第26話 フィーナの村からの旅立ち
チュンチュン。
朝になった。
俺はさわやかに目覚める。
今日は朝から街に向けて出発する予定だ。
隣では、フィーナがまだ眠っている。
「はひぃ……。結局、一度も勝てませんでしたぁ……」
フィーナが寝ぼけ眼のままでそう言う。
結局、俺と彼女との夜の戦いは、俺の全勝に終わった。
男として、最後にいいところを見せられただろうか。
そんなことを考えつつ、俺は朝の身支度を進めていく。
「じゃあな。フィーナ」
俺は眠っている彼女にキスをする。
そして、部屋を後にした。
フィーナとの別れは、先ほどのもので終わりにしよう。
湿っぽいのは苦手なんだ。
村の出口に向かうと、もう人が集まっていた。
街まで同行するのは、行商一家の3人、俺、村長、若者数人、そして生け捕りにした盗賊たちだ。
俺は軽く手を挙げ、彼らにあいさつする。
「おう。待たせたな」
「いえいえ。とんでもございません。リキヤ殿を待たせては申し訳ないので、早めに待機しておりましただけでございます」
村長がそう言う。
彼は、俺に対して低姿勢だ。
ビッグボアを討伐し、ブラック盗賊団を壊滅させ、ミドルボアの肉を大量に提供し、村の周りに堀と塀をつくったわけだからな。
ちょっとした英雄ぐらいに思ってくれているのかもしれない。
村に残る者たちに別れを告げ、俺たちは出発する。
馬車2台を使っての移動だ。
1台目には、俺と行商一家の3人が1人乗る。
2台目には、村長と残りの若者が乗る。
盗賊たちは、徒歩だ。
抵抗したり逃げ出したりできないように両手をがんじがらめにした上で、2台目の馬車にロープを繋いでいる。
歩みを止めれば、引きずられながら移動することになる。
あまりに抵抗がひどいようであれば、俺が鉄拳制裁してやってもいい。
馬車で移動しながら、行商一家の父親が口を開く。
「リキヤ殿のおかげで、俺たちはまた生きていける。改めて礼を言わせてもらう。ありがとう」
彼がそう言って、頭を下げる。
彼は、盗賊たちによってボコボコにされてしまっていた。
村の薬草を供与されたことで、今では無事に回復している。
「私たちも感謝しています……。ありがとうございます……」
「……ありがとうございます……」
行商一家の母親と娘エミリーが頭を下げる。
彼女たちは元気がない。
盗賊たちにずいぶんと犯されてしまったようだからな。
心の傷は、簡単には癒やされないのだろう。
「ところで、街に着いたら、また行商人として活動するための準備をするのか?」
「いや……。妻と娘がこうなってしまっては、行商を続けるのは難しい。正直、俺自身も恐怖感は残っている。何とか、街で働ける場所がないか探してみるつもりだ」
エミリーの父がそう答える。
確かに、彼にしても妻と娘が目の前でレイプされ、自身はボコボコにされたわけだからな。
トラウマになってもおかしくない。
むしろ、今こうやって普通に人と話せるだけでも大した精神力だ。
「なるほどな。俺にできることがあれば何でも言ってくれ。あの盗賊どもを奴隷として売り払えば、それなりの金になるそうだしな。村長には村の復興支援金としていくばくか渡すつもりだが、そちらにもいくばくか渡させてもらおう」
「そ、そんな、とてもいただけません。助けていただいただけでもありがたいのに。むしろ、こちらから払わなくてはならないぐらいです」
エミリーの父が恐縮した様子でそう言う。
「気にするな。具体的に盗賊どもを売り払った金がどれぐらいになるかは知らないが、その中から俺にとってムリのない範囲で渡すだけだ」
奴隷の相場はどれくらいなのだろうか。
働き盛りの男とはいえ、盗賊になるようなやつらだ。
まともな技能など持っていないだろう。
簡単な力仕事を任せられる程度か。
犯罪者なので、反逆などにも警戒する必要がある。
そう考えると、あまり高値では売れそうにない。
人数は10人以上いるので、合計すればそこそこの金額になることを期待しよう。
そういえば、逆に俺が奴隷を買うこともありなのか。
身の回りの世話をしてくれる奴隷を買えば、日々の生活の質が向上するだろう。
現代日本で生まれ育った俺は、もちろん奴隷制度に親しみはない。
しかし、世界各地で武者修行をしていた経験上、多少の免疫のようなものはある。
実質的に奴隷制度のような体制がある国や地域は、現代の地球にいくらでもあったからな。
虐げられたり搾取されたりする奴隷を見て楽しむ趣味は俺にはない。
しかし、反奴隷制度を掲げて大掛かりな運動をするほどの確固たる信念があるわけでもない。
軽く様子を見てみて、予算が合えば購入してみてもいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます