ガールズ・ゴー・ショッピング

 ――以前、入院中にも訪れた、ショッピングモール。



 宙に皆で遊びに行きたいと伝えたところ、「なら明日も休みだから送っていくよ、僕も本屋へ行きたいし」と快諾してくれて、車で送られて来たのだった。



 ……が。



「ねぇ満月さん、次はこれ、これを!」

「次はこっちね、紅ちゃん!」


 主目的だった、この場所……女性用下着売り場。


 嬉々とした様子で紅の下着を見繕い、試着室へと持ってくるのは聖……だけではなかった。

 もう一人、今日遊びに行くことを伝えたところ、自分もと急遽参戦したのは紅たちのクラスの委員長、佳澄。


「い、委員長、ちょっとそれは可愛いすぎない?」

「大丈夫、満月さんならきっと……いえ、満月さんだからこそ似合いますって!」


 なんだか目にぐるぐる模様を浮かべ、鼻息荒く興奮した様子で詰め寄ってくる佳澄が手にしたのは、やたらフリル過多なゴスロリ系列の下着。


 すっかり興奮した様子で詰め寄る彼女に押し切られる形で、紅はタグに記載されたコードを試着アプリで読み取る。途端に――


「お師匠、可愛いです!」

「お姫様みたいで素敵なの!」


 目を輝かせて品評する雛菊と深雪に、ますます真っ赤になって小さな体を縮こませる紅だった。


「うぅ、いくら視界共有していない他の人には見えないって言っても、恥ずかしいよ……」

「次はこ……」

「委員長、その透けた奴が本当に可愛いと思うなら、先に委員長に試着してもらうからね?」

「……ごめんなさい」


 流石に見過ごせなくなってきたデザインのものが出てきて、ピシャリと紅が警告を出す。

 そうして我に返りシュンとなった後ろ……聖がさっと今持って来た下着を背後に隠したのを、みすみすと見逃す紅ではなかった。





「全くもう……二人とも、雛菊ちゃんと深雪ちゃんも居るんだから良識は守りなよ」

「はーい……」

「すみませんでした……」


 下着の試着を止め、白のブラウスと紺のワンピースを組み合わせたような衣装を翻し、腕組みしてぷりぷりと怒っている紅に……流石に反省した様子で項垂れている聖と佳澄。

 その様子に、流石に後ろの雛菊と深雪も……


「まあまあ、もうそれくらいで……」

「許してあげていいんじゃ無いかって思いますです」


 ……と、紅を宥めていたので、もう許していいかなと肩の力を抜く。


 許されたと察した二人が安堵の息をついたところで……改めて、お買い物が再開される。


 紅のサイズは、採寸の結果やはりAからBへと上がっていた。より女性的な体つきとなったことを果たして喜んでいいものか、紅としては複雑な心境のところではあるのだが。


 だから、隣で「私も、また買い換えないとなぁ……」と紅より二つほどカップサイズが上のジュニアブラを手にして、悩ましい溜息を吐いていた深雪に対し、モヤモヤしたものを感じているなどということは絶対に無いのである。





 ◇


 下着売り場を出た後は、外で待っていた昴と合流し、適当に小物売り場などを眺めて周る、が。


「さて、残り時間はどうしようか?」


 皆の買い物もあらかた終わったらしく、やや遅めに設定した昼食の時間までまだ余裕がある。かといってご飯前に買い食いというわけにも行かず。


「宙さんとの待ち合わせって、あと……」

「一時間後の午後1時よね、ちょっとゲームセンターで遊んでいく?」


 委員長の提案に、パッと手を上げたのは雛菊と深雪。


「はい、私はそれでいいです!」

「わ、私も……!」

「よし、それじゃあゲームセンターで、何かみんなで……」


 そんな会話をしながら、ふと紅が何気なくゲームセンター内の対戦格闘ゲームのコーナーを覗くと……


「あ」

「……げ」


 見覚えのある顔が居て、紅の方を見るなり嫌そうな顔をした。


「君は……スザクか?」

「あー、まあ、そうだ」


 直接の面識のある昴の確認に、対戦台に座っていた見覚えのある青年が不承不承といった様子で頷く。


 対戦台を見れば、以前ここで紅と対戦した青年……スザクの中の人である青年が、ちょうど今、対戦相手をストレートで下したところだった。




 ◇


「……で、君は俺に会ったらボコらないと気が済まないタチなのかな?」

「い、いや、決してそんなつもりは……無いんですけど……」


 ほぼ無意識にコインを投入して乱入した紅を、彼はジトッとした目で睨んでいる。そんな彼に愛想笑いをしながら、紅は額に冷や汗を浮かべていた。


「すまなかったな、うちの紅がやらかして」

「なあ昴、お前私のなんなの……?」


 何故か保護者ポジで頭を下げる昴に、ジト目を送る紅。


 弁明しておくと、本当にギリギリの対戦だったのだ。二本先取で第三ラウンドまでもつれこみ、勝った紅の側もゲージは赤点滅していた。


 だが倒してしまったあとに、紅はやらかしたことをようやく気付いて我に返り、今はお詫びにこうして休憩スペースで缶コーヒーを奢っているのだった。


 しかし……さすが現実世界だと、紅の笑顔というのはそれがたとえ愛想笑いであっても効果覿面であった。


「はぁ……まぁ良い。むしろコレの分は貰いすぎだしな」


 照れからか、若干頬を染めて目を逸らしながら彼はそう言って、恨み辛みは無しだと手にしたブラックの缶コーヒーを軽く振る。


 生憎と、男……それも女性経験の少ない陰キャ青少年は、いかにもお嬢様然とした格好の美少女の笑顔には抗えないサガ、あるいは運命サガなのである。


 それに……現実世界で会うのは想定外だったが、お互い確認しておきたいこともあった。


「それで……そちらには、何か動きとかは? その、ベリアルの」

「いえ……あれ以降、特に何も妨害は無いです。いたって平穏ですよ」

「そうか、やはりそちらもか……」


 深刻な顔をして呟く彼に、紅も顎に手を当てて考え込む。


「……もしかして、もうあのダンジョンには居ないのか?」

「ですね……私達も、そう考えていたところです。あれだけ屈辱を受けたあとですから……きっと、何か大きな準備をしているのでは、と」


 スザクの推測に同意する紅の言葉に、背後の別のテーブルで話を聞いていた皆も頷く。


「次に会った時が、奴との決戦になりそうか」

「はい……多分」


 それは、ゲーマーとしての予感。

 真剣な顔で呟いた彼のそんな言葉に、紅も、はっきりと首肯するのだった。








【後書き】

昴さんめっちゃ居心地悪そう定期。

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