小さな勝利の女神
――イベントダンジョン攻略組、最前線のボス部屋前。
イベントも残すは二日間ということもあり、すでに大勢が詰めかけている攻略班の中……クリムたち『ルアシェイア』も、その中に合流していた。
「あ、今日はお主ら嵐蒼龍も来ていたのじゃな?」
「ええ、あのマグロ? の相手には不覚を取りましたからね。名誉挽回に頑張りますよ」
そう苦笑しながら曰うシャオに軽く握手を交わしてから、クリムは陣頭指揮を執っているソールレオンの元へ向かう。
「すまんな、遅れたが、我ら『ルアシェイア』もここから参戦させて貰うぞ?」
「ああ、君たちの参戦感謝する、が……」
頭痛を堪えるようにして、ソールレオンがクリムの背後を指差す。
「その……なんだ、その注目を浴びている可愛いのは」
「あー……」
そんな、ジト目で尋ねてくるソールレオンの指差した先には……
「かっ……可愛らしいです、妖精さんですって? ルージュさん、貴女はどれだけ私を惑わせるのですか……!」
「え、あ、ごめんなさい……?」
パタパタと小さな半透明の翅をはためかせ、ふわふわと浮いている30センチメートルくらいの人影を前に、恍惚の表情で熱い視線を向けている『北の氷河』のエルネスタをはじめとした、参加者の女性陣が殺到していた。
そこに居たのは……皆の邪魔にならないようにと気を利かせ、変身能力によって妖精さんサイズまで縮んだルージュ。
その足元では、相変わらず元の姿のヒナとリコが短い手足をジタジタさせ、緊張しているルージュを護るように群がる人々に抗議していた。
ちなみに……男性陣には最初にクリムが「野郎どもは我が妹に無断で近付くでないぞ?」と笑顔で告げたところ、皆遠巻きに眺めているだけになっていた。
「それで、君たちルアシェイアは今日は人が少ないようだが、準備は大丈夫なんだな?」
「うむ……残念ながら社会人の皆は仕事で都合はつかなかったが、大量のポーションを残していってくれたからの」
数日間の有給明けであるサラとジェードは、今日は残念ながら都合がつかなかったが……代わりに『みんなごめんね、お薬作っておいたから使ってね。私も休んで参加したかったよぅ』という哀しげな書き置きとともに、大量の上位回復ポーションを拠点のアイテムボックスへと残してくれていた。
どうやらクリムたちのいない時間に材料を集め薬品を調合してくれていたらしい二人にお礼のメッセージを残しつつ、それら薬品類はありがたく皆で分配して、しっかり持ってきている。
「では……そろそろ向かおうか。皆、己が班の役割分担について、最終確認を済ませておけ」
そう指示を出すソールレオンの声を受けて、一斉に動き出すプレイヤー達。
そんな彼らに向け、クリムの肩のあたりにふわりと浮かび上がったルージュが、緊張気味に口を開く。
「あの……皆さん、頑張ってください!」
勇気を振り絞り、両拳を胸の前で握って攻略班の面々にエールを送るルージュ。かわいい。
その足元では、いつのまに用意したのかヒナとリコが応援旗をはためかせていた。
――こやつら、普段は人型に戻らぬくせに、小技に長けて来ておる……!
ルージュとはまた違うドッペルゲンガーたちの成長にクリムが戦慄する一方で、他の決戦に赴くプレイヤーたちは……
「……聞いたか野郎ども、可愛らしい妖精さんが俺らを応援しているぞー!!」
「「「――うぉぉおおおおおおおお!!」」」
「期待に応えねば、男が廃ると思わんか!?」
「「「――おおおおおおおおお!!!」」」
「立ち塞がる強敵は目の前だ、お前らはどうする!?」
「「「――殺せ! 殺せ!! 殺せぇ!!!」」」
目の色を変えたプレイヤーたちの物騒な鬨の声が、周囲から上がる。
その声にびっくりしたらしいルージュはというと、慌ててクリムの外套の胸ポケットへと避難して来た。
「……ひえ」
「た……頼もしい限り……だな?」
「あっはっは、いや、凄いですねこれは」
流石に迫力に押され、引き気味なクリムとソールレオン、そして何故かバカウケしているシャオ。その他まだ冷静な魔王麾下三ギルドの幹部たちを他所に、ますますヒートアップしていく他のプレイヤーたち。
――こうして、可愛い妖精さんのエールを受けた攻略班のプレイヤーたちは奮起し……この日の攻略は破竹の勢いで進み、ついには最終ボス目前まで詰め掛けることと相成った。
そして、その立役者として引鉄を引くことになったルージュはすっかりと「勝利の女神(妖精さん)」として名を馳せるのだが……それはまた、別の話。
【後書き】
道中の再生怪人たちは尺の都合によりばっさりとカットよー。
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