第73話 特訓

 ネネコが『赤い三連星』のリーダーであるモヒカンとの模擬試合に勝利した。


「勝った! 勝ちましたよ、ご主人様!」


 彼女が喜びの感情を隠すことなく俺に報告してくる。


「ああ、ちゃんと見てたぞ」


「えへへ……。ありがとうございます!」


 ネネコは褒められて嬉しいのか、頬を緩ませる。

 猫獣人である彼女の尻尾は、大きく左右に揺れていた。


「リーダーがあんな子どもに負けるなんて……」


「だが、あの動きは本物だ。……本当に何者なんだ、あの子は」


 赤い三連星のスキンヘッドとデブが悔しそうに言う。


「ネネコ、お前はもう基礎を習得した。冒険者ギルドに登録して、本格的に活動を始めてもいい頃合いだろう」


 俺はネネコに今後のことを話す。


「はい! 頑張ります!」


 ネネコが元気よくそう返事をする。

 Cランク冒険者を破ったのだ。

 単純に考えて、近い内にCランクまで上がることができるだろう。

 まあ、冒険者には知識や経験、それに信頼といった要素も要求されるので、すぐさま飛び級で上がるわけではないが。

 俺もCランクになったのは先日のゴブリンキング討伐後だ。


「ネネコには期待しているぞ。……それに対して、お前らはどうだ?」


 『赤い三連星』の3人の方を向き、問いかける。


「俺の見立て通り、ネネコはお前たちよりも強かったな」


「くっ……。それは……」


 モヒカンが言い淀む。


「別に文句を言うつもりはない。ただ、このままだとランクでもネネコに追い抜かれるのは時間の問題だと思うがな」


「うっ……!」


 スキンヘッドが顔をしかめる。


「だからと言って、俺たちが急に強くなることなんてできないだろ。あの女の子は才能があっただけだ」


 デブが諦めるように言った。


「ほう。お前たちも、強くなれるのであればなりたいと思っているんだな」


「そりゃそうだろ」


「まあ、冒険者として強くなるに越したことはないからな」


「俺たちもかつてはAランクを目指してたもんだよ」


 3人が遠い目をする。


「ふふふ。言ったな」


 言質を取った。

 今までも、時おりこいつらを鍛えてやってはいた。

 だが、もちろん多少の手心を加えていた。

 無茶をさせ過ぎれば、心が折れて鍛えること自体をやめてしまうからな。

 しかし、これからは違う。

 自分からこう言ったからには、覚悟があるのだろう。

 もっと本格的な指導をしてやる。


「よし。それじゃあ手始めに、腕立て伏せ1000回、腹筋1000回だ!!」


「は?」


「そんなの無理に決まってるだろ!」


「ふざけんな、死ぬわ」


 3人が即座に拒否反応を示す。


「強くなりたいと言ったじゃないか。男が一度言ったことを撤回するな!!」


「なっ!」


「あれは話の流れで……」


「そこまでするとは言ってねえ!」


 3人がなおもグチグチと言っている。

 素直じゃない奴らめ。

 こうなれば、実力行使だ。

 無理やりでも始めさせれば、いずれ素直になっていくだろう。


「はっはぁ! 安心しろ! いつか俺のライバルになれるよう、徹底的に鍛え上げてやる! お前たち、今日は歩いて帰れると思うなよ!!!」


「「「ぎ……。ぎゃああああぁーーー!!!」」」


 俺の圧を受け、3人が悲鳴を上げながら腕立て伏せを開始する。

 もちろん、それを黙って見ているだけの俺ではない。


「ふんっ! ふんっ!!」


 俺も隣で腕立て伏せを始める。


「アタシもやります!」


 ネネコもそれに続いて腕立て伏せを始めた。

 こうして、俺たち5人による特訓が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る