第2話 悪霊の生まれ方
真っ暗の部屋に、ゆらゆらとした火を明かり代わりに灯して不敵な笑みを浮かべているとんがり帽子の女性。
うん、魔女である。
「やあ、ごきげんよう。お嬢様の伴侶様。うん。うんうん! かわいーねー!」
かわいい言うな!
ひ、魔女がこっちにやって来る。目をカっと見開きながら俺を獲物のように狙っている?
「大丈夫。痛いことはしないよー」
帽子がなくても長身で俺よりすごい存在感を持つ彼女が俺の頭をなで始める。
「おーよちよち」
まさか……俺のこと小動物扱いしてないか?
「あ、あのー」
「私のことはアシャと呼んでくれ。抱きしめていい?」
「嫌です」
「あら? おねーさん怖いー?」
もうしゃべり方が小さなペット見たときの反応なんよ。大門も見ていないで助けて。
「みこれいになんかすんじゃねえぞ」
「しないよ。さすがにお嬢様の伴侶に眷属に染め上げたりペット化のおまじないとかしたり、そんなのしたら灰すら残らず消し炭にされてしまう」
おいおいおいおい、この人今おっかないこと言わなかったか?
「早く本題に入ろうぜ。俺に忌み子の真実を教えるって言ってもわざわざどこに行くんだ。俺の足を治したからには出かけるんだろ?」
「確かに。長いこと病室ではしゃいでたらさすがにバレそうだしね。君の言う通り本題に入ろう」
ふう、離れてくれた。なんなんだこの人。
しかし、大門は気づいているのだろうか。この人は、たぶん真白さんに匹敵する呪力を持っている。『瑠璃』も恐るべき相手だったけど、あの野郎が可愛く見えるほどとは。
魔女はぱちんと指で音を発生させたら、目の前に『影』が使っているものに似ている黒い穴が発生する。つまりあれを使ってここから移動するってことか。
いやいや、ここは軍の要塞の中はこの前の襲撃の後から外敵対策を強化したって言ってたぞ? どうやって穴をあけてるんだか……。
「なあに心配しないでくれ巫女。今回君には危害は与えられないよ。少し危険なのは大門君だろうが、本人は覚悟のうえだ。止めないでやってくれ」
大門が怪訝そうな顔で穴の先を見ようとしたがどうやら見えなかった様子だ。
「今からどこ行くんだ?」
「大門君の秘密を語るにはここでもいいが、せっかくの機会だ。根源を知るにはまず、ふさわしい場所に行こう。君たちはこの世界の悪霊がどのように生み出されてるのかを知っているかい?」
まさか……見れるのか?
それは数多くの、特に俺の部活の特別顧問であるアクマ眼鏡先生がずっと研究しているテーマだ。今も悪霊研究者が追い求める京都の最大の謎の1つだろう。
それを急に見せてあげるよとか言われたらびっくりするに決まってるだろう。
まあ見たいけどさ。
「行こう。ただ危ないから私から離れてはいけないよ?」
勝手に穴の中に入っていった。
「ついて来いってことだよな?」
「たぶん」
俺と大門も恐る恐るその穴に一緒に入った。とりあえず同時に足を踏み出して突撃した。
真夜中ではあるのになぜか周りがはっきりと見える。
空には怪しく光る赤黒い太陽のようなもの。そしてこの街のような光景。
これは間違いない。
「ここは、前に来た……」
「京都か?」
「ここは私たちの魂の拠点のようなものだ。まあ、あの世にある街のようなものだと思ってくれ。この世界なら悪霊がどのように生まれ、向こうの世界へと行くのか見ることができる」
やはり人の気配がある。外を出歩いていないだけでいっぱいいるな。
「ところで君たちは式神がどうやって生み出されているかは知っているかい?」
炎雀さんの近くにいる朱雀とか、円の近くにいるあの猫、いや黒豹かあれは。
「イマジナリーフレンドって知ってるかい? 自分にしか見えない想像上のお友達。式神というのはそれが現実に現れたものなのさ。だが想像上の友人ってのはやはり人が想像できる範疇の姿をしているんだ」
つまりあれらの偉い式神も昔の誰かが想像で生み出したフレンドという?
「悪霊というのは、神の核が同じことをやっていると思ってもらっていい。ほら、そこ」
大きな呪術紋様が地面で光っている。さっきまではなかったはず。
その紋様からぬるぬると黒い球体が浮き上がる。卵?
その予想は正しかったようで、ポンというやけにポップな音がしたと思ったら。
――そこから3メートル近い大きさで、金属質な体と真っ黒な肉でできている二足歩行のデカいヤツが現れた。人型か、と言われればちょっとそうは言えない。顔があるはずの部分が真っ黒な球体になっている。
「ムム、ムムぁ。イカネバ」
ゆっくりとどこかへと歩き出してしまった。どこへ行くんだろう。
「まあ、他の方法で生み出される式神もあるんだが。今回これを見せたのは、今日の主題に関係があるからだ。察しがよければもう分かるかもしれないね?」
「ははは、おいおい。まさか俺がさっきのと同じように生み出されたってか? 冗談きついぜ」
そうそう。だって大門は人間……。
おや?
おい。なんでアシャさんはニコニコしながら大門を見ているんだ。まさか。まさかだよな?
「正解」
「は?」
3秒、大門、いや俺も言葉を失った。
「嘘だろおい」
「君は悪霊の類だ。君はあれと全く同じというわけじゃなくもう少し特別な事情があるだろうが。でもたぶん原理的には同じだろう」
ええぇ。ぇえー……?
「『忌み子』。大門君にとってそれは誹謗中傷だったかもしれないが人間たちの感覚は当たっていたということだね。人間が自分たちの罪の象徴たる悪霊を見て気持ち悪がるのは不思議なことじゃない」
ふ、普通に人間に見えるけど……。
「俺、人間だよなぁ?」
「うん」
いつもはどんな敵が出てきてもひるまない大門だけど、自分の真実を聞かされ、
「マジか。マジかよ。俺はバケモンの仲間だったのか。だが、そう言われた方が嫌悪感にも納得できるが、いやなんかなぁ」
と、珍しくうろたえている。
俺たちが驚いた後見つめ合っているのが滑稽だったのか、アシャに笑われてしまった。
「あれについていこう。あの悪霊の行く末は私があの紋様に少し細工をして定めておいた。私たちの見たいものを見ることができるだろう」
「おい、ついて行って見つからないのか?」
「大丈夫さ。私は小細工が得意だと言っただろう。見つからないようにする、というのは朝飯前さ。安心しておねーさんに任せてくれよぅ」
うわ、撫でるな。いつの間に俺の近くに。
「――みみはやし――ぉりにししたいなぁ。でもお嬢様にブチ切れられると後が怖いしなぁ」
全部は聞こえなかったけどなんかよからぬこと言ってないかこれ?
「みこれいに変なことすんなよ?」
「もちろんさ、あははは」
怪しいなぁもう。
ついていった先では珍しい光景があった。悪霊同士が戦っている。
周りの建物が壊れてもお構いなしだ。果敢に人型悪霊に勝負を挑んでいるが、悪霊というのは人型に近い方が強いという定説通り、より異形な先ほど生まれた悪霊は劣勢な様子だ。
「おやおや、瞬殺されていないとは出来がいいね。なら少し手を貸してあげようかな?」
「そこまでしたらバレるだろ!」
「大丈夫だよ大門君。君も見た目に反して心配性だな。さっきも言っただろう、安心して任せてってさ」
人型悪霊を指さす。別に指先からビームが出るとかはなかった。
なかったはずなのだが、人型の方が動けなくなった。そし先ほど生まれた異形は人型悪霊を真っ二つに切り分ける。
この女、何をしたんだ……?
「ここからが注目ポイントだよ?」
あ、はい。言う通り注目。
人型悪霊が消える前に、そこに覆いかぶさり、悪霊から漏れ出た残存呪力をどんどん吸い、肉体にかぶりついているように見える。
ちょっと生々しすぎて気持ち悪かったが、目を離してはいけない理由はその後に訪れた。
ちょうど食い終わったころに、悪霊の姿が変化する。
体が少し縮み、人としての完成度が増したような気がする。特に頭がさっきただの球体だったが、頭部だと分かるパーツに置換された。
「ア。あー。ふう。もうヒトいキか?」
そうして悪霊はまたゆらゆらと歩き出す。
「あれは、悪霊を食った、とでも?」
「その通り。生まれたばかりの悪霊はああしてどんどん自分を強化していく」
「てめえ、まさかとは思うが」
魔女は何のためらいもなく、
「そう。君が強くなる方法はあれと同じさ。食って、成長する。どうだい? 単純だろう?」
と自信満々に大門に語り掛ける。
そんなの――、
「うげぇ。本気かよ……」
いくらグルメな大門でも、『無理』という顔になるのは当然だろうな。
(第3話『なりふり構っている余裕があると思うのかい?』につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます