第38話 串焼きをごちそうする

 孤児の少女レオナと数人の年少の男の子たちを連れて歩み始める。


「よう。エミリー。待たせたな」


「いえ。無事に用件はお済みになられましたか?」


「いや、それがな。こいつらが、何やら人目がつかないところでというもんでな。移動しようと思ったのだが、エミリーを置いていくわけにもいかんからな」


「? そうでしたか。では、よろしければいい場所を案内しましょう」


 エミリーがそう言う。

 やや怪訝な顔をしている。

 彼女からしても、串焼きを食べるのに人目のつかない場所に移動する必要性が理解できないのだろう。

 このあたり一帯の風習というわけでもなさそうだ。


「ひっ! 他の女性も交えて……? 私、どうなっちゃうの……?」


 レオナがそうつぶやく。

 どうなるも何も、串焼きをたらふく食べてお腹いっぱいになってもらうだけだが。

 まあ、その後元気になれば鍛錬もしてもらうことになるだろうが。


「こっちです」


 エミリーの先導のもと、歩みを進めていく。

 レオナは何やら悲壮な顔をしている。


 おかしいな?

 厳しい鍛錬が待っていることは、まだ伝えていないのに。

 今のところ彼女を待ち構えている運命は、うまい串焼きをたらふく食べるというものだ。

 そんなに悲しい顔をするものでもない。


「着きました。ここならどうでしょう?」


「ふむ……。いい広場だな。人も多くないし、ここならのんびりできそうだ」


 街中にこんな広場があるとは。

 広さは、200メートル四方ぐらいだろう。

 木や草も生えている一方で、適度に道も整備されている。

 日本で言えば、中規模の緑地や公園といったところだ。


「よし。では、さっそく……」


 俺はレオナたちに向き直る。


「こ、ここでですか? 人がチラホラといますが……」


「うん? まだダメなのか? 確かに少し離れたところに数人程度はいるが」


 別に彼らはこちらに注目しているわけではない。

 レオナたちにどのような宗教的風習があるのか知らないが、これぐらい気にすることでもないと思うのだが。


「……わかりました。覚悟を決めます」


 レオナが悲壮な顔をしてーー。

 シュルリ。

 服を脱ぎ始めた。


「お、おいおい。なぜ服を脱ぐ?」


 食事時に服を脱ぐ風習があるのか?

 それならば確かに、人目を気にしていたことも納得できる。


「なぜって……。服を着たままではできませんよね?」


「ん?」


「えっ?」


 俺は首を傾げ、レオナもつられて首を傾げる。


「エミリー。この街には、服を脱いで食事をする風習があるのか?」


「いえ、そんな話は聞いたことがありませんが……」


 エミリーがそう答える。


「えっ? ……あ、あの……。私たちを見逃してもらう代わりに、肉体的な奉仕をするという話では?」


 レオナがそう言う。


「えっ?」


「えっ?」


 俺とエミリーは、レオナの発言を受けて混乱する。


「えっ?」


 そんな俺たちを見て、レオナも混乱している。


「何か勘違いしているようだな。俺は、この串焼きをお前たちに恵んでやろうと思っただけだぞ」


 俺はそう言って、串焼きの入った袋を掲げる。


「そ、そうでしたか。その袋の中身は串焼きで、それをいただけると……。私の早とちりでした」


 レオナがそう言う。


「しかし、なぜ? 私たちには、返せるものなどありませんよ。それこそ、私の肉体的な奉仕ぐらいしか……」


 レオナがそう言って、服をはだけさせる。


「それはもういい。俺は子どもを抱く趣味はない」


 レオナの顔立ちは整っている。

 しかし、体は成熟していない。

 おそらく、12歳かそこらだろう。

 俺のビッグマグナムを相手にムリをすれば、壊れてしまうかもしれない。


「そ、そうですか。では、何をすれば……?」


「特に気にせず、食えばいい。時期が来れば、やってほしいことを伝えよう」


 やってほしいことは、体を鍛えて格闘の鍛錬をすることだ。

 しかし、まだ時期尚早か。


 レオナたちは痩せぎすだ。

 今この場で串焼きを食べたところで、即座に体が元気になるわけではない。

 最低でも数日程度は様子を見ないとな。

 万全を期すならば、1か月以上はほしい。


 また、俺は俺でやることがある。

 まずは、冒険者として具体的な活動を始めるつもりだ。

 俺がこの街に来てからやったことと言えば、冒険者登録をして三馬鹿をぶちのめしたぐらいだからな。


「はぐはぐ! これうめえ!」


「生きててよかった……!」


 孤児たちが串焼きをおいしそうに食べている。


「レオナお姉ちゃんも食ってみろよ!」


「……うん。うん。おいしいねえ」


 レオナも涙ながらに食べている。

 相当に苦労していたようだな。


 俺が彼女たちに串焼きを恵んだのは、彼女たちが少し離れたところから物欲しそうに見ていたからだ。

 彼女たちは今までにも、何度か食べ物にありつけたことはあったはず。

 しかし、せいぜい食べ残し程度だったのだろう。

 今回のように丸々食べられたのは、初めての経験なのかもしれない。

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