Ver2.1「京都戦争」(後半)
サブストーリー 「鬼切」
第1話 伝説の剣
京都には古代に建立された数多くの神社が残っている。いつ、何のために建てられたものか、その記録はほとんど残っていない。あるいは残っていても公開されていないこともある。
そして、仏や神に関わる建物には呪術に関する伝説がつきものであり、至宝や厄介なものが封じられているという話も多い。
いずれにせよ、一般人にとってそれら建物は神秘の力が存在する特別な聖地の一種という認識であり、普通には近寄り難い特別な遠い存在であることに違いはない。
「お待たせいたしました」
北野天満宮を訪れた安住を迎えたのは、今この地を管理している神官だった。安住は軍からの正式な要請をうけて訪れた客ということもあり、迎えた神官も立場が一目で分かるしっかりとした姿だった。
「軍より話は」
「ええ。聞いています。そしてあなたが何を求めに来たのかということも」
「すぐに渡してもらおう」
「この場に持ってこれるようなものであれば、直接届けております。どうか中へ」
「――そうか」
普段とあまり表情を変えていなかったが、安住は内心緊張していた。
安住はサキと戦うには弱すぎる。人間の中では上澄みの戦士であることに間違いはないのだが、サキはもはや神と戦うつもりで挑まなければ驚異的な神秘の力で歯が立たない。
(上層部の許可は既にとった。だが俺の勝ち筋の1つ目、ここを用意できなければもう終わりだ)
安住の勝利条件。天空都市決戦での戦いを考えると厳しい条件も含めている。
1つ。神秘の力を持つ妖刀を使えるようにすること。
2つ。十二天将を単独で倒す実力をもつこと。
3つ。天空都市での戦いで、安住を万全の状態でサキに挑むこと。
4つ。戦いにおいて邪魔が入らず、エキスパート以上の援護隊員を4人以上で挑むこと。
安住にとって一番の難題はそのうち1つ目。他は無理難題ではあるがもうやるしかないと割り切れるものの。これだけは自分の努力だけでは見えない部分も多い。
自分を迎えた神主に安住は案内の途中で尋ねる。
「宮司は渡すことを承諾したのか?」
「既に剣の前で待っています。しかし、何があるかわからないので安置する場所から取り出した際は監視する必要があります」
「そうか。それで」
「ご心配には及びませんよ。天空都市で戦う。その件は知っています。人間が勝つためにどんな手も使わなければならないことも。これでも元御門家の呪術師なので」
「なるほど。話がはやいのは俺としてはありがたい」
木製の大扉の前に案内された安住。案内役は後ろで告げる。
「こちらです」
「……安置所か?」
「いえ。宮司がこの先に結界領域を展開しています。妖刀になにかあったときに備えてのことです」
「挨拶の文言は考えていたが必要なさそうだな」
「では、お気をつけて」
安住は迷わず扉を開けた。
目の前の光景を見て。確かに先ほどの言葉が信じるに値することを確信した。
「なるほど」
木の板の床はどこまでも広く奥まで続いている。壁に灯る炎が灯り、何とか視界は確保できている。
安住の目には、剣を持った1人の男が立っているのが見えている。
(あの剣が)
北野天満宮には鬼切と呼ばれる鬼を斬った伝説の妖刀が保管されている。
(――概ね、何をすればいいかは理解できた)
安住は剣を構える。
「その通り」
全身が真っ黒な人間が手に目的としている妖刀を持ち、安住の戦闘意欲に正解だと告げる。
「神秘の具現を斬るのならば、それにふさわしい資格を見せよ。どのような方法でも結構。失望させさせなければ」
鬼切を構え、安住が息を吸う一瞬で15メートルほどの距離を詰めてきた。
最初は突き。
安住はそれを見切り入れ違いに腹を斬ろうとしたが、その動きも相手は見切っていた様子だった。自分の攻撃をものともせずに背後を狙う剣を受け止めた。
(剣速は何とか追える……!)
相手の猛攻を数撃捌き、爆動で相手から距離を取りながら〈空割〉による拡張斬撃を仕掛けた。
相手も同様。
安住の空割は相殺によりすぐに破壊され貫通してきた相手の斬撃が安住に飛んでくる。
(妖刀の力は流石に止めきれんか)
次々に飛んでくる攻撃を回避しつつ、射撃攻撃でけん制をしたものの、その攻撃は届かない。
鬼切の持つ神秘が大したことのない呪力を寄せ付けないように逸らしてしまっている。
「剣で戦うことを推奨する」
「気遣い感謝する。だが試さずにはいられんのでね」
「構わない。私は失望さえしなければなんでも良い」
次の攻防が始まる。
飛んでくる斬撃をくぐり抜け、安住の一撃の空割と呪術が鬼切の主への道を拓く。安住の必殺を狙った鋭い一撃を軽く弾き、再び剣戟が響く――。
安住が扉から出てきた。
「大丈夫ですか?」
「……いや。手ひどくやられた。左手が飛びそうだった。今日は一度撤退することにする」
「宮司より、言伝を預かっています。あと一度、万全の状態でダメなら違う使い手を持ってくるかあきらめろ、とのことです」
「……まあ当然の反応だな」
「いえ、これでも健闘していますよ。普段、宮司はこのようなことを言いませんから」
安住はこの日、鬼切を手に入れることができなかった。
「また来る。用意ができたら連絡する」
「かしこまりました。お気をつけてお帰りください」
気遣いの言葉にうなずくと、安住は剣を手に入れるための儀式の攻略法を考えながら歩き始めた。
御門家のあやつる式神には新たな主を得る際に、式神に認められる必要がある。
「同じようなことがまさか剣でも? 驚き」
安住は学校に来ていた。学校は後日の合同訓練があるため、運営担当の生徒が忙しそうに走り回っている。しかし安住はそれが目的ではなく、自分の背中を生意気にも叩いた生意気な男に会いにきたのだ。
先ほど台詞はその生意気な男、今は女の姿になっている夢原礼のものだ。
「でも、まさか……」
「付き合ってくれ」
その時、周りにいた生徒の何人かがこちらに注目してきた。
残念ながら前後の文脈を聞いていない人が今のやりとりを聞けばこう思うだろ。
安住は夢原礼に告白した!
「ちが、ちがう! 違うから!」
周りの誤解を何とか解こうとするが、顔が赤いのでにやにやしながら去っていく人物も……。
残念ながら礼の新たなよからぬ噂は確定してしまった。これも美少女の悲しき運命というものかもしれない。
「なんだ、断るのか。あれだけ大口をたたいておいて後は自己責任とは」
「うぐ……そっちもあまり気は進まないけど……!」
礼も大口をたたいたことは覚えているし、復活した安住に強力するつもりだと返事はした身分。
「分かった。でもいいのか? 儀式は1人でクリアする必要とかないの?」
「ああ。そこは心配していない。どのみち1人では勝てん。剣は絶対に必要だ。奪い取るためなら手段は選ばん。向こうも1人でやれとは言っていなかったしな」
安住が1人ではどうにもならない相手。
礼はまたも『ヤバそう……』と心の中でつぶやく。ここ最近自分に降りかかる試練の数々にいよいよ不運を疑いたくもなった。
(第2話 神秘をたつ斬撃 につづく)
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