第3話 フィーナの村へ

 賊どもに襲われている女性を助けた。

 女性は熱い目でこちらを見ている。


「大事ないか? お嬢さん」

「あ、ありがとうございます。助かりました」


 女性がそうお礼を言う。

 彼女が立ち上がろうとする。

 しかしーー。


「あ、あれ?」


 うまく立ち上がれないようだ。


「ふむ。腰が抜けたか。まああんなことがあったのだ。仕方あるまい」

「す、すみません。がんばって立ち上がりますので」


 女性がそう言って必死に立ち上がろうとしているが、なかなかうまくいかない。


 とりあえず、俺はその間に賊どもを手近にあったツルで縛り上げておくことにしよう。

 賊どもは気絶しているので、なすがままだ。

 両手両足をグルグル巻きにしていく。


 賊どもの処理を終えた。

 そして女性の様子を再び確認する。

 まだ立ち上がれていないようだ。


「どれ。ムリをする必要はない。俺に任せろ」


 俺はそう言って、女性を抱きかかえる。

 いわゆるお姫様抱っこというやつだ。


「きゃっ。あ、あの……、重くないですか?」

「ん? 重くなどないぞ。むしろ、軽すぎるくらいだな」


 俺は普段のトレーニングで、もっと重いものを持ったまま走ったりしていたしな。


「さあ。君の家まで送り届けよう。またああいう輩が出るかもしれないからな」

「ありがとうございます。私の家は、近くの村にあります。そっちの方向です」


 女性がそう言って、指差す。

 俺はその方向に向けて歩き出す。


 賊どもは、引きずりつつ連れていくことにする。

 普通の人であれば、複数の大人を引きずって移動することは難しいかもしれない。

 しかしもちろん、俺にとっては朝飯前である。

 トレーニングとして、トラックを引っ張って走ったこともあるしな。


 ずるずる。

 ガコン。

 ドカン。


 賊どもは引きずられながら、岩や木に体のあちこちをぶつけている。

 俺の位置取り次第では、もちろんもっと避けることもできるが。

 賊ども相手にそこまで気を遣うのもバカらしい。

 体が擦れて傷だらけになったとしても、自業自得だ。

 


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 女性の村に向かって歩みを進めていく。

 歩きながら、少し話をした。


 この女性の名前はフィーナというそうだ。

 薬草を求めて森を歩いていたところ、うっかり村から離れすぎてしまった。

 そして、この賊どもに遭遇してしまったとのことだ。


 しかし、現代日本にこんな田舎かつ治安の悪い場所があったか?

 薬草というのも今の時代に不合理だ。

 薬局や病院を利用したほうが確実である。


 そんなことを考えながら歩いていく。


 俺の記憶は、トラックと激突したときが最後だ。

 それ以降の記憶はない。


 知らない間に、日本以外の辺境の土地に移送でもされてしまったのだろうか?

 しかし、それだと日本語が通じている説明がつかないな……。


「あ。リキヤさん。村が見えてきましたよ」


 フィーナがそう言う。

 山間部にある、小規模な村のようだ。

 人口は100人もいないだろう。


 フィーナも落ち着きを取り戻している。

 ここからは、お姫様抱っこはやめて自分で歩いてもらうことにする。


「フィーナ! いったいどこに行っていたんだ! 心配したんだぞ!」


 1人の男性がフィーナに対してそう言う。


「ご、ごめんなさい。お父さん。お母さんの薬草を採りに行っていたの」


 道中で聞いた話だが、フィーナの母親は病気に苦しんでいるそうだ。


「薬草は父さんに任せろと言ったじゃないか。まあいい。フィーナが無事で何よりだ。もうムリはするなよ」

「う、うん。わかったよ」


 フィーナが歯切れ悪くそう言う。

 これは、放っておくとまた同じことをしそうだな。


 乗りかかった船だ。

 俺にできることはないか、聞いてみることにしよう。


 だがその前に、引きずって連れてきたこの賊どもの処分をどうするか聞いておかないとな。

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