第2話


「トーストで良いよね…?」


 


「あ、はい」


 


気まずい…そう思いながら食パンを袋から取り出しオーブントースターに入れ焼き始める。私も彼女も何もしゃべることなくただトースターのタイマーカウントの音のみが流れ、居心地の悪い静けさだ。彼女も同じ気持ちなのかうつむいたまま気まずそうな表情が窺える。


 


「コーンスープも飲みますか?」


 


「あ、じゃあお願いします」


 


私はその場から逃げるかのように作業に取り掛かる。といっても電気ケトルに水を入れお湯を沸かし、マグカップにインスタントの粉末スープを入れるだけだが。しかし、一時でもこの気まずさから逃れられるのならそれでいい、この作業が終わった後のことなど知るか、数分後の自分に託すしかない。未来の自分よ頑張って。そう思いながらマグカップを置き、粉末スープを探す。えぇと、どこに置いていたっけ?周りを見渡している私の姿を見て


 


「レンジの上に置きませんでしたか、たしか?」


 


彼女がそう言った。言われたとおりにレンジの上を探すと確かにそこにあった。恐らく本当に彼女は自分なのだろう。自分しか知らないことも知っているし、家の中に何があるのかも把握している。質問すればするほど彼女からは自分しか知り得ないことが出てきそうで少し怖い。否定する材料なんてものは彼女が美少女で自分は男ということと、普通自分というのは一人しかいないという常識だけしかないのかもしれない。そんなことを考えつつ粉末スープの封を開け粉末をカップの中に入れる。お湯もそろそろ沸きそうだ。少しして沸いたお湯をカップにそそぐ。二つ分のマグカップを持ちテーブルに置いた。再び気まずさが戻ってきた。過去の自分よこうなることはわかっていただろう、なにか対策ぐらい考えろよ。過去の自分の考えも棚に上げ自分へと悪態をついているなか、チーンという音が鳴った。トーストが焼けたようだ。


 


「あ、私がやりますよ」


 


そう言って、彼女はオーブントースターからトーストを取り出した。お皿を使わずに手でトーストを持ちながら二つあるうちの片方を私に渡した。皿を使わないずぼらさが自分らしく、それがさらに彼女の言っていることが本当なのだろうと私に思わせた。トーストを受け取り私たちは無言で食べだした。黙々と食べているが先に食べ終わったのは私だった。使ったマグカップを台所にもっていく。私が戻っても彼女は食べ終わっていなかった。しかし、美少女というのは食べるのがトーストでもえになるものだなぁ、なんて考えていると彼女も食べ終わったようで、私と同じくカップを台所にもっていき戻ってきた。また、静けさが戻ってくる。


 


「今後、どうしますか…?」


 


静けさを破ったのは不安そうな彼女の一言だった。それもそうだ、彼女は戸籍もなければ住む場所もない。今ここでこの家から放り出されればホームレス一直線だ。


 


「とりあえず、ここに住みますか?」


 


「いいんですか…?」


 


良いも悪いも住まなきゃ今日からホームレスになるような人間を放っておけるほど私は畜生ではない。それが自分ならなおさらだ。その旨を彼女に伝えると、よほど不安だったのだろうかほっと溜息をついた。


 


「敬語もやめよう、自分に敬語使うのも変でしょ」


 


「…わかった。でも、良く信じるね?疑ってないの?」


 


「正直、半信半疑ではあるけど多分本当なんだろうなって感じ」


 


「そっか、ありがとう」


 


そう言って安堵の表情で微笑む彼女はかわいかった。これが自分ってまじ?惚れそう…惚れないけど。惚れてたまるか、私はそんな簡単な人間じゃない…はず…。けれど美少女の微笑みにドキッとするのは一般成人男性として仕方ないことですよね、そうです。そんな自分への言い訳が表情に出てしまったのか、彼女が少し引いたような表情で


 


「っえ、なに、きもちわるっ」


 


と言った。美少女からの罵倒は我々の業界ではご褒美です。そんな戯言も言えないほどには傷ついた。シンプルな罵倒ほど傷つくんですね初めて知りました。心がいたい…。


 


「ふふっ、ごめんて、冗談だから」


 


そう言って笑う彼女はかわいかった。やはり美少女は人生得なんだな、なんてそう思ってしまう。少し笑うだけで非常に絵になるし、ずっと見ていたくなる。かわいいは正義、この言葉の意味が本当の意味で分かった気がする。我々はこの正義には屈するしかないのだ、むしろ屈したい。

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