけだ。ただそれだけで、別に恨みとかはないな」
ぶっちゃけそれだけだ。俺がここにやってきたのは母親と妹を助けるためで、それ以外のは話の流れっていうか、ついでにやれそうだったからちょっとやらかしただけ。特にこの新王をのものに敵意とか悪意とかがあったわけじゃない
「は、はおやだと? そんな……そんなどうでもいい理由で我らが悲願を邪魔したと言うのか!?」
確かに規模で言ったらあの新王の方がでかいことだろう。
だが、願いの強さってのはその規模の大小で決まるもんじゃない。他人から見ればどんなにちっぽけな願いだろうと、その本人からしてみればそれが世界の全てに思えるような願いだってあり得る。
「どうでもいい理由なかじゃねえよ。お前にとってはどうか知らないが、俺にとっては命をかけるに値する大事な理由だ。価値観なんて人それぞれで、お前の願いだって俺からしてみりゃあクソみてえな願いだ」
『先祖の願いを叶え、本来あるべき地位を取り戻す』なんて願いに比べればはるかに小さい願いだが、俺にとっては『家族を助ける』ってのは何よりも、誰よりも優先されるべき願いだ。どっちの願いを優先するかなんて、そんなのは論ずるまでもないくらいに最初っから決まっている。
だからこそ、俺は今回ここにきたし、新王の願いを踏みにじってでも母さんとフィーリアを助け出したんだ。
だが、そんな俺の言葉も新王には理解できなかったようで、子供がわがままを言うかのように喚き散らす。
「ふざけるな! 正しき王家による統治を求める我が願いは——」
「ああ、いいよその話は。もう聞いたから。聞いた上で、俺はその願いを正しいとは思えなかった。誰かを犠牲にしてまで叶える願いだとは思えず、俺の大事なものを犠牲にすることを許容してもいいと思えなかった。それだけだ。これ以上はいくら話しても平行線だろ」
だが、そんな言葉も俺にとってはすでに意味のないもので、俺の言葉もまたこいつにとっては意味のないものだろう。
これ以上話したって何も起こらないし、何も変わらない。
「ふざ、ふざけるなあっ! わ、私はあああ! わたしはこれまで必死になって! 必死の思いでここまでやって来たのだ! それが、それなのにっ! なぜっ! なぜこんなところで終わらなければならないっ! わたしの何が悪かったというのだっ!」
俺ではなく、まるで神様にでも向かって慟哭するかのような言葉だが、もうそんなことをしたところで意味なんてない。神様なんて応えてはくれないし、何かが変わるわけでもない。
「夢の果てにしちゃああっけないもんだが、まあ現実ってのはそんなもんだろ。どんな崇高な願いだって、どんな些細な願いだって、力がなけりゃあ何も手に入れられず、何も守れない」
俺はそれを生まれた直後に理解した。理解させられた。実の父親の手によってな。
力がなければ奪われるだけ。それはどんな立場の誰であろうとかわらないんだってな。
だから俺は、奪われないように鍛えた。
俺がスキルを鍛えたのは、極めたらどうなるんだろうなんて疑問も確かにあったが、力を得て理不尽に対抗する手段としての意味合いもあった。
その甲斐あって、少し前の戦争ではカラカスが——俺の故郷が壊されることもなく守り切ることができた。
理不尽で納得いかない話かもしれないが、こいつは力が足りなかった。今回のはそれだけの話だ。
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