第20話 神様だから油断しちゃう

「なんていうか………………見事にはまってくれたわねアイツ…………」






 シンカリアの用意した罠が発動すれば、もう一瞬だった。




 そう、ゼスターは世界移動魔法リリルージヨンによって、エルナブリア王国にも神世界メルガリアにも関与できない地球の日本へと戻ってしまったのである。送られてしまったのだ。






 「これは…………もしや終わりましたか? これで終わってしまいましたか? あっけなく事態終了ですか?」






 あまりにも綺麗に決まった(フィニツシユ)ため、レスクラは一応だが警戒している。






 「終わったわね…………煙幕魔法バグジグがまずまずでよかったわ。本来ならこれより二倍は煙幕が濃くて効果時間ももっと長いはずなんだけどね………………やっぱこういう魔法は苦手だわ」






 煙幕魔法バグジグの効果時間が切れ、周囲を包んでいた煙幕が晴れていく。すると、玉座が白い光の柱で完全に包まれているのが確認できた。




 さっきまでは煙幕魔法バグジグのため何も見えなかったが、今ははっきりと世界移動魔法リリルージヨンが見えている。






 「こんな見事に決まるとはね…………ホントに何の注意もしてなかったなんて…………強すぎるってのも考えモノだわ………………」






 「シンカリアが地球への世界移動魔法リリルージヨンを使える事はステータスオープンでわかっていなかったのでしょうか? 重要な情報ですから、読み飛ばしたとは考えにくいですし。それとも、私達が本気で倒そうとしていたと思っていたのでしょうか?」






 「さあね。まあ、ただ余裕が油断になってただけだと思うけど。転生者ってそんなヤツばっかりだし……………………ていうか、転生者ってホント注意とか用心が足りなさすぎない? 相手のやる事する事為す事、全部効かない~通じない~意味ない~とかばっかな異世界ライフ送ってるせいで、用心とか警戒とかしないというか、そういうフリしてるだけになってるじゃないの……………………まあ、油断して勝つってやり方にカタルシス感じてそうなヤツらなんだけどさ…………」






 シンカリアの作戦は単純だった。






 ゼスターはこちらのあらゆる攻撃を無効化する。状態異常も同じくであり、負荷を与える行動も全て無意味だ。転生者的に言うなら、ステータスはカンストしており、あらゆる事に対して無効化を持っている状態というヤツである。




 だからシンカリアはそれらの事に抵触しない方法――――――――世界移動魔法リリルージヨンをゼスターの足下へ落とし穴のように展開させ、そのまま転送させればいいと思ったのである。




 そう、シンカリアの作戦はただそれだけだ。




 シンカリアの世界移動魔法リリルージヨンは、エルナブリア王国と異世界である地球を繋ぐだけの魔法である。この魔法自体には相手を強制させる力も効果も無い。ただ、展開する場所を自由に設定でき、今回はその場所がゼスターの座る玉座だったというだけである。




 シンカリアはレスクラのように一瞬で世界移動魔法リリルージヨンを展開できない。なので、そのまま展開すればゼスターにモロバレだったが、そこは煙幕魔法バグジグでわからないようにする事ができた。さらに、悟られないように煙幕魔法バグジグを不意打ちするため&注意を引くためにも使ったが、これもうまい陽動になった。




 ゼスターが少しでも煙幕魔法バグジグなり攻撃をしかける二人に疑問を持てばこうはならなかったのだが――――――――――――――油断する事がカッコイイと思っている(高確率)ゼスターだからうまくいったのだろう。普通ならこんなにも作戦通りにいかなかったはずだ。




 いつも相手が勝手にビビってたり、勝手に仕掛けてきてやられたり、勝手にヨイショしてきたり、勝手に自滅してくれたり――――――――――――――こういった都合の良い経験の積み重ねは、ゼスターから負けるというストレスを消し去った。




 敗北というあり得ない結果ストレスを考えられなかったため、敗北したのだった。






 「ステータスカンストとかあらゆる無効化持ちとかさ………………誰だろうと超有利に戦えちゃうから足下救われるのよ………………まあ、そもそも周囲は転生影響無能病フラジャイルになってるから、敵対者がいても都合の良い攻撃しかしてこないか………………私達みたいなのってまずいないし」






 しばらくして光の柱は消えた。世界移動魔法リリルージヨンの効果は消え、そこには誰も座っていない玉座がだけが残っている。






 「あの…………終わったんでしょうか?」






 扉向こうに避難していたリィンリンが、ヒョコヒョコ歩きながらシンカリアの元へやってくる。






 「あっけなく終わったわよ。あっけなさすぎてホントに終わったのかって聞きたいけど」






 「………………そうですか。では、マサノブさんは地球に?」






 「地球の日本ってとこに行ったはずよ。クリハラのヤツとあったら、同じ異世界に行った者同士で仲良くできるかもね。まあ、広い世界だろうから出会う確率は低いでしょうけど」






 「無事…………ですよね? 特に心配する必要は無い…………ですよね?」






 「アンタ、ゼスターに酷い事されてただろうに心配するのね。もしかして調教されてたってヤツなの? なんか掛け合いもテンポよかったし」






 シンカリアはリィンリンにMな気質があるんじゃないかと疑いはじめる。






 「そ、そんなのありませんよッ! マサノブさんにいやらしい事なんかされてませんッ! マサノブさんは童貞なんです! だからそんな知識あるわけないし、あるわけないから私を調教する事も不可能ですッ! ありえませんッ! マサノブさんは童貞だから私を調教できませんッ!」






 「…………なんか力説する所があってるようであってなくない?」






 真顔で力説するリィンリンを見ていると、何故かシンカリアは悲しい気分になる。






 「シンカリア。聞きたい事があるのですが」






 「ん? なに?」






 聖剣をネックレスに変化させ、レスクラもシンカリアの元へやってくる。






 「シンカリアはサトリマックスを見て何か閃いてましたよね? それはこの作戦の事だったのですか?」






 「そうよ。あの時思いついたわ。かなりバカバカしいし、正直ひっかかってくれるのかかなり心配だったけど。うまくいってよかったわ」






 「では、別にサトリマックスが作戦のキーになってるとか、サトリマックスが中心にならないと作戦が成立しないとか、サトリマックスが最後に決めてくれるとか、そういうのは全く無しだったと?」






 「そりゃもちろん」






 「なるほど。閃きとは何がきっかけになるかわからないモノと理解しました」






 「レスクラちゃん…………いや、別に間違ってないんだけど、何か間違っているようなないような…………」






 そんな他愛も無い会話を三人は続けていたが「あ、そうそう」とシンカリアが一時中断させる。






 「そろそろ力が戻ったんじゃない?」






 「え? 私ですか?」






 「神の力を使ってた――――――――いや、乗っ取ってたゼスターがいなくなったから、もう主導権が戻ったと思うんだけど」






 「――――――――あ、本当です! 力が戻ってます!」






 リィンリンの羽と天輪が淡い輝きを放っていた。そのせいで無機質ではなくなり、何処か生命が宿ったように見える。






 「やっぱそうよね。ゼスターがアンタを牢屋に閉じ込めてたのが凄く怪しかったのよ」






 自分の考えは的中していたと、シンカリアは続ける。






 「ゼスターが神の力を奪ったっていうなら、アンタはもう用無しで生かす意味が無いし、力が無いなりに反逆しようと足掻かれたら迷惑だしね。生かしてるって事は、リィンリンが力の源になっているから殺せないか、もしくはリィンリンが一定の範囲にいないと力が使えないって思ったのよ。だから、世界移動魔法リリルージヨンでアイツを地球に転送する作戦はこういう意味でもよかったわ」


 「さすがシンカリアです。まるで転生者のような名推理と名作戦。あと、転生者がされてるように持ち上げとくべきでしょうか?」






 「そういうのやめて。キモいから。宗教とか謎団体とか、そういう類いにしか見えないから」






 シンカリアは何か思い出したように断った。






 「ま、これでアイツはふざけた力チートだけになったわ。これなら、仮にエルナブリアへ戻ってきても選定零組ティーレアンでどうにかできるし、もう今までの真似はできないでしょ。アンタはまた力を取られないようにしてよね。もう、神の力とふざけた力チートの両方を持ってるヤツを相手になんかしたくないからさ」






 「ありがとうございます…………ホントになんと言ったらいいか…………」






 「私はエルナブリアの為に行動してるだけ。だから気にする必要なんて無いわよ。自分のいる世界以外はどうでもいいって考えてるヤツだし、どうにかしなきゃって程の正義感も慈悲も無いんだからさ」






 「ううう………………じんがりあざん…………」






 「ああっと! 鼻水塗れの顔になって抱きつくの禁止だからね!」






 シンカリアが何と言おうとリィンリンを救った事実は変わらない。




 リィンリンは自分がしてしまった過ちを、代わりに清算してくれたシンカリアに多大な感謝をせずにはいられなかった。






 「…………神に売れる恩ってのもあるのね」






 イールフォルト魔法学院の修学旅行は、転生者や転生者が関係する事件を解決しなければならない旅だ。




 なので、道中で色々な事があるのだろうとシンカリアは思っていたが――――――――まさか神と出会って恩まで売れるとは思わなかった。一日目でここまでの出来事イベントが起こるとは全く思っていなかった。




 シンカリアはリィンリンの問題を解決できた事に安堵しつつ、これからも選定零組ティーレアンとして転生者関係の事件に首を突っ込まなければならないとため息をついた。






 「シンカリア……………………神殿が揺れていませんか?」






 ふと、レスクラがそんな事を呟く。




 最初は微細な振動だった。だが、レスクラの一言が合図になったかのように、アルドゥーク神殿全体の揺れが次第に大きくなっていく。何か起こったとしか思えない揺れだ。






 「あわわわわわわ! な、何が起こってるんですかッ!?」






 「突然すぎておかしいですね。こんなの誰かの罠だとか策略だとかじゃないとあり得ません。いや、考えすぎですかね?」






 「絶対にズバリ考えすぎじゃないに決まってるよレスクラちゃん! 神世界メルガリアで地震が起こるなんて本来はあり得ないんだからッ! 他人事のようにこのピンチな状況を語らないでッ!」






 そんな冷静(?)に語るレスクラと何度目かわからないツッコミを続けるリィンリンだったが、そのやり取りはすぐに中断される。




 いきなり転生の座の扉が勢いよく開き、そこに全員の注意が向いたのだ。






 「ここッ! 当たりッ! 見つけたッ! こういう事かッ!? ありがとうッ! 大変だッ! 謎だッ!」






 扉を開けたのは元気ハツラツなサトリマックスだった。

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