第251話ヴォルク到着
俺たちの街は今どっかのバカが率いている軍に襲われている。今更俺らに何かしてくるようなバカはいねえと思ってたんだが、どうやら今回のバカは想像以上のバカらしいな。
まあ、『俺たちの街』とはいったが、厳密には俺は関わってねえから俺たちの、とは言えねえんだけどな。
今襲われてるのは俺が拾った血の繋がってねえ息子の秘密基地だ。呼び方は……正式な名前がついてんのかは知らねえが、『花園』なんて名前で呼ばれてる場所。
あそこは金になるからな。新しくできてから一年も経ってねえってのに、もうすでにかなりの額の金を稼げてるって報告が上がってきていた。それを狙って近くのバカが手を打ってくるとは思っていたが、まさかだったな。
まあ、敵さんとしてもなんか色々と考えてたっぽいんだが、ちっとばかし俺たちのことを舐めてたみてえだな。たかが十万を超える程度の群を連れてきたところで、意味なんてあるわけがねえ。
もっとも、それが百万だったとしても結果は変わらなかっただろうがな。
向こうとしては戦争、或いは蹂躙に来たんだろうが、まあ見ての通り残念なことに思い通りにとはいかなかったな。
いや、ある意味では蹂躙は行なわれてんのか? する側じゃななくて、される側だけどな。
「あの調子なら問題ねえだろうな」
そんな一方的な戦いとも呼べない戦いの様子を、俺は花園を囲っている外壁の外、街から少し外れた場所で木に寄りかかりながら眺めていた。
なんでそんなところで見てんだって言われたら、任せるなんていった以上は信じて任せるべきだろ。
それじゃあ手を出さない理由にはなってもこんなところで見ていることの説明にならねえ気もするが、まあ、あれだ……任せたっつっても、やっぱ心配だろ。
もしもの場合にゃあちっとばかし手をかしてもいいんじゃねえかと思ってた。まあ、その心配っ必要なかったみてえだがな。
「にしても、あんだけの規模で地面ひっくり返したってだけでもすげえのに、人の体から植物生やすとか……だいぶやべえ感じに成長してんなあ」
第九位階に上がったとかいうバカみたいな報告は受けちゃいたが、その実力がどの程度なのかは知らなかった。
まあ第九なんてバカみたいな位階になってんだから実力もそれ相応にあるとは思っちゃいたが、それでも敵の軍を相手にすれば万が一が……なんて考えてた。
普通なら第九位階なんてもんがいれば軍が来ようが安心して見てられるもんだが、やっぱし俺も、心の中で『農家』っつー非戦闘職であることを下に見てたんだろうな。
あいつが母親を助けるためにドラゴンと戦っただとか、数万の軍を相手にしたとかって話は聞いちゃいたが、それは報告として知っただけだったってのを痛感した。
実際この目で見るまでは、あんなことができるとは信じきれなかった。
だが、もういいだろう。見るものは見れたどころか、予想以上のものが見れたんだ。これ以上は心配する必要もねえだろ。
それよりも、俺は俺で自分のやるべきことをやらねえとな。
一応カラカスの方はエディ達部下に任せてきちゃあいるが、アイザックの野郎が動くとなったら俺が相手をしないわけにはいかねえからな。
まったくめんどくさいことそしてくれるよな、あいつも。
西のボスであるアイザックは、今回の誘いに乗って俺のことを攻めてくる。
ヴェスナーには今戦っている敵に便乗してどこかの誰かが攻めてくるかもしれねえっていっておいたが、実際のところその時にはすでにアイザックが攻めて来ることはわかっていた。あいつ、バカだからな。隠してるつもりでも、隠しきれねえんだわ。
まあ、前々から俺のことが気に食わなかったみてえで目の敵にしてたからな。何かあれば事を起こすと思っちゃあいたし、むしろ今まで耐えたことの方が不思議なのかもな。
……でもまあ、ちょうどいいっていやあちょうどいい頃合いか。
「忙しくなんのかねえ……」
めんどくせえのは嫌いなんだが、まあ仕方ねえわな。
そうして一度だけ深呼吸をすると、カラカスに向けて走り出した。
ここからだと……五キロってところか。まあ何事もなけりゃあゆっくり走っても三分もありゃあ着くか。
アイザックのやつはもう動き出してるみてえだが……さて、あいつはどこまでやれてっかね?
しばらく走っていると街についたが、すでにそこかしこから悲鳴や怒声。なんかの壊れるような音が聞こえてきた。
こりゃあ調子に乗らないでスキルを使った方が良かったか? いやあ、でもなんか気分じゃなかったっつーか、使わなくても大丈夫なんだぜっつー余裕を見せたかった気がしたからな。仕方ない。
まあそんな余裕なんて誰に見せるんだって話なんだが、気分的なもんだ。
「クソがああっ! ちょろちょろ逃げやがってよお!」
街の中に入って適当にそれっぽい方向に進んでいくと、聞き覚えのある目標の人物の声が聞こえてきたので、そっちに向かうことにした。
一緒になんかをぶっ壊す音が聞こえるからまあ間違っちゃいねえだろ。
……にしても、もうちっとおとなしく暴れられねえのかねえ? 後の処理がめんどくせえことになるからやめてくれるとありがてえんだがな。いやその辺の処理をすんのは俺じゃねえんだけどな。
「いやあ、流石にボスの一人に数えられるようなのとまともに戦ったらこっちもキツいっすからね」
「そもそも俺らの目的はあんたの足止めだけなんで、まあ無理して倒す必要もねえんでさあ」
なんてこの騒ぎが終わった後の面倒なあれこれについて考えながら建物の上を走っていくと、どうやら目的地に着いたようで暴れているアイザックの姿が見えた。
それと同時に、暴れているアイザック——西のボスと戦っているエディとエミールの姿も見えた。
「ならてめえらを無視してさっさとヴォルクのやつの根城をぶっ壊してやるよ! そうすりゃあてめえらの足止めも意味ねえだろ!」
「んー、まあそうなんすけどね? 足止めできなけりゃあ困るのは俺たちなのは確かっすよ。でも、そんなことしていいんすか? その場合、うちの奴らがおたくの屋敷を壊しに行くっすよ」
「それに、俺らもそんな手ェ抜いて対処できるってえ思われんのも、心外ってもんですぜ」
まあこいつらならアイザック程度なら殺そうと思えば殺せるだろうな。
それならなんでまだ戦ってんだってことになるんだが、多分こいつらはこのバカの始末を俺に譲ろうとか考えてんな。ボスの相手はボスで、とかそんな感じだ。
正直俺としちゃあ誰が倒してもいいと思ってるし、わざわざ俺のやることが増えて面倒だとも思ってる。
だがまあ、せっかく順調に行ってたあいつの遊びにチャチャ入れたのはちっと気に食わねえところもあったってのは本当だ。
だからまあ、ちっとばかし俺が相手をしてやるとすっかね。
「おいおい、なんだよお前ら。まだ遊んでたのか?」
そう言ってからエディたちの後ろに降り立ち、二人に声をかける。
「あ、ボス。あっちはもう良いんすか?」
エディはとっくに俺のことなんて気付いていただろうが、それでもさも今気付きましたとばかりにこっちに振り返っていた。
アイザックのことなんてまるで眼中にない様子を見せてやがるが、まあ実際のところ本当に興味ねえんだろうな。ついでに言えば脅威も感じてねえ。
エミールは律儀に武器構えてアイザックを警戒しているが、力がこもってねえ。あくまでも警戒していますよっつーポーズだけのもんだ。
こいつら、仮にも西のボスを前にしてんのに、手ェ抜きすぎだろ。俺が守るとでも思ってんのかねえ。……まあ、攻撃してくるようなら迎撃はすっけどよ。
「ああ。あの調子なら死ぬことはねえだろ」
つい今しがた見てきた光景を思い出しながら俺がそう言うと、何を思ったのかこの二人は笑い始めやがった。
「ほんと過保護になりやしたね。かの『城斬り』が今や子供の安全のために行動するなんて」
「坊ちゃんのことっすから問題ないのなんて最初っからわかってたと思うんすけどね」
「うっせえ。てめえらも気になっちゃいただろうが」
確かに昔の俺からしてみりゃあ、拾ったガキのためにこんな手をかけるなんて信じられねえだろうよ。俺自身信じられねえんだからな。
だがそれは……あいつのことが心配で気になってたのは俺だけじゃなかったってのは、言われなくたって分かってた。
こいつらだってそれぞれ色々事情がある。過去になんかやらかしたり、落ちぶれなきゃならねえ理由があったり色々だ。
人生を生きるだけで手いっぱいだったこいつらだったが、だが今じゃあ他人のことを気にかけて心配してやがる。
「まあ、そっすね」
「でも、ボスほどじゃねえと思いやすぜ?」
まあ、最近は俺も自分でも過保護かも知んねえとは思ってる。
だけどなあ……分かっちゃいるんだが、いつになっても俺ん中ではあいつはガキのままなんだよな。
これが子供を持つ親の気持ちってもんなのかねえ?
「……っんで、てめえがここにいんだよっ!」
なんて、そんな事を話してるとエディ達の背後からアイザックの声が聞こえてきた。
だが、その声はなんだか震えてるような感じのもんに聞こえた。
「んお? ……っと、これがいたな。処理は俺がやるからお前らは他に回れ。今んところはジートが馬鹿どもの道を塞いでっから、それに合わせてまあ適当になんかやっとけ」
「っす。了解っす」
「それじゃあ俺たちはこれで。後は任せやした、隊長」
「おう」
俺がここにきた以上、こいつの相手をしていたエディ達がここに残る必要は無くなった。
別に残ったところで邪魔にはなんねえだろうが、ここに残しておいても役に立つわけでもねえから他のところに回すことにした。
その俺の指示を聞くとエディとエミールは特に文句を言うこともなくすぐさま動き出したんだが……隊長とか、随分と懐かしい呼び方をしやがるな。
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