第二層へ
――そうして昼食も済ませ、再びログインしたクリムたちギルド『ルアシェイア』。
ところで……この『Destiny Unchain Online』攻略班はとても優秀であり、ルアシェイアのメンバーが昼食を済ませて再びゲームにログインした時には、すでに有志によって第一層、市街地エリアの探索マップはそのおよそ八割が踏破済みとなり、エリアデータが公開されていた。
……だがそんな攻略速度に反し、第二層、水没洞窟エリアの探索は遅々として進んでいない。
これは絶対におかしい。
何かあったに違いない。
そんな疑念により、クリムたちルアシェイアも、第二層へと踏み込んでいた。
そうして、しばらくした頃……
◇
「ふ、フレイヤ、大丈夫じゃよな、まだ平気じゃよな!?」
「ふぇええん、クリムちゃん早く助けて、気持ち悪いよー!?」
必死にフレイヤの名を呼ぶクリムと、切迫した様子のフレイヤの悲鳴が地下空洞内に響いていた。
コメント:いけませんよこれはえっちすぎます
コメント:公式が病気……
コメント:頑張れ……頑張れ運営……!
騒然となりながらも歓声を上げるコメントたち。
彼らの眼前では……
「ちょ、ちょっと……ダメぇ、そんなとこに巻きつかないでぇ!?」
「や、やだ、にゅるにゅるして気持ち悪いの!?」
午前中、クリムを襲ったヒトデのそれによく似ている、繊毛を備えた無数の触手に全身に纏わりつかれ――身動きが取れなくなっている、フレイヤとリコリスの姿があった。
――事件は、第二層に踏み込んだ数分後に起きた。それまで歩いていた細い通路が、突然左へと傾いたのだ。
それでも、クリムや雛菊をはじめ、ほとんどのメンバーはそつなく回避したそのトラップ。
しかし、元々回避は考慮していないタンクビルドのフレイヤと、そもそも敵に接近しない前提であるリコリスの二人が、突然斜めに傾いだ通路に脚を取られて転落した先にあったのは……無数の触手が蠢くプール。
一面触手の生えたプールに落ちたフレイヤとリコリスは……現在大量の触手に絡め取られ、プールの奥底へと引き摺り込まれつつあった。
くどいようだが、この『Destiny Unchain Online』は全年齢対象のゲームである。あやしげな粘液も、服だけ溶かす謎の強酸も存在しない。
だが……
「や、やだっ、そこ弱っ……ひゃああん!?」
「あはは、やっ、やめて……っ、あははは!」
サラサラな繊毛のたっぷり生えた触手が体を這いずる感触に、身をよじって笑い転げている二人。
そう……非常にくすぐったいのである。
「なんかこれ……この絵面……配信アカウントBANされないか心配なんじゃがー!?」
流石に数が多すぎて払いきれず、クリムの手足にも絡みついた触手を手にした大鎌で切り飛ばしながら、恨み言を叫ぶ。
二人を助けるためにプールを掻き分け進むクリムは、ぐぬぬ、という顔でまるで絨毯のように眼前の通路を埋め尽くす触手を睨みつける。
――ちなみにこのような触手塗れの画面に映すわけにはいかないと、スク水姿の雛菊はリュウノスケのところに置いてきた。
コメント:切実w
コメント:無いとも言い切れないこの絵面
コメント:大丈夫これがアウトなら運営の頭がまずアウト
コメント:それの何が大丈夫なんだ
「いや、流石に公式イベントの配信で公式配信サイトからセンシティブに抵触してBANは……無いだろ!」
「じゃといいのじゃがなぁ……!」
フレイが風魔法によりリコリスに纏わり付く触手を斬り刻み、クリムは手にした鎌で根本から触手を刈り取ると……二人はようやく掴んだフレイヤとリコリスの手を引いて、触手の海から引っ張り上げた。
◇
コメント:酷い事件だったね……
コメント:ここは目に嬉しいだけマシだ
コメント:♂主体のギルドだと絵面が地獄だな……
コメント:視覚の暴力で精神ダメージから体調不良→強制退去喰らったとこあるって話ゾ
コメント:ここの運営はどこに向かってるんですか?
何やら笑えない情報が飛び交うコメントの中。
「ふぇええん、このまま笑い死ぬかと思ったよぉ……」
「よしよし、怖かったのう……なんだか午前中とは立場が逆じゃな、これ」
どうやら本気で怖かったらしく、クリムにすがりついてガチ泣きしているフレイヤ。
クリムはその背を優しく叩いてなだめてやりながら、そんなことを苦笑しながら呟く。
一方で、こちらはちゃっかりとフレイに縋り付き、すっかり真っ赤になって目に涙を浮かべて未だ荒い息を吐いているリコリス側は。
「うんうん、怖かったな、もう大丈夫だぞ」
「ふぅ、ふぅ……お嫁にいけなくなるかと思ったの……ぐすっ」
歳下の少女に対して意識することもなく慰めているフレイに、そんなお約束な泣き言を呟くリコリス。
その反応は、予想外……否、ある意味で予想通りの所から返ってきた。
「……なんだと!?」
「はいはいプロデューサーさん、どう、どう」
「あなた、仕事してください」
「だが、だがなお前、娘の一大事に俺は……!」
何やら激昂して出てきそうになっていたリュウノスケがカスミとサラに押し留められ、騒がしいことになっていた。
すっかり混沌とした状況ではあるが……
「さて……ギルマスどうするー?」
「うむ……ジェード、このプール、焼き払えるかの?」
「はいはい、そう思って火炎弾、用意しておいたわ」
そう、任されましたと水着の上から羽織ったラッシュガードから、両手に爆弾を取り出すジェード。
コメント:待って、その前にまおーさまも滑り落ちて!
コメント:それを焼き払うなんてとんでもない!?
コメント:後生、後生ですから……!
「やかましいわ! ジェードさん、新たな被害を被る前にやっておしまいなさい!!」
「はーい、ぽいぽいっと」
ジェードが花火の玉みたいなその爆弾をポンポンとプールへ投げ込むと、途端に凄まじい火柱を上げて炎上する触手の群れ。どうやら火に弱かったらしく、よく燃えていた。
コメント:ぎゃああああああああ!?
コメント:ああああああああああ!!(;´༎ຶ༎ຶ`)
コメント:これが人のやることかよぉおおおお!?
コメント:いや……まおーさま魔族やし
コメント:そうだったわ
コメント:こんなことってあるかよおおおお!?
「お主ら……本っ当に、お主らという奴らはバカじゃな……!?」
悲痛な悲鳴が響き渡るコメント欄に、クリムはそんなドン引きな呟きと共に、ガチ憐みの視線を向けるのだった――……
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