間話:アルバイトの誘い
――パチパチと、焚き火がオレンジ色の火の粉を散らす、夜の高原。
満天の星空が頭上いっぱいに広がる寒空の中で、クリムは焚き火に掛けた小鍋を、鼻歌を口ずさみながらかき混ぜていた。
今は、集合予定時間の一時間ほど前。
フレイとフレイヤは、夕飯も満月邸で一緒に摂ることになり、そのため二人は、今は夕飯の材料の買い出しに行ってしまってここには居ない。
集合時間まではまだまだあるため、リュウノスケやリコリスたちもまだ昼食から帰ってきていない。
ハル先輩とスザクは、一緒に外食中だからまだ時間が掛かると連絡が来た。
そんな、集合時間までまだまだ時間のあるこの時点でログインしていたのは、クリムと、あとは共に焚き火に当たっているもう一人しか居なかったのだった。
「はあ、温泉にスキー、ですか」
「うむ、お主ならば、どこか良い場所に心当たりがないかと思ってな」
そう尋ねながら、クリムは焚き火に掛けてあった小鍋をかき混ぜて……十分に温まり、やや端の方がこぽりこぽりと沸騰し始めた鍋の中身をカップに掬い取る。
これは本当に必要なのだろうかという位に、やたらリアルに描写された、その調理過程。
温かな湯気と、美味しそうな芳香を漂わせて胃袋を刺激してくるそのカップは、しかしもう一人共に焚き火に当たっている少女――雛菊へと渡す。
中身は、辛めに味付けされた干し肉のスープ。以前にルルイエでもお世話になった、耐寒バフが付与されるものだ。
これから夜間の探索となるために、流石に日が落ちれば肌寒くなってくる高原を探索するために、皆の分を用意していたものだった。
小学生の雛菊には少し辛いかとも思ったが……しかし、どうやら問題ないらしい。雛菊は小さな口でふうふうと冷ましては一口啜り、はぅ、とほっこりした様子で吐息を吐いていた。
そんな狐少女の愛くるしい姿を、クリムは優しい心持ちで鑑賞していると。
「……で、温泉付きの宿泊施設ですね。お母様に、ちょっと聞いてみるです」
「うむ、ありがとう」
快諾してくれた雛菊に、クリムが頭を下げて礼を言う。
雛菊は、すぐに通話モードを開いて誰かと連絡を取り始めた。おそらくは彼女の母、桔梗だろう。
しばらく話し込んだのち……やがて通話を終えた雛菊が、内容を報告してくれる。
「……お母様の知り合いが、スキー場の近くで温泉付きのペンションを経営しているみたいですね。良ければ声を掛けてくれるそうですよ」
「……本当!?」
「はいです。ただ、丁度お母様のお友達も一緒に宿泊することになる可能性が高いらしいです……というか、そのために知り合いでの貸し切りをお願いしていたみたいですが」
「……それは、我らがお邪魔してもよいのか?」
「はいです、母様が、クリムお姉さんたちなら良いと言っていたので大丈夫です」
なら、いいのかな……と、納得し、頷く。
「では、よろしく頼む。とはいえこちらもついさっきの急な思いつきで、両親の許可を得てからなのじゃが」
「はいです、ペンションの資料は後でお母様から貰ってメールで送っておきますです」
「うむ、ありがとう雛菊ちゃん」
「えへへ……お役に立てて良かったです」
お礼がわりに頭を撫でてやると、嬉しそうに身を寄せてくる少女に苦笑しながら……クリムも、丹念に肉を取り除きよそった自分のスープへと口をつける。
そうして、一息ついたその時……
「それで、その予定はクリスマスの後、年末なのですよね?」
不意に、雛菊がそんな質問をしてくる。
「む? あ、ああ、そのつもりだったのじゃが……」
「それ、年始にまで延ばせませんですか?」
「それは……年越しをそちらでという事かの?」
クリムの疑問に、雛菊が一つ頷く。
「つい今お母様からのメッセージが届いて、せっかくだから少し聞いてみて欲しいって言われたのですが――クリムお姉さんたち、お正月にうちに泊まり込みでアルバイトする気はありませんですか?」
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