作戦会議

 ――激戦の疲労も癒えぬ中、セイファート城内会議室では、いまだ縮んだままのクリムを中心としたルアシェイア連王同盟国首脳による臨時会議が開かれていた。


 議題は、もちろんこちらに戦争を仕掛けるつもりらしい第四勢力の話についてだった。



 ――国家ユニオン対国家での戦争行為には、主に二つの戦闘方法がある。


 一つは、厳格なルールを設けられ、領土の奪い合いが発生する『領土戦』。

 もう一つは、領土の移動は無いが好きな場所を襲うことが可能であり、物資の強奪等が可能な『襲撃戦』だ。


 このうち襲撃戦の方は、性質的にはプレイヤーキラーに近い。防衛の配備を怠ればログアウト中に被害を受けている可能性があるため、今後は警戒を怠るのは危険だろう。


 ――もっとも、クリムたちの拠点『セイファート城』はもはや魔窟である。もしこの場を攻めて来る者が居たとしても、「おいおいアイツ死んだわ」と言われること請け合いだ。


 しかし、他はそうもいかない。特に連王国最東端、竜骨の砂漠に拠点を構える『S.S.S団』はあまり戦力拡張に意欲の無い、どちらかと言うとリュウノスケに近い観光好きの集まりなため、やはり不安が残る。


「ごめんなさいねぇ。出来るだけ頑張るけど、ちょっと私たちだけじゃあ辛いかもしれないから、助力お願いするわあ」

「うむ、連王国盟主として、しかと任された。ひとまずは砂漠に配備する防衛設備を増産しておくとしよう」


 そう、なんだか蛇のような雰囲気の、女性のような話し方をする大柄な男性……S.S.S団団長の『オロチ』という青年に対してクリムが頷くと、早速メニューを呼び出して手続きを進めていく。





 一方で、領土戦の方はお互いの合意によって開始日が決定され、同じ国の領地ならば誰でも参加可能だ。


 領土戦開始日時は、侵略を受ける側がある程度指定できる。これは、人がいない時間帯にログインできる勢力が一方的に有利にならないようにするための配慮だ。


 しかし、布告後三日以上経過すると、今度は侵略側に主導権が移行するため注意しなければならない。


「だが、やはり絶対に勝っておきたいな。そして……」

「うむ、逆に攻め上がり、この砦を押さえておきたいのじゃ」


 フレイの言葉に同意し、クリムが卓上に広げられた世界地図の一角、砂漠エリア隣にある『バルガン砦』という地名の場所へとナイフを突き立てる。


 領土戦のルール内には、侵略された側が勝利した際に続けて相手側に逆に侵攻するのが可能となるカウンターのシステムも存在する。

 クリムたちは、これによって相手拠点……砂漠出口にある旧時代の砦跡エリアを手中に収めたい、とも考えていた。


「とりあえず目下の目標は、この砦を奪取して黒狼隊に領地として与える事じゃな」

「ということなんだが、黒狼隊としては異存あるか?」

「いや、無い。つまり俺らに辺境伯みたいな存在になれって話だろう、光栄な話じゃないか」


 そう、大柄な狼のワービースト族……ギルドランキングにおいて着実に順位を繰り上げ、現在実に五位まで登り詰めた『黒狼隊』の団長であるジェドが、尻尾を振りながら頷いた。


 彼は連王国の中核メンバーであるそんな黒狼隊共々、屈指の戦力であり、クリムも幾度も交戦しその実力を認めている。

 それに彼自身、他のギルドからも『ジェドの兄貴』と呼ばれていて信も厚い。


 つまり彼は、連王国で最も、信頼と実力が求められる国境領土を任せたい人材なのだ。

 クリムは常々、彼に他国との接続領を任せたいと思っていたのだが、連王国の基本方針として『こちらから他国を侵略しない』『仲間の領土を脅かさない』の二つがあったため、今まで叶わずにいたのだ、が。


「じゃが、わざわざ向こうから大義名分が来たのじゃ、この機を逃す手は無いわ、クックック」

「おいクリム、顔、顔」


 思わず「計画通り……!」と言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべたクリムに、フレイのツッコミが入るのだった。




 ◇


「――と、いうわけで。現在は戦端を開く方向で話し合い中じゃ。幸い向こうもユニオン結成後一週間は宣戦布告不可能期間じゃし、攻めて来るまでには猶予はあるが、厳戒態勢となるからそのつもりでおってくれ」


 セイファート城中庭、いつものお茶会の会場にて。


 ひとまずルージュの入れてくれた紅茶で舌を湿らせ一息ついたクリムは、皆に先程の会議で決定した内容について報告する。


 ちなみに、布告不能の期間が設けられているのは、あちこちで共謀し捨て石同然のユニオンを立ち上げて嫌がらせを防ぐため……らしい。

 何にせよ、今回の大規模レイドバトルで消耗した諸々を補充する十分な猶予があるのは、クリムたちにとって非常にありがたい。


 そうして皆、緊張した面持ちで頷く中……一人、緊張の「き」の字もなくのんびり茶を頂いている人物へ、クリムは「おいツッコミ入れろよ役目だろ」という周囲からの圧力に負けて、問いを発する。


「で、だ。何故、お主が当たり前のようにウチで茶をしばいとるのじゃエイリー!」


 そう……テーブルには、しれっとエイリーが混じっており、なぜか居る敵首魁に複雑な表情で茶を淹れているダアトの相伴に預かっていたのだった。


「だって、妾はもうあの場所を塞ぐというお役目も終わってしまったのだもの、自由にしてもいいでしょう?」

「お主は本当に自由じゃなぁ……」


 とはいえ、雑に放り出すのも気が引ける。可哀想というのが二割で、残り八割は何をしでかすか分からなくて不安という理由だが。


「まあ良い、この後はどうするつもりじゃ?」

「とりあえず、力が回復するのを待つわ。今のままで可愛い妾が旅なんてしていたら、色々危ないでしょう?」

「自分で言うな、自分で。それで、寝泊まりの当てはあるのかの?」


 まあ悪魔のお姫様だ、何かツテもあるのだろうと何気なく聞いたクリムだったが。


「……え?」

「……え?」


 そんな風にきょとんと首を傾げるエイリーに、クリムも釣られて首を傾げる。


「……まさかお主、ここに居座るつもりか」

「よろしくお願いするわ、夜の精霊」

「……さよか。勝手にしてくれ」


 ダアトも諦めたように苦笑いしているし、彼女が構わないというならば良いか。もうどうにでもなーれ、と考えるのを投げ捨てるクリムなのだった。








【後書き】

 基本的にはテイムあるいはコストを支払って雇ったNPC以外はゲストであり、戦力にはカウントされません。

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