三人の魔王
――表彰式の配信も終わり、皆が解散となった後。
「……で、我らは何故、ここに居るのじゃ?」
「さあ。特別な用件があるからって残されたけど、なんだろうね?」
「まぁまぁ、ちょっと面白そうじゃありませんか、運営からの特別呼び出しなんて」
クリムとソールレオン、そしてシャオ。
三人は、古めかしい城らしき建物の一室、やたらと長いテーブルが鎮座する部屋へと連れてこられていた。
「ところでクリム君は、まだその愛らしい姿のままなんだね?」
「うっさいわ。まだ暇が無くて血の補給ができとらんのじゃ」
クスクスと笑いながら話を振ってくるソールレオンに、すっかり丈が合わなくなった服の余った袖を振り回しながら抗議するクリム。
その「ぷんすか」という擬音がやけに似合いそうな様子に、ほかの二人が微笑ましいものを眺める目で見てくるため、さらに不機嫌になるクリムなのだったが……直後、新たに入室してきた者が居たために、渋々と居住まいを正した。
「申し訳ありません、お待たせしました」
そう言って出現したのは、赤と銀の色に輝く十字の切れ目が入ったフルフェイスヘルム……顔文字で抽象的に表すなら『[ +] 』と言った感じか……を被った、プレートメイルを纏った、旧帝国兵士姿の二人。
そして、彼らに守られるようにして現れた、旧帝国の文官服を纏う女性だった。
……この『Destiny Unchain Online 』内にて、すでに存在していないはずの旧帝国関係者の格好をしているということは、その人物は
勿論、クリムも存在は知っていたが、こうして間近で見るのは初めてだ。
普段真っ当にプレイしていたのであれば、まず目にすることはないその存在に、三人の間に緊張が走るが……
「大丈夫です、今回は規約違反などの対応ではありませんので」
そう、柔らかく微笑んで告げるイベント担当GMのお姉さんに、皆、ホッと安堵の息を吐く。
「それで、用件なのですが……こちらを」
三人のGMが、それぞれの前のテーブル上にそっと差し出した封書。
「……これは?」
「はい。今回のランキングマッチの結果、優秀な成績を残したあなた方三人に対して我々から特殊な称号を付与することと決定致しましたので、その案内となります」
「案内……?」
妙に仰々しい扱いに、首を傾げるクリム。
称号くらい、今までのものと同じようにシステムメッセージで済ませれば、と思ったのだけれども。
「今回に関しては、受けるか断るかは皆さんの裁量にお任せしますので」
「……うん?」
「その中に、あなたたち三人に運営から与えられる称号が説明と共に記載されています」
促され、封書を取ると……それは手の内でスッと消えて、代わりに新たなウィンドウが一つ眼前に開いた。
「はぁ……『赤の魔王』?」
「私は『黒の魔王』と書いてあるな」
「僕は『青の魔王』だねー」
口々に読み上げた、そんな称号名。
取得条件は、ランキング上位ギルドの『魔族系種族』であるギルドマスター。
そして……ざっと中身を見たところ、イベントや、公式の配信動画を撮影する際などに協力を要請するかもしれない、という旨が記されていた。
「これ……一般プレイヤーから、少し逸脱しませんか?」
あっという間に書類へと目を走らせ、真っ先に一通り目を通してしまったシャオが、当然の疑問を口にする。
「はい……ですので、皆さんに受けるかどうするかの決定権を委ねることになります」
「ですが、私たちは素人。役者ではありませんから、あなた方の希望通り動ける保証はありませんよ?」
シャオのあとを継いで問い掛けたソールレオンだったが……GMのお姉さんは、そうでしょうねと頷いた。
「勿論、難しい演技を要求したりするつもりはありませんよ」
「というと?」
「まあ、基本的にはこの部屋でふんぞりかえって怪しげな談笑をしてもらう程度でしょうかね」
「ああ……『誰々がやられたようだな……』って感じのアレじゃな」
クリムのそんな発言に、ふっと笑って頷くGMのお姉さん。どうやらそんな感じで問題ないらしい。
「あとは……例えばですが、皆さん三人対、他の大多数のプレイヤーによるエキシビションマッチなどには、興味ございませんか?」
「いや……それはさすがに冗談じゃよな?」
そう、苦笑しながら他の二人を振り返るクリムだったのだが。
「……面白そうですね」
一方で……
「それは……なんでもあり、ですかね?」
そんな二人の様子に、クリムの頬がヒクリと引き攣る。
――駄目だ、こいつら
二人とも、相手が何人だろうが負けるつもりなど微塵もないのは間違いない。それこそ
それはもはや、現状考え得る限り最強の武と智の最凶タッグ。
そしてそれは、間違いなく大多数のプレイヤーにとってトラウマになりかねない大惨事となることは……もはや、クリムの中では明白だった。
「いかん……我がなんとかせねば……」
ブレーキの壊れた……あるいは最初から踏む選択肢がぶっ飛んでいる魔王二人。
そんな中で一人、クリムは自分が制動役にならなければならないと、この時点で悲壮な覚悟を決めたのだった。
「あと……もう一つ聞いておきたいのじゃが」
「はい、なんでしょうか、クリムさん?」
「我ら『ルアシェイア』は、『北の氷河』や『嵐蒼龍』と違い……所詮は一つの町と森を有している弱小ギルドなのじゃが、分不相応ではないかの?」
片や、大都市を有する巨大エリアを支配下に置いた北の氷河。
片や、東で複数エリアを支配し、東海商事という生産や流通に携わるギルドと同盟し一大勢力を築いている嵐蒼龍。
その二つと比べると、ギルド規模としてはどうしても見劣りするのがルアシェイアだ。
……もっとも、今回の暫定ギルドランキング決定戦でルアシェイアは、何故か他の決勝参加ギルドと比較しても段違いに大量の評価ポイントをゲットしている。
これは領地開発に必要なポイントであり、それがクリムたちも驚愕するほどに潤っていた。おそらく今最も懐の温かいギルドでもあったりするのだが。
「その件ですが……あなた方が拠点としているエリアが『泉霧郷ネーブル』である時点で、他の二つのギルドと比べ劣るということはないと思いますよ?」
「……ん? それはいったい……」
「ネーブルに、随分と意味ありげな建物があったでしょう……
GMのお姉さんが語る意味深長な言葉に、クリムは思わず、うげ、と変な声を上げる。
いや、本来であれば喜ぶべきことなのだ。
ただし、戦力を自前で揃えられるのであれば。
そして……それが自分の領土にあるのでさえなければ。
「えぇ……それってレイドダンジョンじゃ……」
「さて、どうでしょう?」
思わず呟いたクリムに対し、悪戯っぽく笑いながら返事をするGMの女性。
彼女は、チラチラとクリムとソールレオン、そしてシャオの三人に視線を送りながら、面白がっている様子だった。
――
逆に言うと、そこまでしなければならない場所であるということ。そう当たりをつけ、ゴクリと唾を飲む。
「でもいいんですか、情報をくれるようなことをして……その、公平性とか」
「はい、私、イベントGMですから」
――ああ、ところどころで情報をポロリするのもお仕事なんだ。
このゲームのフィールドは異常に広いから、そうでもなければ埋もれるダンジョンもあるのだろう……と、とりあえず納得しておく。
「もしかして、NPCの中にGMが紛れていたりとか……」
「……ふふっ」
今度は返事はなく、彼女はただ、曖昧に笑うだけだった。クリムは……怖くなって、追及をやめた。
「では……御三方とも、受けてくださるということで?」
そう、念押しする彼女に……
「はい、私は構いませんよ」
ソールレオンは、にこやかに首肯する。
「ええ、僕も拝命致しましょう。面白そうですし」
シャオも、愉しげに笑いながら頷いた。
となれば、絶対に放置したら暴走するであろう彼らのストッパーは必ず必要になるわけで……
「分かった、我もやる……」
最後に、ガックリと消沈しながら頷いたクリムなのだった――……
【プレイヤー名『ソールレオン』が『黒の魔王』の称号を取得しました】
【プレイヤー名『シャオ』が『青の魔王』の称号を取得しました】
【プレイヤー名『クリム』が『赤の魔王』の称号を取得しました】
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