第3話 人間に情けをかけることは死罪に値する

「きょう君たちの護衛を手伝ってくれる人だよ」


 クロハさんが俺とレイを紹介してくれた。


「よろしくお願いします」


 率先して俺たちに挨拶をしてくれたのは、ボブヘアで少し大きいと印象を受ける目の瞳が紫の女性。ワンピースを着ているのはおしゃれの一環だろう。


「こっちが前に話した伊東が逃げてきたお嬢様。マキって呼べばいい。その後ろにいるのが彼女の大切なお人形」


「クロハさん? その言い方はやめてくださる? マミは大事な私のもの」


 後ろに控えている子は、髪型はこっちの方がお嬢様っぽいような。三つ編み、高そうな服、立ち姿はキリッとしていて整っている。


 似た雰囲気は知り合いのお嬢様たちから感じたことがある。……まああいつらは普段はそう見えないほどの軍人気質でもあるからな。


「マミです。よろしくお願いします」


 一瞬、俺への敵意を感じた。こういうところも知り合いの暴を併せ持つお嬢様たちにそっくりだね。


 ん? 腕輪が見えた気がするけど、気のせいだよね……?


「よろしくお願いします。マキさん。マミさん。お邪魔はしないように少し遠くで見ていますので」


 レイが率先して挨拶してくれた。俺はうんうんと頷き、続けて同じ意気込みであることを示した。


「こちらの私的なお買い物が済みましたら、ぜひその後一緒にお茶しましょう。それまでは少しお待ちくださいね。クロハ様、では私たちは既に伝えた通りの道を行きますので」


 手をつないで仲睦まじそうに歩いていく。


 俺たちのやるべきことは他の人が怪しまないようなふるまいと適度な距離を保ちながらついていくことか。


「ん……彼女たちの次の行き先にはもうまもりが行ってくれている。私たちはその次の目的地の下見からにしよ」


 ああ、確かに行き先で何かあったら大変だしな。


「慣れているんですね?」


「……いつもやってるから。この程度の温いお守りなら、伊達のころに比べてはるかにイージー」


 クロハさんは歩き出した。俺たちは次の行き先は知らされていない。ここはついていくのが吉だろう。





 今回のお買い物コースは、クロハさんの話によると、お買い物をいっぱい楽しむコースなのだそう。


 このストリートには外とまだつながっている逃亡者にとっての敵がいるかもしれない。その手の輩が万が一行動を起こしたときに護衛対象の2人を守るのが俺の役目。


 なのだが……。


「ここは、どういったお店で?」


「外の武装を密輸入してここで販売してる」


 うへぇ……ウラの名を冠するだけあってヤバい店もあるんだな。


「こんなところ来るのか?」


「私もたまに来ている。軍の武器で普段は事足りるけど、私にとって使い慣れた武器の半数は外の技術をつかったもの。まあ私が武器を買いに来るのに対して、お嬢様が買いに来るのはガチの武装じゃなくて別の」


 学校でもあまり見たことがないものが揃っている。『エネルギーコアG12プロ』という名前の球体をクロハさんは触っている。


 取り扱い説明書を見る限り……なんか難しいことが書かれているな。かろうじて分かることと言えば、これは機械兵の動力源にも使われるとか。


「伊達の戦士は基本的に機械武装を使う。そのエネルギー源はこういう電池だよ」


「人間からエネルギーを奪ってるのかと思ってたぞ」


 前に機械兵に人間を埋め込んで改造していたところを見たことがある。その光景はあまり思い出したいものじゃない。


「そうだよ」


「そう……は?」


「これは人間から奪った呪力を自分たちが使いやすいエネルギーに加工したものだもん」


 おっかないものを売ってるなぁ!


「伊達家が作る武器はこれがないと動かないものも多い。私の奥の手もこれが必要だし」

 

 店内をもう少し歩くと、今度はボトルがいっぱいあったので、飲み物か水筒か、とも思ったのだが商品名は見たことがない。


「……まずいよ?」


「そうなの?」


「それは神人がテイル、じゃなかった、呪力を回復するためのものだからね。人間にはできて神人にできない数少ないことの1つは呪力の自己回復。それは君にとっては既知のはず」


 学校の授業でも話題にあがることだな。故にあいつらは人間を下に見ていても安易に絶滅はさせられない。呪力の喪失は精神の枯渇となり二度と目を覚ますことができなくなる。


「この街にいる神人は、こういう場所から生きるため、使うための呪力を買って暮らしている。お嬢様にとってはこっちが本命」


「そりゃウラにしか売ってないわけだ」


「こういうの、この商店街でしか売ってないから不便」


 そりゃ表では売れないよこんなの。


「でも、店ができるくらいには、逃げてきた人ってのは多いのか」


「そうだね。特に、伊達、伊東、細羽、山崎についていけなくなった亡命者は割合として結構いる。天城は最近減ったね。八十葉はそもそも御門と同盟領だからこっちに感嘆に移住できるし」


「逃げるってことは生きづらいんだよな」


「まあ、どこにでもいるよ。社会の当たり前に懐疑的になったり、そこの法のせいで不利益を被ってしまうかもしれない人。あの2人もそうだった」


「あの2人は何になじめなかったんだ?」


「あの人形は人間なのはわかるでしょ? あれを可愛がってたからだよ。家族に密告されて、あのお嬢様は罪人となり死刑を宣告された」


「はあ? 百歩人間嫌いだとしても、人の……まあこういう言い方をするのも良くないけどさ。人のものを大切にしてるだけでなんで罪になるんだよ」


「人間にに情けをかけることは死に値する伊東への裏切り行為とみなされる。1つの例外なく死刑」


「そんなに人間が嫌いなのか」


「地雷ワードだね。連中にとって君たちはこの世で生きてはいけない悪。『嫌い』という言葉で評価すること自体下等生物が上位生物への不敬である。彼らの目的は悪たる人間なき神人の世を達成すること。いずれ最後の欠点を克服し、人間を絶滅させる」


 それで、逃げるしかなかったのか。


「大変なんだな。外の世界って」


「私から見れば命の危機に一番鈍感で、かつ平和ボケしている気持ち悪い種族が京都の人間」


「唐突にひどいこと言うね」


「失敬、失言だった」


 レイは何か思いついたみたいで、唐突に握りこぶしを顎におく。これは緊急ではないことを考える時の合図だ。


「どしたの?」


「神人の御門家はどうやって呪力を供給しているのでしょうか」


 たしかに。


「彼らは数が多いし日々戦いで相当量の呪力を減らしているはずです。回復方法は。家業の維持に問題がありそうなものですが」


 ふと嫌な考えが浮かんだ。まさか御門家が人間の新人を雇う理由って……!


「……あほ」


 厳しい一言。クロハさんはどうやら俺が考えたことを察してしまったらしい。


「式神には呪力を集める力がある。それを主に渡すことで回復できる。と公式発表がある」


 式神……じゃあ円はいつもどうしてるんだ?


「しらなかったの?」


「ぐぅ」


 この疑問はクロハさんの呆れ顔を受け横に置くことにした。


「話を少し戻すけど、クロハのお姉さんは姉貴に惹かれたとして、伊達を捨てるだけの理由があったってことだよな。さすがに姉貴のカリスマだけで裏切ったりはしないだろ」


「さあ、それは不明。私に残されたのは結果だけだったから。姉が裏切って夢原希子についたって」


「何を言ったんだかな。ちなみにお姉さんとクロハは仲良かったの?」


「まあ、悪くはなかったと思う。だから、私が嫌いになってどうしても逃げたかったとか、じゃないことを祈願」


「それはないと思うけどな……」


 クロハさんに連絡が入る。


「そろそろこっちに来るって」

(第4話 ウラ商店街に似つかわしくない人間来る につづく)

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