第334話調教師と死霊術師
親父は〝死者〟と言ったが、それは言葉通りの意味だ。
この巨人は動いているが、すでに死んでいてその体を操られている状態。
死者を操るスキルを持った天職ってのは存在している。
『死霊術師』。それは死んだ者の魂を呼びだし、肉体に憑依させて操るスキルを持った天職だ。
死体を操る以外にも死者の魂を読んだ後は普通に会話をすることもできるから、予期せぬ事故なんかで死んだ場合の証言や遺産相続、あるいは家族への最後の言葉なんかも聞くことができる。
あとは、一応生者の魂を操ったり壊したりすることも可能らしい。
だが、そんななかなかに外道なことができる天職ではあるが、良い面もあるために一応死霊術師ってだけで悪とは判断されない。その天職のイメージが悪いことは確かだけど、持っているだけで悪とはならない。
だがこれも『調教師』やなんかと同じでかなり珍しいの天職のはずなんだが、まさかあいつ調教師と死霊術師の二つを……?
……いや? 多分違うだろう。死霊術師だとしても、巨人を操るなんてそれなりに高位階じゃないとできないはずだ。あいつの見た目の年齢からして、調教師と死霊術師を両方とも上げたとは考えにくい。多分どこかに協力者がいるな。
この巨人が死者だというのなら、植物達が巨人は死んでいると判断したのも当然のことだ。何せ本当に死んでいたんだから。
八天が負けたのだって、これのせいかもしれないな。八天はこの街を守るために戦い、勝ったのかもしれない。でもその後に死霊術で動かされて二回戦目となって負けた。それなら納得だ。
流石に巨人との二連戦はきついだろう。それも、痛みを感じずに致命傷なんてものも存在しなくなった化け物を相手にしていてはな。
この嫌な感じだってそうだ。今まで遭遇したことがなかったからわからなかったが、これが死者の気配だってんならそうなんだろうなって納得もできる。
「死者ってことは……『死霊術師』がいんのか?」
「多分だがな。じゃねえと死体は動かねえだろ」
めんどくさい。死者だから痛みを感じないし、倒すとなったら完膚なきまでに破壊しないと殺しきれない。
種を打ち込んで生長させれば動きを止めるくらいならできるかもしれないが、最強種である巨人に通用するのかは微妙なところか?
あるいは術者を探し出して殺せば止まるが、だが術者がどこにいるのかって言ったらこの近くってことくらいしかわからない。
まあ、最悪この場一帯をひっくり返すとか微塵切りにするとかすればどうにかなるかもしれないけど、それは最終手段にしたいところだ。
「でも、巨人を甦らせるほどの術者がいるものでしょうか? 正直、あの者が操っているとは考えにくいのですが」
なんて考えていると、フィーリアがそんな疑問を口にした。
巨人は最強種の一角だ。ドラゴンが死後に最上級の素材として使われるように、死んだとしてもそれは変わらない。
生前の巨人を操ることもだが、死後の巨人だってそう簡単に操ることはできないだろう。
だが実際に目の前で起こっているわけで、フィーリアはそこに何かしらの仕掛けがあると考えているのか?
でも巨人を動かせるような仕掛けって、そりゃあどんなのだ、って話になる。
だが、そこで母さんが口を挟んだ。
「いるわね。正確には〝一人だけ〟というわけではないかもしれないけれど、魔力の流れが地下から来てるわ」
地下から? ってことは、やっぱりあそこで——もう巨人の腕で見えなくなっているけど、あの奥で高らかに杖を掲げていたあいつが死霊術を使ったってわけじゃないってことでいいのか。
……ただ、そうなるとなんであいつはああして偉そうに杖を掲げたのかわかんないんだけど……え、かっこつけ?
もしくはあの行動が合図になっていたとか、後はあの動きは陽動だったとか。実際あの動きに注目してた俺はあいつが死霊術師である可能性を考えたわけだし、全くの無意味ってわけではないんだが、なんか気が抜ける感じがする。
まあそれはそれとして話を戻そう。本命は地下にいるって話だったな。
「一人だけじゃないってのは?」
「なんだか不思議な感じなのよ。いくつものものが混じったような。おそらくだけれど、複数人で儀式を行っているのではないかしら?」
普通は一人で行うところを複数で協力して、か。まあそれなら単純な力の総量だけならどうにか用意することもできるだろう。
……ってか、地下って言うくらいなら苔とかもあるだろうし……ああ、いた。
たった今植物達に地下室で魔法を使ってる奴らを調べてもらったんだが、確かに人が集まってなんかやってるな。
「疑うわけじゃないんですが、その魔力の流れってのは確かなのですか?」
と俺は納得仕掛けたのだが、俺みたいに状況を確認することのできる能力を持っていない親父は母さんにそう問いかけた。
その問いも、まあ真っ当なものと言えば真っ当だ。この状況で判断をミスるわけにはいかないからな。
だが、俺はそんなことよりも親父の言葉遣いに驚いた。
確かに母さんは王妃だから一般人は丁寧に接するべきだってのはわかる。親父が元騎士で、この城に仕えていたり、その時に母さんに会ったことがあるってのも考えれば丁寧になる理由も間違いではない。
だがしかし、国王にすらまともな言葉遣いをしなかった親父がそんな理由で丁寧な対応をするもんか? しないだろ。
でも現実に親父はおかしな言葉遣いになっているわけで、態度だってどことなく行儀正いというかよそよそしい感じがほんのりと漂っている気がする。
「はい。私は《精霊視》って言うスキルがあるのですが、これは本来精霊を見るためのものなのだけれど、その副産物として魔力そのものを見ることができるのです。精霊は魔力の塊ですから」
「なるほど。では地下に行ってその儀式をしてる者らを倒せば、アレは止まるわけですか」
「……おそらく、半分は止まると思います」
「半分、ですか?」
なんて考えている間にも話は進んでいく。
親父の態度に疑問と若干の気持ち悪さを感じるが、話を聞かないでいるわけにもいかないので思考を切り替えて話に参加しよう。
「はい。あの巨人は確かになんらかの術の影響下にあるけれど、完全に死んでいると言うわけでもないようなのです。あの巨人自身の魔力が感じられるから間違いないでしょう」
死霊術の影響下にあるんだから死んでいるってことになるんだが、完全に死んでいるわけでもないとなると……
「半死半生、あるいは仮死状態って感じか」
つまりはそういうことだろう。
あるいは、あの巨人は元々死にかけの状態でいたのかもしれない。そこに死霊術と使役スキルの二種類をかけることで二体もの巨人を使役しすることができたんじゃないか、なんて考える。
仮死状態なんて半分死んでいる状態だったから死霊術で操ることができた。
仮死状態であっても死んでいなかったからスキルで使役することができた。
そんな二つの状態だったからこそ、巨人を操ることができたのかもしれない。
巨人を操る力の部分では死霊術師が担当し、実際に命令を下して動かすのは調教師が担当するとすれば、二体も巨人を動かせる理由は納得できる。
ただ……
「ただ、それだけでアレが巨人を操れたのかって疑問はなくもないな。使役系スキルと死霊術での二重での縛りは強いだろうが、それでも『最強種』だぞ?」
二重の縛りってのは確かに強力だろう。だが、それでも最強種を操ることができるもんだろうか?
前に戦ったドラゴンの時は、あいつらも最強種だったし、二体だったのも同じだ。
でも、あいつら自身に俺たちと戦う意思があったように思えた。何せ俺達と戦って自我があるかのように嗤ってたし。多分だが、使役ってよりも協力関係、とかの感じだったんじゃないだろうか? 使役系スキルでドラゴンと意思の疎通をし、言葉を交わして条件を取りつけた、とか。
「それは——くるぞっ!」
なんて話していたのだが、そうずっと話していられるわけでもないようで、巨人は腕を引き抜きだした。
だが、その動きを途中で止めたかと思ったら手のひらを俺たちに向けて広げ、こちらに掴みかかってきた。
親父の言葉で避けたが、つかままれればどうなるか、なんて考えるまでもなく確実に死ぬ。
「どうだ見たか! これこそが巨人が最強種たる所以だ! 巨人は魔物であるが、『人』であるが故に天職を得てスキルを使う! 純粋な能力ではドラゴンに劣るが、それを補ってあまりある力だ!」
確かに強力だけど、それに比例して攻撃の範囲もデカすぎるだろ。
城がぶっ壊れてるけど、それは良いんですかねえ!
城の中にはいろんな資料とかあるだろうし、壊しちゃまずいものだってあるだろう。だってのにあんなに豪快に壊して良いんだろうか? 多分俺たちを倒すのに夢中になってるとか、巨人の力を振るって威張りたいとか、そう言った感情が優先されているんだろうな。
まあ、俺が気にすることじゃないから良いけど。
そうして巨人からの攻撃を避けた俺たちだが、もうほとんど城なんて意味を成していない。
若干不安の残る足場を気にしながら着地した俺に、親父はなんでもないかのように先程の続きを話し始めた。
「さっきの答えだがな、あいつの言ったように、巨人は純粋な能力は最強種の中でも格が落ちるんだよ。ドラゴンは年齢で強さが決まるが、巨人はスキルで強さが決まる。どっちも生きた年数が強さに関係してくるんだが、その重要度は巨人の方が重い。何せドラゴンはただ基礎能力が強くなるだけだが、巨人はただ能力が強くなるんじゃなくて、新しい技を覚えるんだからな」
「そうだ! そしてそんな存在を自由に従えている我こそ、真なる王に相応しいのだ!」
……ああ、そういえばいたな。途中までは覚えてたはずなんだが、巨人のインパクトとそっちをどうするかについて考えていたせいであの新王が残ってることを忘れてた。
「ゆけ!」
新王の合図とともに再び巨人は手をこちらに向けて突き出してきたが、その攻撃はそれまでのものとは違ってただ乱雑に振り回しただけではなかった。多分だが、なんらかのスキルを使ったんじゃないだろうか?
親父はあたりまえのごとく避けていたが、俺はその攻撃をなんとか、割とギリギリのところで避けることができた。
流石にあのサイズでスキルを使われると距離感とか速度感覚とか狂って避けるタイミングがずれてしまう。
俺はなんとか避けられた攻撃だったが、まだ中位程どの位階しかないフィーリアじゃ危ないだろうと思ったが、それまでと同じで母さんとフィーリアは親父が抱き抱えながら避けていた。ほんと、助けてくれてありがたいな。
「城から脱出すんぞ!」
三度も行われた巨人の攻撃のせいで、城は崩れ始めていた。まだ持ち堪えられそうではあったが、そのまま城の中で戦っても俺たちの動きを制限することにしかならない。
俺が親父の言葉に頷いたことがわかったかどうかは知らないが、それでも俺たちは全員が無事に城から脱出することができた。
「さっさとアレを操ってる奴らを止めるぞ!」
「つっても、巨人だけじゃなくて術者も処理しねえとだぞ。どうする?」
「お兄さまと黒剣は残ってください! 私ではアレを止められませんし、お母様がいなければ敵の居場所がわかりません!」
確かに母さんは敵の居所がわかるっぽいから死霊術師の捜索に当てるとして、親父はどう考えても巨人の相手だろ。俺はどっちでも良いけど、フィーリアに巨人の相手をしろってのも無理だろうから、必然的に俺は巨人でフィーリアは捜索になる。
まあ、俺たち三人が捜索で親父一人が巨人相手でもなんとかなると思うけど、保険って意味でも俺もいたほうがいいだろう。万が一にでも抜かれて母さん達のところに攻撃が行くようなことがあったらまずいし。
「オッケー! っと、そう言うわけだから、親父と母さんもそんな感じで頼む!」
「ええ、わかったわ!」
「……おう」
一瞬だけ親父の反応が遅れたような気もするけど、まあ気のせいだろ。親父にとっちゃこんな状況であっても命の危険ってほどのことでもないだろうし。
そうして俺たちは別行動を取ることとなり、母さんとフィーリアは巨人を操っている死霊術師達の捜索と処理を、俺と親父は暴れている巨人達の対処をすることとなった。
……過保護かもしれないが、もし二人が大怪我を負ったりしたら知らせてもらうように〝みんな〟に頼んでおくか。
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