第65話…新たなる恩恵

残ったアンデッドを一掃するのに時間はかからなかった。数が少ない上に敵意も無い、たださまよってるだけだからだ…


「アザミの気配も感じませんね。逃げ足は早いようです。それとも吸い込まれたか…」


「ルビィこの人どうするん?まだ口もきけないようやよ」


「階段から転げ落ちたから吸われずにすんだみたいね。気付け薬で口が利ける様に回復させますか…」



「あう…た…たす、、けて…お、ねが…い…」


「ビビってるね~」

「ビビってんね~」


「自分が有利な時には、人をさげすむ癖に、不利になったら途端に掌返しするわね、この手の人種は…」


「あっ、失禁しちゃったよ、この人…」


…まぁ、あんな目にあって、武器を持った美女が周りを囲んでいればビビるよね。うん、いくら美女とは言え…


「ドンノッサ族との奴隷契約はあなた1人の契約なの?」

…複数人契約する場合もあるからね…


「は…い」


「ならばその契約権わたしに譲渡しなさい」


「は…い」

…あらら、やけにアッサリね、まぁこの状況だとそれが1番賢明なんだけど…


「アグリメント!」

「うん、これで助けられる」


「ルビィ地下室が大きな瓦礫に埋もれています。お願いできますか」


「うん、今行く」


トッミーリ・ザゥツ・クッロ・岩よ極限まで粉砕せよザシュラック


「うわぁ凄い。あっという間に瓦礫が砂になった…ねぇルビィ、わたしが同じように唱えても何も起こらないよ」


「フフ、アルカ、発音が違うんですよ、発音が…」


「確かに、独特ですよね…」


「ほらシキちゃん、東北以外の人が東北弁使っても、地元の人からは何となく違うって感じるでしょ。あんな感じよ」


「あ~何となく分かります」


地下に閉じ込められていたドンノッサ族は約20人。かなり少ない民族だと思った。オネが飛びついてくる。とても嬉しそうだ、知らない人が見れば嬉しそうに見えないだろうけど…


ドンノッサ族にこれまでの経緯を話し、奴隷解放をする事を説明した。正確にはわたしが契約主となり、契約の縛りを無くすと言うものだ。

みんな喜んでいる。よかった…ホントに…


「アグリメント!」


契約が終わったその時だった…

辺りもやや薄暗くなってきた夕刻の空に光りが落ちてきたと表現するのが、ふさわしいのだろうか…


その存在を認識すると周りにいた全ての人がひざまづいた…

…シキちゃんは?あ、大丈夫だ、さすがシキちゃん空気読むのがうまい。ちゃんと跪いてる…


『ありがとうルビィ、シキ。あなた達にはいくら感謝しても足りないくらいです』


「ダミア様、恐れ多いお言葉です。ダミア様の頼み事であれば御子神四季、命を賭して尽くしましょう」


…オイオイ、ダミア様の顔が引きつってるぞ、わたしも見習わなきゃねぇ…


「ダミア様、わたしがやりたくてやったことです。気になさらないで下さい」


『フフ、相変わらずねルビィさん』


「ドンノッサ族はこれで全員なのでしょうか。少し少ない気がするのですが…」


『えぇ、これで全員です。本来は200人以上いたのですが、奴隷商が凄い魔法使いがいると言う事で戦争に貸し出していました。そして次々と戦死していったのです…』


「そうなんですね…」

…また奴隷商への怒りがみるみると湧いてきた。どうしようもない、あいつら…


『でもよかった。あなたのお陰で何とかこの世界を救う望みができました』


突然オネがわたしに抱きついてきた。ビックリ…


「一緒にいたい…」


たどたどしい言葉でそう伝えてきた…

そうか、楽しかったんだね。わたし達といた時間…よかったよ…


「ダミア様……」


『構いませんよ。その状態だと困るでしょうから、感情も元に戻しておきます』


…やはりあれは女神様のフィルターのようなものだったのか…

でも、やけにすんなりだったなぁ、上機嫌だからかな??


『それにお礼をしなくちゃね。新しい恩恵を授けます』


「あ、特にいいです…ホントにやりたくてやっただけだから、今のままで充分です。お気遣いありがとうございますダミア様」


『えっ…そう言わずに、もらって欲しいなぁ。そんな大層な恩恵じゃないですよ。ルビィの周りの植物が元気になる程度ですよ。欠点としては腕に恩恵の証のタトゥが入るくらいでしょうか…』


「えっ?タトゥですか…エッエッどうしようかなぁ…」


「先輩タトゥ好きでしたもんね。タトゥシール張ったりしてましたよね」…クスクス…


「それに周りの植物が元気になるのなら、受けようかなぁ…」


『えぇ!植物の葉をかたどった綺麗なタトゥですよ!是非!』


「はい、ではダミア様、謹んで恩恵受け取らせて頂きます」


『やった~では、すぐにでも授けますよ!』


…うっなんかハイテンションですねダミア様…

ダミア様の体が発光し、次にわたしの体も発光した。そして体の発光が右腕に収束してゆく。暖かい。心地よい暖かさだ…


わたしの右腕に刻まれたタトゥは植物の茎と葉を模したシンプルな紋様で、肩から手の甲まで達し、濃い緑色で薄く発光していた。


「凄い!これカッコイイ!ありがとうございますダミア様」


顔がにやける…


『う、うん。気に入ってもらえて良かったわ…』


そう言い残し、ドンノッサ族に啓示を与え、去って行った…


ドンノッサ族はわたし達にお礼を言いオネを残し足早に去って行った。そのままでは旅も大変だろうとわたし達の馬車を上げた。数週間分の食料も詰んでいたし、困らないだろう…


ただ、この1件でおかしな事が起こった…


「ミリー、アルカどうしたの?もう女神様は戻られたよ」


ミリーとアルカが跪いたままだ。しかもわたしに向かって跪いてる…

アルカに至っては涙目なんだけど…何なんだろう?


「おいおい、どうしちゃったんだミリー、なんかいつもと違うな」


「ちょっとあんた達、頭が高いわよ!跪きなさい。豊穣の聖女ルビィ様の御前よ」


「アルカどうしたの?少し意味が分からないから説明して」


「はい、ボクは昔からおとぎ話を聞くのが大好きでした。母ちゃんがよく読んでくれたんです。色んなおとぎ話を聞きました。そしてその中にいつも出てくる人がいるんです。それが豊穣の聖女と呼ばれる方でした。

 豊穣の聖女は腕に植物のタトゥがあり全世界を旅して全ての人達を飢えから救ったんです。そしてその豊穣の聖女様がいまボクの目の前にいる、涙が止まらないの」

 

「えっ?そうなの」


「かなり史実に基づいたおとぎ話です。我がスノーフレーク家の先祖は豊穣の聖女様を護衛するのが役目でした。我がスノーフレーク家の家訓があります。それは豊穣の聖女様を命をかけてお守りせよと。その為のスノーフレークの力、恩恵だと。子供の時からずっと聞かされていました。震えが止まりません」


「えっ…えぇぇぇ」


「先輩、はめられましたね…ポンコツだと思ってたけど、中々の策士みたいです」


「そっそんなぁ…」


とりあえずミリーとアルカには今まで通り接してと伝えたけど、かなり距離感ができた。時間をかけて解消せねば…


うぅ…もう面倒事はないよねぇ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る